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これまでも、この先も。北の大自然と共存するアイヌの文化を伝えたい【後編】
これまでも、この先も。北の大自然と共存するアイヌの文化を伝えたい【後編】
COLUMN

これまでも、この先も。北の大自然と共存するアイヌの文化を伝えたい【後編】

近年の多文化主義とエスニシティが高まるなか、アイヌの方々への注目が集まっています。「ゴールデンカムイ」のマンガ(集英社)やアニメで興味を持った人も少なくないでしょう。トラベルライターのライター鈴木博美さんが、アイヌ民族ゆかりの地をめぐるこのシリーズ。最終回は、北の大地でアイヌ文化を広める活動を続ける、東京育ちの女性のストーリーをお届けします。

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東京育ちのZ世代がアイヌ文化を発信

新千歳空港から東に車で約1時間。平取町(びらとりちょう)の二風谷(にぶたに)地区は、住民約300人の7~8割がアイヌにルーツを持つ、北海道でもかなりレアな地区だ。コタン(集落)の中心には立派な博物館とアイヌ文化関連施設があり、公園のようにキレイに整備されている。

ここでひとりの女性と待ち合わせをした。山田桜子さん(28歳、上写真)は、アイヌ文化を発信すべく観光ツアーやガイド、プロダクトなどを企画・運営する会社「NEPKI(ネプキ)」の代表を務めている。NEPKIはアイヌ語で「仕事」を意味するという。山田さんには、二風谷の伝統的な衣装のひとつ「カパラミプ」がよく似合っていた。

二風谷の工芸品としては「二風谷アットゥシ(反物、着物)」と「二風谷イタ(盆)」が知られている。二風谷アットゥㇱは、オヒョウの木の内皮でできた糸を編んでつくられる着物などで、しなやかでやさしい風合い。水に強く通気性にもすぐれているという。主に儀礼の際に男性が身にまとう。

二風谷コタンの広い敷地には、チセと呼ばれる茅葺(かやぶ)きのアイヌ伝統家屋が復元されている。中に入ることもでき、昔のアイヌの暮らしが忠実に再現された部屋と生活道具の数々がとても趣(おもむき)深い。9棟のうち2棟のチセでは、工芸家による木彫りの実演などが行われており、その見事な技を見学できる。

工芸家がいるチセでは、ちょうど「二風谷イタ」を制作しているところだった。イタ(盆)の素材はクルミやカツラの木が多いそうだ。工芸家の手によって、美しい文様がみるみるうちに浮かび上がってくる。細やかで、繊細なアイヌの手仕事だ。道具としてつかう人とのかかわりが深く長くなるにつれ、イタはいっそう味わい深い表情を帯びてくるという。

平取町立二風谷アイヌ文化博物館では、二風谷コタンを流れる沙流川(さるがわ)流域のアイヌ文化を学び、体感できる。山田さんが、展示されている生活道具の利用法、素材や模様の意味などを丁寧に説明してくれた。暮らしとともにあった多くの展示物が、よりリアルに感じられる。豊富な知識をもつ彼女の話ぶりからは、アイヌ文化への愛がひしひしと伝わってきた。

山田さんは大阪生まれの東京育ち。大学卒業後は民放テレビ局で美術関連の翻訳業務に携わりながら、学生時代から続けていた街頭清掃も行っていた。その活動を通じて知り合った人の勧めで、松下政経塾のプログラムに応募。テレビ局をやめ、約1年間インターンシップ生として、環境問題や社会課題について学んだという。

「あるとき塾で、東京オリンピックのマラソンコースが札幌に変更になったことが話題になりました。それを機に、次の五輪招致に向け、札幌が世界に魅力を発信するためにはどのような街づくりが必要か塾生同士で話し合ったのですが、リモートでいろいろ話していても、いまひとつリアリティが感じられない。『それなら実際に私が住んでみよう』と思い、2020年2月に札幌に転居しました」(山田さん、以下同)

ちょうど、新型コロナの陽性者数が激増しはじめていたころだった。

「市民が集まっての清掃活動ができずに悶々とするなか、『いまのうちに北海道のことを学ぼう』と思い立って道内各所を訪れました。そのひとつが二風谷地区です。アイヌ文化が生活に根づいていることに興味をもち、農家のお宅にしばらく下宿させてもらって、アイヌについて勉強しました」

二風谷へは、幼少の頃に二風谷のアイヌ文化の中で育った哲雄さん(上写真左)のツテをたどって訪れた。松下政経塾インターン時代に知り合った山田さんと哲雄さんは、その後結婚。今年はじめに長男の爽椰(そおや)君が誕生した。この地は、町全体で子どもを見守り育てる「ウレシパモシリ」(互いに育って助け合う世界)だという。

アイヌ文化を勉強し活動していくなかで、NEPKI運営の中心的存在となっていった山田さん。現在はツアーコンテンツをメインに、若いアイヌの人たちと一緒にアイヌ文化を発信する新しい取り組みにチャレンジしている。山田さんはかつて、ミスユニバース東京大会に出場した経験をもつだけに、「魅力をいろんな角度からアピールするという点では、ミスコンもいまの活動も同じですね」と笑う。

アイヌ民族の自然とともにあるライフスタイルは、環境保全やエコロジーといった観点からも学ぶべきことは多く、都市で生活する私にも大きな刺激を与えてくれる。アイヌ民族の文化と歴史に思いを馳せるこの旅で、人生観が変わるほどの文化体験を味わえた。

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取材協力:NEPKI

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