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これまでも、この先も。北の大自然と共存してきたアイヌ文化を伝えたい【中編】
これまでも、この先も。北の大自然と共存してきたアイヌ文化を伝えたい【中編】
COLUMN

これまでも、この先も。北の大自然と共存してきたアイヌ文化を伝えたい【中編】

近年の多文化主義とエスニシティが高まるなか、アイヌの方々への注目が集まっています。「ゴールデンカムイ」のマンガ(集英社)やアニメで興味を持った人も少なくないでしょう。前回に引き続き、トラベルライターのライター鈴木博美さんが、アイヌの文化とゆかりの地をめぐります。今回は、アイヌ民族が育んできた「木の文化、森の文化」に触れられる、北の大地の散策路を訪ねました。

ーーー前編はこちらーーー

アイヌの伝統文化を追体験できる散策路

2020年7月、北海道中南部の白老町にオープンしたアイヌ文化復興拠点「ウポポイ(民族共生象徴空間)」。大きな話題となったこの施設に隣接する、鬱蒼(うっそう)とした国有林がある。町と林野庁の協力のもとで運営するNPO法人「ウレシパの杜」理事長の山田和子さんは、札幌から白老町に嫁いで40年。ウポポイのオープンをきっかけに、アイヌ文化が白老町にとって誇るべき文化であることを発信したいという想いからNPO法人を設立した。法人の会員たちと約2年かけて、ウポポイの隣地を整備し、散策路を完成させたという。

「アイヌ文化の神髄でもある『木の文化、森の文化』を感じてもらえるような散策路をつくりました。ウポポイの博物館に展示されている道具には、『どんな木や草でつくられているのか』という説明がないものもあります。ウポポイを楽しんだ後は、散策しながらアイヌの生活に必要な木や草花を見つけ、伝統文化を追体験してもらえたらうれしいです」(山田さん、以下同)

ウポポイの敷地に沿って東側のフェンス沿いの道を進むと、ウレシパの杜の案内板が見えてくる。赤いツリバナの花やサワシバの実が風に揺れる姿を眺めながら、さらに坂道を登る。散策路の入り口に立つ、センスのよい木製の看板は山田さんの手づくり。看板の下にある認証コードをスマートフォンで読み取ると、山田さんの挨拶を聞ける。

森に入ることをカムイ(神)たちに許可をもらうための挨拶をしてから、散策路を進む。熊笹やシダ類、白い胞子体を伸ばしたスギゴケの仲間が地表を覆い、ふと見上げれば木々が思わず触れたくなるような立派な枝を伸ばしている。生い茂る葉の隙間から見える青空と太陽が、とても気持ちいい。

アップダウンをゆっくり歩いて30分ほどの散策路のまわりには、アイヌ民族の知恵、「有用樹木」がたくさん見られる。「森は食料や衣類、道具の材料となるさまざまな生活必需品を得られる場所。だから森には多くのカムイが存在すると考えられています。アイヌは、そんなカムイに感謝して暮らしてきました」。

樹木に掛けられた説明板には、アイヌ語の読みと日本語名、英語名のほかに認証コードが添えられており、読み取れば音声ガイドが聞ける。散策路には合計10種の樹木にコードがあり、白老町民の子どもからお年寄りまで、老若男女いろいろな人たちによる解説が楽しめる。あたかも、地元の方々が同行してくれているような気持ちになれるのが楽しい。

イタヤカエデはアイヌ語で「トペニ」という。トペ=ミルク、ニ=木の意味で、2月から3月に甘い樹液が採れることからその名がついたそう。見守ってくれているような大きなトペニは、ウレシパの杜の守り神だ。

その先にそびえる大きなハンノキは、樹皮に含まれるタンニンで染色したり、木の皮を煎じて産後の増血剤として飲んだりするほか、腹痛を止める薬にもなるという。

樹木に取りつけられた巣箱は、地元の小学生がつくったもの。まだ設置されたばかりだが、将来的にはたくさん鳥の声が聴こえるようになるだろう。そんなことを話しながら歩いていると、笹の葉の陰からキタキツネがこちらを見つめているのに気づいた。写真を撮ろうとしたが、アッという間に森の奥深くに走り去ってしまった。ふさふさの毛が神々しく輝くさまが、脳裏に焼きついた。

「オレンジ色の実はマタタビの実。アイヌ名はマタタンプ 。そのまま食べられますよ」といわれて、ひとつ取って食べてみた。正直、おいしくはない。マタタビはアイヌ語に由来するともいわれており、それだけアイヌ民族の生活に身近なものだったのだろう。

距離にして300mほどの散策路だが、スマホで認証コードを読み取って音声を聞いたり、風の音や鳥の声を聴いたりしつつ散策する時間は、何にも代えがたいもの。時間によっては、ウポポイの野外ステージでの演奏や歌が聴こえてきて、よりいっそう「アイヌの世界」に浸れる。散策路は整備されているとはいえ斜面にあり、あくまでも自然の森のなかなので、スニーカーなど歩きやすい靴で訪れることが推奨されている。

「アイヌでは、『自然の恵みは神からの贈りもの』とされています。ほかの生きものや、次の年の収穫のために、何ごとも獲りすぎないことが大切。アイヌの人びとは、持続可能な社会のための取り組みを、はるか昔から受け継いでいます。それらを次世代に伝えると同時に、『どんな小さな生命にも役割がある』ことに気づいてもらえるような森を育てていきたいと思っています」

と、山田さんは語る。自分が住むまちに積極的にかかわり、楽しみつつ地域の魅力を発信するその姿は、とても輝いていた。

ーーー前編はこちらーーー

取材協力:特定非営利活動法人ウレシパの杜

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