蒼井優 「星のや軽井沢」の豊かな森で考えたこと【後編】
旅先を選ぶとき重視するのは、どんなこと? 清々しい緑、おいしい空気、鳥のさえずり、太陽。心も体も元気になれる食事があれば、なおうれしい。緑のなかで、のんびりと過ごす時間が好きという蒼井優さんと〈星のや軽井沢〉を旅しました。
自分で考えて、選び取ること
自然といい選択ができる自分でありたい
人にとって便利なものでも、必ずしもそれが自分に当てはまるとは限らない。蒼井さんのモノ選びは慎重で、冷静だ。
「考えるきっかけをくれたのは洋服を売る仕事をしている友人。彼女が『ファストファッションには楽しい部分もあるけれど、簡単に捨てられちゃうという問題もある』と。『一着一着、大切につくられた服がどんな過程を経てこの姿になったのか、どこに誰の才能やセンスが込められているのかを想像するのがファッションの楽しみなんだ』という意見を聞いて、自分も5年、10年と愛着を持って大切にできる服を選んでいきたいなって思うようになりました」
友人との何げない会話のなかで自然や環境について意見を交わすことも少なくないそう。
「環境を守らなきゃ、みたいな堅苦しい感じではなくて『あそこの野菜おいしいよ、無農薬で育ててるんだって』 『へえ、じゃあ私も買ってみよう』とか、そういう感じです。絶対に無農薬じゃないとダメということではなくて、食べてみておいしかったら、また買う。実際、ていねいにつくられた食材っておいしいですしね」
いつも心に留めているのは、 「環境にいい」 ということを人に押しつけてしまわないこと。
「世界にはいろいろな人がいて、それがいいとわかっていても100%その選択ができるとは限りませんよね。私だってそうです。大切なのはその気持ちを持っていることで、余裕があるときに、自然と手がのびるという状態がちょうどいい。その頻度が増して、徐々にスタンダードになっていけばいい。そうすれば自分のお金も環境をよくする流れに乗って、何かの助けになるかもしれない。そんなふうに誰もが無理なく、自然体で世界をよくするお金とのつき合い方ができるようになったらと思っています」
持続可能なリゾートの形とは?
〈星のや軽井沢〉が目指す未来
〈星のや軽井沢〉は全国展開する星野リゾート発祥の地。前身で、1914年に開業した〈星野温泉旅館〉では、敷地内を流れる川を利用した水力発電を行うことで電力の8割を自給。
現在もそのシステムは受け継がれ、加えて温泉排湯熱と地中熱を組み合わせ、ヒートポンプで活用する仕組みを導入している。そうした自然エネルギーで賄われるエネルギーはホテル全体の使用量の約7割というから驚く。
蒼井さんも目を輝かせていたホテル敷地内のせせらぎは、じつは水力発電システムに欠かせないもの。環境への負荷軽減の取り組みが、同時に美しい景観と健全な生態系を生み出している。
客室の屋根には外気を取り込む小屋根、「風楼(ふうろう)」 を取りつけ、夏場の冷房使用量を軽減。ホテルで出るごみは28種類に分別して再資源化。生ごみは提携する牧場で堆肥化し、畑の肥料や牛小屋のクッション材などに利用される。そうした農家がつくる作物をレストランで提供するなど徹底した資源の循環を推進している。
隣接する「野鳥の森」では、動植物のプロガイドが所属する〈ピッキオ〉によるエコツアーを開催。季節の野鳥を観察するバードウォッチングや野生のムササビ観察などを通して、自然を守りながら、それを持続可能な観光資源として活用するというエコツーリズムをいち早く取り入れてきた。
自然と共生できるリゾートの形とはどんなものか? 〈星のや軽井沢〉は、常にその答えを探して進化し続けている。
PROFILE
蒼井優 あおい・ゆう
女優。1985年福岡県生まれ。1999年、ミュージカル『アニー』でデビュー。2001年、『リリィ・シュシュのすべて』でスクリーンデビュー。18年、『彼女がその名を知らない鳥たち』で第41回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞。2020年10月公開の黒沢清監督作品『スパイの妻』でも主演を務め、高い評価を得た。
星のや軽井沢
長野県軽井沢町星野 ☎︎ 050-3134-8091 (星のや総合予約)
●情報は、FRaU SDGs MOOK Money発売時点のものです(2020年11月)。
Photo:Norio Kidera Styling:Setsuko Morigami Hair & Make-up:Taeko Kusaba Text & Edit:Yuriko Kobayashi Cooperation:Hoshinoya-Karuizawa
Composition:林愛子