マヂラブ・野田クリスタル「芸人が食っていけるジム」をつくる
人の数だけ価値観があるように、社会課題における着眼点やできることも人それぞれ。多方面に点在する無数の課題を解決するには、多様なアプローチが欠かせません。ひとつのゴールを目指し、自分ならではの視点でアクションを起こす――。その内側に秘められた、お笑いコンビ「マヂカルラブリー」野田クリスタルさんの思いを伝えます。
健康な体づくりの第一歩
運動習慣を身につけるジム
世界的に見ても長寿の国・日本。しかし寝たきりの人が多いことが指摘されており、健康寿命を延ばしていくことが重要な課題だ。健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活ができる期間」のこと。健康的に生きていくために、いまできることのひとつが「定期的な運動」だ。
マヂカルラブリーの野田クリスタルさんは筋力トレーニングに熱中し、2021年、東京・新宿に自身の名を冠したクリスタルジムをオープンした。トレーナーは吉本興業に所属する芸人やタレントたちだ。野田さんは、一人芸を競う「R-1ぐらんぷり2020」で優勝。コンビでも「M-1グランプリ2020」の王者になるなど、お笑い芸人としては頂点をきわめ、バラエティ番組でも活躍。独学でプログラミングを学び自作のゲームをリリースするなど多才ぶりまで発揮している。そんななか、なぜ「ジム」なのか。
「芸人で筋肉をつけている人がやたら多いんですよ。なかやまきんに君さんや品川庄司の庄司(智春)さんの影響もあって、筋肉ムキムキの人が愛嬌があると思われるようになってきたんです。だから吉本の芸人養成所、NSCにも筋肉がついた人がたくさん入ってくるようになった。この筋肉芸人たちが、インストラクターを務めたら、よいジムができるんじゃないかと思いました」
最近では、メイプル超合金の安藤なつさんがクリスタルジムでトレーニングをして14㎏の減量に成功。効果は折り紙つきだ。
「トレーナーの筋肉芸人たちは、ボディビルの大会でよい成績を残している人も多く、実力派が集まっているんです」
もともと運動をしていなかったというお客さんも多く、幅広い層にトレーニングの間口を広げることにも貢献している。
「芸人に会いたくてジムに来てみたというお客さんもたくさんいます。最初は有名な芸人を指名していても、だんだん筋トレにハマっていって、よりマッチョな芸人の本格トレーニングを受けるようになり、パワーリフティングの大会に出ると頑張っている人もいますよ」
芸人が筋トレにハマるのはなぜなのか。
「わかりやすく結果が出るからではないでしょうか。体重が減ったり、筋力が向上したり、見た目も変わったりする。芸人の世界では、どんなに努力しても必ずしも結果がついてくるとは限らない。でも筋トレはやればやった分、体に現れる。それが面白いんだと思います」
痩せ型の体型から筋肉をつけて15㎏も増量したという野田さん。自身が感じている運動するメリットについて教えてもらった。
「まず体力がつきました。過酷といわれるロケでも疲れたと感じることがほとんどありません。みんなが僕のようにムキムキに筋肉をつける必要はないと思います。けれど運動不足では筋肉は凝り固まってしまいますし、関節を悪くする例もたくさんあります。健康でいるためにも、体を動かす習慣をつくっておくことは大切です」
筋トレ好きな芸人がトレーナーを務めることで、彼らの働き口をつくることもジムの目的のひとつ。ここでの活動が、本業であるお笑いにもつながっているのだろうか。
「2022年のキングオブコントでファイナリストになった『いぬ』というコンビの太田(隆司)もウチのトレーナーで、彼が決勝戦で披露したネタは、ジムを舞台にしたコントでした。もしかしたらここで設定を思いついたのかもしれない。そうやってお笑いでも結果を出す芸人が増えてくれるのはうれしいです。僕はジムを『お笑いで食べていけなくても、ここで食べていける』場所にすることも目標にしています。さっきも言ったように(お笑いは)努力に見合った結果が出る世界ではないので、せめてジムでは特技を活かしてもらいたいと思っています」
芸人として活躍できる人は、ひと握り。そんな現実を痛感している野田さんだからこその思いだ。
今後はジムを拡大して、運動の楽しさや筋力トレーニングの重要性をもっと広めていきたいと野田さんは語る。
「筋トレに年齢は関係ない。学生の部活動や運動能力の向上にも有効ですし、高齢者にもお勧めしたい。僕はこの目で、ジムにコツコツに通ってベンチプレスで60㎏をあげられるようになったおじいちゃんの姿を見ているので間違いないです。楽しく運動する人が増えて『みんな健康、和気あいあい』なおもしろ筋肉時代をつくっていきたいです」
PROFILE
野田クリスタル のだ・くりすたる
1986年神奈川県生まれ。高校時代にお笑いコンビを結成、TBSのバラエティ番組『学校へ行こう!』内の企画「お笑いインターハイ」で優勝。16歳で吉本興業に所属する。2007年、ツッコミの村上とマヂカルラブリーを結成。20年に『R-1ぐらんぷり』で優勝、同年『M-1グランプリ』王者の称号も得る。
●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Photo:Aya Kawachi Hair & Make-Up:Sumiko Kubo Text & Edit:Saki Miyahara
Composition:林愛子