小林武史は、なぜ「命の循環を感じられるファーム&パーク」をつくったのか?【後編】
人の数だけ価値観があるように、社会課題における着眼点やできることも人それぞれ。多方面に点在する無数の課題を解決するには、多様なアプローチが欠かせません。ひとつのゴールを目指し、自分ならではの視点でアクションを起こす──。その内側に込められた、音楽家・小林武史さんの思いを伝えます。
すべての社会課題の根源にある
命の循環を見つめる
約9万坪という広大な敷地を歩くと、多様な生き物の息づかいが伝わってくる。放牧されたブラウンスイス牛や山羊。バタリーケージのない鶏舎では、国産種の鶏たちが駆けまわり、日が暮れると、虫の音の大演奏が響きわたる。東京というメガシティから1時間ほどでアクセスできる自然豊かなこの土地は、かつて東京の建築物の残土を受け入れていた過去があるという。
「僕らの豊かさとは、こういう場所があってこそ成り立っているんです。いまでも土を掘ると、建築ガラ、つまりコンクリートや杭など建設廃材が出てきたりします。そのガラを使って、みんなで何かアート作品をつくろうよなんて話しているんですけど。そう考えるとネガとポジってやっぱりつながっているんだなと感じますね。そしてネガティブはポジティブを生む原動力になる」
千葉県木更津市にあるファーム&パーク「クルックフィールズ」は、オープンから丸3年を迎えた2022年の秋、宿泊施設コクーンを開業した。食事は宿泊者自らが、場内で栽培する有機野菜や食材を使い調理するなど、能動的な暮らしが味わえる。
「ここではぜひ、皆さんにさまよってほしいんです。何かの気づきにつながるヒントのようなものを、自ら見つけに行くことを楽しんでもらえたら」
そうすることで等身大の感覚を身につけることが大切だと語る。
「決して僕たちは、外界を遮断して、小さな独立国をつくろうとしているわけじゃない。未来に向けての可能性を探る、みんなのプラットフォームのような存在でありたい。そして、常に新しい工夫を取り込んでいく姿勢を保ち続けたい。工夫ってすごく楽しいことだと思うんです。いろんな人たちの手で工夫を塗り重ね、人と人のクリエイティブが混ざり合うことで化学反応が起こり、オーガニックを自然発生させていく。クルックフィールズが存在する意義は、そこにあると思っています」
PROFILE
小林武史 こばやし・たけし
音楽家、クルックフィールズ総合プロデューサー。2003年に設立した、環境保全活動を行う個人・団体への融資を目的とする非営利団体「ap bank」を核に、サステナブルな社会への実践の場としたプロジェクト「kurkku」をはじめ、社会課題と向き合うさまざまな事業を展開。最近ハマっているのはウォーキング。自宅からスタジオまで1時間かけて歩くことで、等身大の感覚を磨く。
KURKKU FIELDS
千葉県木更津市矢那2503 kurkkufields.jp
●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Photo:Masanori Kaneshita Text & Edit:Nana Omori
Composition:林愛子