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「全米一、予約が取れないレストラン」シェフの信念──「私の料理を支えているのは生産者」【中編】
「全米一、予約が取れないレストラン」シェフの信念──「私の料理を支えているのは生産者」【中編】
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「全米一、予約が取れないレストラン」シェフの信念──「私の料理を支えているのは生産者」【中編】

地産地消、オーガニック、スローフードのムーブメントを起こし、全米一、予約が取れないといわれるまでになったアメリカ・カリフォルニア州のレストラン「シェ・パニース」。そのヘッドシェフだったジェローム・ワーグさんは2016年から東京に移住、神田に「ザ・ブラインド・ドンキー」を開いた。世界的に有名な彼がいま、「調理しすぎないことを心がけている」理由とは?

▼前編はこちら

生産者一人ひとりがアーティスト。
シェフはそのパートナーです

ザ・ブラインド・ドンキーの壁には、全国の生産者から納品時に添えられていた手紙やリーフレットがはられている。そこに書かれているのは、納めた生産物の情報や、レストラン・スタッフへのメッセージ。ジェロームさんは毎週、何が届くかを確認してからメニューを決めるため、生産者との関係性がどんどん深まっていく。

「畜産業、農業、林業、陶芸、漁業と、いろいろなカテゴリーの生産者がいるけれど、その一人ひとりがアーティストなのです。それぞれの考えかたのすべてに同意する必要はありません。だけどサステナブルであることを大切にしている人たちは、基本的な考えかたが共通していると思います。効率だけを優先して農薬や肥料をつかってコントロールする農家よりも、自然に寄り添い、対話をしながら工夫をし続ける農家のほうがクリエイティブだと思いますね」

ザ・ブラインド・ドンキーでは、志のある生産者の哲学や背景、言葉を伝えていきたい。どんな環境で栽培し、飼育しているか、どんなふうに自然と向き合っているかを伝えたい。

ジェロームさんお気に入りの「53farm」では、珍しいトマト「インディゴ・ローズ」を購入

「そのために、トマトひとつを買うにしても、生産している農家から直接買いたいのです。ファーマーズ・マーケットで、直接ものを見て買うのもいい。野菜は味がいちばん大事ではあるけれど、どんなふうに育てているのかという生産者のパーソナリティーもとても重要だから。そしてそれが甘くても苦くても、おいしく料理するのが僕の仕事。農家とシェフはパートナーなのです」

レストランでありつつも
食を考えるきっかけとなる場所に

青山のファーマーズ・マーケットで購入した野菜たち。上からバジル、ズッキーニの葉つきのツルと花、さまざまな種類のトマト、マイクロきゅうり。パプリカときゅうりはおまけでもらったもの

レストランはそんな料理を人々に食べてもらう場所。そのためザ・ブラインド・ドンキー開業の地は東京を選んだ。ジェロームさんは日本に移住して以来、東京と徳島・神山町の二拠点生活をしているが、情報の発信地といえばやっぱり東京だから。

「東京にいることで、いろいろな人の注目が集まり、メディアに紹介される機会も増える。ここはレストランとして機能するだけじゃなく、食について考えるきっかけを提供する場所にしたいと思っています。今後は、生産者の声を届けるようなトークセッションや、イベントもやっていく予定」

自分たちの料理を食べることによって、素材の背景に興味を持ち、環境への影響を想像するかもしれない。その想像力が自然との対話となり、地球環境を守ることにつながっていけばいい。ジェロームさんは、そう考えている。

「レストランは、ベストワインとシンプルで上質なフードを提供し、いい時間を過ごしてほしいという想いで営業しています。そのうえで、地球の健康を守るためにオーガニックな農業が重要なことだと知ってほしい。そう考える人が増えていき、都心から地方に移住して農業を営む人が増えたりしたら、理想的ですね」

ジェロームさん自身も、神山では荒れ地を切り拓いて畑にしたり、古民家の再生に取り組んだりしている。神山産のニンジンをつかったケチャップや、シグニチャーメニューでもある梅チャツネなどのと加工品は、「Donkey at Home」というブランド名で、神山で製造している。

▼後編につづく

PROFILE

ジェローム・ワーグ
フランス生まれ。21歳で渡米し、カリフォルニアのレストラン「シェ・パニース」で働きはじめる。アーティストとしても活動しながらヘッドシェフを4年務め、独立。2016年に来日し、東京・神田に「ザ・ブラインド・ドンキー」をオープンした。

●情報は、『FRaU SDGs MOOK FOOD』発売時点のものです(2021年10月)。
Photo:Tetsuya Ito Text & Edit:Shiori Fujii
Composition:林愛子

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