気象予報士・斉田季実治「気象情報は命と密接につながっています」【後編】
気象予報士であり、防災士の資格も持つ斉田季実治さん。報道記者時代には数々の自然災害の現場にも立ち会いました。いま伝えたい、命を守るために大切なこととは?
気象予報だけでは命は守れない
能動的なリスク管理を忘れないで
入社から3年半後、より専門的な立場で気象情報を伝えたいと考え退社、気象会社に転職した。NHK熊本放送局で気象キャスターを務めたあと東京へ。12年間、平日夜のニュース番組で気象情報を伝え続けてきた。それでも、いくら力を尽くしても災害は起き、被害が出る。とくに近年増えつつある線状降水帯による河川の氾濫や土砂災害では、多くの死亡者が出ることもあった。
「2018年7月の西日本豪雨で岡山県では倉敷市真備町を中心に61名の方が亡くなりました。悔やまれるのは、被害が大きかった地域の多くがハザードマップ上で浸水や土砂災害の危険性が指摘されていたということ。災害というのは天気だけで起こるものではなく、地形など土地が内包している災害リスクと合わさって起こるものです。気象予報をただ見ているだけでは確実に命を守ることはできないんです。自分が住んでいる場所にどんな危険性があるのか、それを自分で知っていて初めて気象予報を役立てられるのです」
温暖化の影響もあり、今後はさらに想定を超える大雨や勢力の強い台風が日本に接近する機会が増えるという予測もある。だからこそ、一人ひとりが自分の命を守るための行動をしてほしいと語気を強める。
「気象予報は年々精度が高まっていて、警報級の大雨や暴風に関しては5日先まで予測し、早期注意情報を出すなど、早い段階での注意喚起を行っています。地震などと違い、風水害は予測ができます。自分だけは大丈夫だというのはなんの裏づけもない思い込みです。ハザードマップを見たら自分の家がリスクを抱えたエリアに入っているかもしれません。まずはそれを確認し、たとえリスク地域外であっても、雨や風が強くなったと思ったら、自治体が発表する『警戒レベル』や気象庁による警報などの情報を確認してください。気象庁のホームページには土砂災害や浸水、洪水による災害が発生する危険が迫っているかどうかを地図上でリアルタイムに確認できる『キキクル』というサービスもあります。いま自分にどんな危険が迫っていて、どんな行動をすれば確実に命を守れるのか。それを一人ひとりが自分の頭で考えることが、何より大切なんです」
もうひとつ、斉田さんがぜひ伝えたいとつけ加えたのが「空を見上げる」こと。
「防災意識を持ち続けるのは難しいことだと思います。だからこそ、警鐘を鳴らすことや正しい知識を伝えることを大切にしつつも、空の美しさや面白さも伝えていきたいと思うんです。毎日、空を見上げると、雲の形や流れ方で季節の移り変わりを感じられます。そうすると、だんだん楽しくなってきますし、空気が湿っているから雨が降るかもと、天気のこともわかるようになります。そんな楽しみを通して、気象を身近なものに感じてほしい。そういう人が増えれば、風水害の被害を減らせるかもしれない。そんな気持ちで日々、天気や空のことを伝えています」
PROFILE
斉田季実治 さいた・きみはる
1975年生まれ。テレビ局の報道記者を経て、気象の専門家の道へ。2006年からNHKで気象キャスターを務め、現在は「ニューウオッチ9」「明日をまもるナビ」などに出演。著書に『空を見上げてわかること』(PHP研究所)など。
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Photo :Yu Inohara Styling:Akane Kitsunai Hair & Make-Up:Rumiko Koike Text & Edit:Yuriko Kobayashi Cooperation:NHK Global Media Services
Composition:林愛子