「平和ってなんだろう?」哲学者と学生が考える、私たちの平和 vol.4
哲学対話とは日常のふとした疑問について対話し、考える場。ゴールは答えを出すことではなく、自分の言葉で話すこと。相手の話を聞くことで考えを深め、新しい価値観に出合うこと。哲学者の永井玲衣さんと6人の学生が、平和について対話しました。
わからないから探したい。みんなで築く、私たちの平和

話を聞きながら、考え込む場面も。自分の言葉で話すのは、意外と難しい
トキ ふと思ったんですけど、なんで僕たちはこんなに平和を追求するんだろうって。福祉やってると、困っている人を応援したい、相手もそれに応えたいってなるんですけど、数日後にはひとりにしてくださいとか逆ギレされたりすることもある。めちゃくちゃしんどいんですよ。なんでこんなしんどいことをしてるんだろうって思うんですけど、考えた答えは、単にその人をほっとけないっていう気持ちがまずあって。あとは自分のため。今は何の問題もなく生きられているけど、そうじゃなくなった時に自分にとっても福祉は大切だから。みんなはなんで平和を追求するんだろう? しんどいならやめればって思わないですか?
レイ マジでなんでだろう? 対話もそうだし平和もそうだし。同じようなことを大学の学生さんにも言われたことがあって、「なぜレイさんはこんなにも対話にこだわるのでしょうか? 対話を通して何かを渇望しているように見えます」って(笑)。自分が思うのは、対話以外の道、例えば論破するとか殴るとかって、なんて簡単なんだろう、楽チンなんだろうってことで。この世界にはあまりにもそれしかなさすぎて、ありふれてる。だからそうじゃないことをやりたい、難しいことをそろそろやりたいんですけどって思ってるのかもしれない。平和についても同じで、完璧なその状態を見たことないから、知りたいし探したいし、つくる試みをしてみたい。ねえ、せっかくだから咲さんも少し話さない? どうかな?(撮影をしていたカメラマンの八木咲さんも参加)
八木咲 まず自分は、平和は存在しないと思っていて。なんとなく幸せだなって感じたことはあるけど、平和ってやっぱりなんか見たことがないんですよね。さっきレイさんが「見たことのない平和を探したい」って言ってたけど、それと似てるなって。ただ、それだとあまりにも絶望が大きすぎるから、なんか自分にできないかなっていうのも探し始めて、5~6年前に幸せの連鎖が内側から広がればいいなっていうのを発見したんですよね。例えば私はレイさんに会ってない時に「レイさん、今日ご飯食べたかな」とか「カップラーメンばっかり食べてないかな」とか思うんです。そしたら今度はレイさんがトキ君のことを想って、「ちゃんと食べてるかな?」って。そんなふうに、ちっちゃい幸せの連鎖が自分の周りだけでも広がればいいなって思うんですよね。それが自分が死んだ100年後に地球の裏側ぐらいまで広がっていたらいいなって。私が生きているうちには平和には出合えないと思うんだけど、そういうのをちょっとずつ残したいなって。

素朴な疑問や問いを出し合うことで、意外な発見や自分でも気づいていなかった考え方に出合える。誰かを論破したり、正したりするのではなく、ただ話す
アリメ 幸せの連鎖って、すごいそうだなって思います。例えば私が100の幸せを持っていたとして、その半分を幸せじゃない人にあげるって、たぶんできないんですよね。幸せの定量を決めるんじゃなくて、幸せがもっとこう広がって、増えていく? そんな感じだったらいいなって。少し前に、戦争とか辛い現実を知る必要があるのかって話になりましたけど、一周回って、やっぱり知ったり考えたり、話したりするのって大事だなって思っていて。自分が知ったことや考えたことを誰かに伝える、対話をする、それを通して話を聞く姿勢を持つ人が増えたらいいなって思うし、大切だなって。私、幼稚園で4年くらいアルバイトをしてるんですけど、年長さんの子どもたちと哲学対話をやっているんです、通園バスの中とかで。少しずつですけど、聞く姿勢、受け入れる姿勢を持つ子がちらほら出てきていて。例えば子ども同士で喧嘩した時に、普通は「先生に言うぞ!」みたいになるんですけど、そこを子ども同士で解決しだしたりするんです。「今はちょっと怒ってるから許せないけど、もう少し時間が経ったら許す!」とか「もうちょっとしたら話しかけるから」とか(笑)。そういうふうに話ができる、考えられるっていうのがすごくいいなと思って。
レイ 哲学対話が初めての方はびっくりすると思うのですが、そろそろ1時間半が経ったので、対話はここで終わりです。こんなふうにいきなり終わっちゃうんです(笑)。最後に、対話を聞いていたFRaU編集部の方もひと言、どうですか?
FRaU えーと、みなさんのお話を聞いていて、一番驚いたというか大発見だったのは、平和って見たことないよねっていうことで。確かに私もそうだよなって思いました。でもだからこそみんなで考えて、つくっていく試みをしてみたいっていうお話にすごく希望を感じたし、私もやってみたいと強く思いました。あっという間の1時間半で、もっともっと話したい、聞きたいっていう気持ちもありますが、今日の話をあらためて自分の中で反芻して、また違う人たちとも対話を重ねて、深めていけたらいいなと思います。
レイ はい。ぜひ対話を続けてください!
●情報は、FRaU2023年8月号発売時点のものです。
Photo:Saki Yagi Text & Edit:Yuriko Kobayashi. Composition:林愛子