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ドイツのサステナブルをめぐる旅② サイクリングで巡るルール地方 蘇りの川とアートと産業遺産 
ドイツのサステナブルをめぐる旅② サイクリングで巡るルール地方 蘇りの川とアートと産業遺産 
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ドイツのサステナブルをめぐる旅② サイクリングで巡るルール地方 蘇りの川とアートと産業遺産 

環境先進国であり、SDGs達成度ランキング2021でも世界第6位にランクインしているドイツ。トラベルライターの鈴木博美さんが、そんなドイツのサステナブルを巡ってレポートします。シリーズ第2回目は、世界最大級の炭鉱と鉄鋼業が集積したドイツ西部のルール地方。ドイツの重工業と戦後の復興を支えてきたエリアですが、その発展と並行して、大気や河川、土壌の汚染による被害が深刻な問題となっていました。近年は環境改善のためのさまざまな取り組みが行われ、現在は豊かな自然と水鳥が羽を休める川を取り戻し、川沿いの運搬車両用線路は気持ちの良いサイクリングコースとなっています。そんなエムシャー川のほとりにのびるサイクルパス(自転車道)をレンタサイクルで走り、生まれ変わった工業地帯を巡ってきました。

かつての下水処理場は、ビールも味わえる「植物の円形劇場」に変貌

サイクリングのスタートはエッセン中央駅の北に位置する、現在文化センターとして機能しているカール炭鉱。施設の前に設置されている信号機には、ドイツの横断歩道の人気キャラクター「アンペルマン」の姿が。ランプを持った鉱夫の姿をしているアンペルマンは、唯一この信号機だけなのだそう。

ルール地方の産業遺産を結ぶ、エムシャー川沿いのサイクルパス

電動アシスト自転車で出発し、街を抜けてサイクルパスへ。空模様はイマイチながら、自転車で走るにはちょうどいい気温の日だった。サイクルパスに並行して流れているエムシャー川は、かつて150年以上にわたってルール地方の下水道として機能していた。大きなルール川は炭鉱地域に新鮮な水を供給する「動脈」であり、エムシャー川はその「静脈」としての役割を果たす一報で、コンクリートによる河床や直線化の整備により生態系を破壊してきたという。

エムシャー川と並行するライン‐ヘルネ運河

鉄鋼業が衰退した後の1990年代に始まった「エムシャー川再生プロジェクト」によって、70キロメートルに及ぶ下水道システムが施工され、コンクリートは取り除かれた。現在は廃水が完全になくなり、魚が戻ってくるまでの自然を取り戻している。自転車で走っていると、目に飛び込んでくるのは豊かな緑。過去の面影はまったく見当たらず、イヤな臭いを感じることもない。

エムシャー川沿いのかつて下水処理場だったベルネパークに到着。1997年に下水処理施設は閉鎖され、2010年に国際的な芸術家や景観デザイナーによるユニークな公園に変貌を遂げた。公園の中心は直径70メートルの巨大な2つの貯水タンクによって形成されている。そのうちのひとつには真水が入っており、歩廊橋でタンクの中央までアクセスすると、まるで浮遊しているかのような気分を楽しめる。もうひとつはタンク跡に2万本の植物が植えられ、「植物の円形劇場」に生まれ変わった。機械室は4月から10月末までビアガーデンとなり、晴れた日はテラスで草花を眺めながら気持ちよく過ごせる。夏に訪れたら、きっと花と緑が賑やかに迎えてくれるだろう。

公園内に設置された扉がついた土管はなんとホテル。オーストリアのアーティストによって、5本の運河用パイプがベッドルームに変換された。星空を眺めながら一人静かに過ごすことができる超ミニマルな宿泊施設だ。料金はなんと利用者が決めるという商売っ気のなさ。多くの人が5€から50€とジャッジし、料金を支払うそうだ。たった5室のため、年内の予約はすでに埋まっているという。

再びエムシャー川に沿って鳥の囀りを聴きながら次の目的地であるノルトシュテルン・パークへ。その昔は生活排水工業用水が排出され、環境汚染と悪臭を放つ悪名高いドブ川だったなんて微塵も感じ取れない美しい景色が続く。今ではカワセミもやってくるという。

ノルトシュテルン・パークは、1993年まで操業していた炭鉱跡地につくられた景観公園。かつての立坑のてっぺんには、ドイツ人芸術家による剛力無双の勇士「ヘラクレス」像が立っている。ノルトシュテルン・パークをはじめとするルール地方の産業跡地一帯は、1990年代に水と緑を骨格に自然環境の回復と文化の活性化の両立を国際コンペ方式で再構築する「IBAエムシャーパーク・プロジェクト」という都市再生手法の取り組みが推進され、現在の景観に至っている。

エムシャー川のサイクルパスを走れば、さまざまなアートと産業が融合するユニークな公園を巡ることができる。レンタサイクルを活用して、ユニークでサステナブルな旅を体験してみてはいかがだろう。

text:鈴木博美 協力:ドイツ観光局

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