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家具端材(おがくず)が肥料の無農薬野菜ができるまで
家具端材(おがくず)が肥料の無農薬野菜ができるまで
PROJECT

家具端材(おがくず)が肥料の無農薬野菜ができるまで

福岡県の農業法人「ONE EARTH」が、同県に本社がある業務用家具メーカー「アダル」とともに取り組んでいるのは、オリジナルの微生物資材をつかった、子どもたちも安心して丸かじりできる無農薬の野菜づくり。微生物資材の原料になっているのは、アダルの工場で出る家具の端材です。彼らの取り組みの現状と、その目指すところを取材しました。

頭に浮かんだのは「高校時代の同級生」

工場で家具をつくる際にはどうしても端材が出てしまう。それをつかって微生物資材をつくり、肥料として農地に投入、「安全でおいしい」「子どもが安心して丸かじりできる」野菜を生産する──。そんなプロジェクトを共同で進めているのが、福岡県で農業を手がける合同会社ONE EARTHと、同県に本拠を構える業務用家具メーカー、アダルだ。

まずは、アダル代表取締役の武野龍さんが、この事業のキッカケを語る。

「弊社社員の子息にも何人かおられますが、世の中には、さまざまな事情で一般的な就労が難しい人たちが存在します。これまで、そうした方々の受け入れ先の多くは農業でした。私は長年『いつか農業法人を立ち上げて、そうした人たちが安心して働ける場所を提供したい』と考えていました。そして2年前、弊社は県内に点在していた生産、物流、倉庫拠点を統合し、新工場を設立しました。敷地は非常に広く、その一部を農地に転用できることになったのです」

アダル代表取締役・武野龍さん。同社は創業69年、カフェ、レストラン、ホテル、オフィスなどでつかわれる業務用家具メーカーで、福岡本社をはじめ全国14ヵ所に拠点を構える

そのとき武野さんの頭に真っ先に浮かんだのが、高校時代の同級生の田原政和さんの顔だった。脱サラ農家の田原さんは、化学肥料や農薬を使わない「微生物資材で育てる農法」にこだわり、年間約40種の「甘くて食べやすい、安心、安全な野菜」をつくっている。

ONE EARTH田原 政和さん。もとは兼業農家だったが、2017年にサラリーマンをやめ、農家として独立。福岡県糟屋郡で無農薬、化学肥料なしの野菜を生産している

子どものアレルギーをキッカケに有機農法を

まだ一般企業で働いていたころ、田原さんに2人目の子どもが生まれた。その子が母乳を飲んでアレルギーを発症したことを機に「私たちが食べてきたもの、身体に蓄積させたものが、子どもたちの世代を苦しめているのではないか」と考えるようになった。以降、田原さんは週末のみ耕作する兼業農家として野菜の生産に取り組む。そこから「安心、安全な野菜とは何か」を突き詰めていき、無農薬、無化学肥料の野菜づくりにたどりついた。

そして5年前、農業法人を立ち上げ、農業一本で生計を立てはじめる。だが当時、田原さんがこだわる農法は大きな壁にぶつかっていた。

「もともとは耕作放棄地に自生していた草を刈って、そのまま地面で枯れるのを待ち、その後、土の中に入れて自然発酵させていました。これを肥料にして2年ほどは安定して野菜をつくれていたのですが、3年目には生育が思ったように進まなくなった。自然のサイクルに頼るだけでは、多くの野菜を育てるだけの栄養を土壌に与えることは難しいということに気がついたのです」(田原さん)

次に、もみ殻をつかってみたが、肥料にするほどの大量のもみ殻を安定供給することも難しいとわかった。田原さんは、この行き詰まりを打開すべく武野さんに相談する。一方の武野さんも、余った土地を有効活用できないかと考えていた。まさに、タイミングがバッチリ合った結果生まれたのが、「家具端材を発酵させてオリジナルの微生物資材をつくり、それを肥料に無農薬野菜をつくる」というアイデアだった。

恐るべき微生物の力

微生物資材づくりにあたり、まず取り組んだのは家具端材の分析だった。ひとくちに端材といっても、無垢材から生まれる「木っ端」と、合板からできる、接着剤が混ざった「べニヤ合板」があり、両者は性質がだいぶ違うと思われたからだ。

前者はそのまま細かく砕いて「おがくず」にし、雨よけのハウス内で乳酸菌群や米糠などと合わせて発酵させれば、混ざり物のない微生物資材ができあがると想定された。だが、後者はどうか。乳酸菌や米糠は、接着剤などの化学物質までしっかり分解してくれるのか。

家具端材を小さなハウス内で発酵させてつくられた微生物資材

「木っ端でつくった微生物資材を、お世話になっている研究機関で2週間、成分分析してもらいました。結果、木っ端のほうは問題なくつかえる微生物資材になるとのことでした。微生物の分解力って、やはりすごいんですね。ベニヤ合板についての分析は、現在も継続中です」(田原さん)

そして1年前から、家具端材(おがくず)を発酵させた微生物資材をつかっての野菜づくりがはじまった。そのできばえは──。後編で紹介する。

text:奥津圭介

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