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世界遺産・西表島で体感した「イリオモテヤマネコとヒトの共存」【前編】
世界遺産・西表島で体感した「イリオモテヤマネコとヒトの共存」【前編】
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世界遺産・西表島で体感した「イリオモテヤマネコとヒトの共存」【前編】

「日本最後の秘境」といわれ、国内外から多くの観光客が訪れる沖縄県・竹富町の西表島。ほぼ全域が国立公園で星空保護区に指定されているほか、2021年7月にはユネスコ世界自然遺産に登録され、豊かで多様な自然が注目されています。その象徴的な存在が、島に生息するイリオモテヤマネコ。小さな島の食物連鎖のトップに君臨する、ヤマネコたちを守る取り組みをお届けします。

すべての車が時速40km/h以下で走る

西表島が世界自然遺産に登録された理由は、その生物多様性にある。この島にしかいない固有の動植物が多く見られ、いまなお守られていることが高く評価されたのだ。その筆頭が、この島に生息するイリオモテヤマネコ。1965年に学術的に「固有の新種」と認められた野生のネコだ。

西表島の道路は、どんなに広く直線であっても制限速度は40km/h。島内のレンタカーには、40㎞/hを超えると警告音が鳴る仕掛けが施されたものもあるほどだ。これは、イリオモテヤマネコやシロハラクイナといった野生動物を交通事故から守るため。カエルやカニをひいてしまっても、それを食べに来る希少生物のロードキルにつながるというから、ついついハンドルを握る手に力が入ってしまう。

とくに目撃情報が多い道路には、注意を促す警告板が設置されている。島のみんなでヤマネコを守ろう、という強い決意が伝わってくる
「西表野生生物保護センター」内に設置されているドライビングシミュレーター。40㎞/hで走行していても、イリオモテヤマネコが横切るアニメーションが出てくると、ドキッ!としてしまう

「イリオモテヤマネコは島内に100頭ほど生息しており、絶滅危惧種に指定されています」と教えてくれるのは、環境省・西表自然保護官事務所の内野祐弥さんだ。「ただ、島の生態系を維持するためには、増えすぎてもよくありません。これ以上減らないようにすることが、イリオモテヤマネコや島全体の生き物を守ることにつながります」(内野さん)。

西表自然保護官事務所の1階は「西表野生生物保護センター」になっており、イリオモテヤマネコをはじめとする島の野生動物の生態や保護活動についての展示がある。見た目は割とかわいいイリオモテヤマネコだが、実はけっこう獰猛で、島の野生動物による食物連鎖のトップに君臨しているという。カエルにネズミ、鳥類、さらにはイノシシさえ倒してしまうというから恐ろしい! さすが、ライオンやトラと同じネコ科の野生動物だ。

西表野生生物保護センターのレンジャー、内野さん(写真左)と田中さん(同右)。同センターには、イリオモテヤマネコの毛皮に触れたり、マーキング時の尿の臭いを再現した香水をかげたりと、五感で楽しめる仕掛けが施されている

センターで希少種保護増殖等専門員を務める環境省の田中詩織さんによると、「世界には多くの野生のネコ科動物が生息していますが、こんなに小さなエリアで生き延びてきたイリオモテヤマネコは、とても貴重な存在なんです!」とか。

「もともとは、インドやタイなどに分布するベンガルヤマネコと同じ祖先をもち、大陸からやってきたと考えられています。大陸から分断されて孤立した島で、独自の進化を遂げたのが現在のイリオモテヤマネコ。島の人たちは当然、その存在は認知していましたが、特別な固有種であるとは思ってなかったようですね。1965年に学術的に『新種』と認められて以来、保護活動が積極的におこなわれるようになりました」(田中さん)

センターの正面玄関を入ると目に飛び込んでくる、西表島のマップ。イリオモテヤマネコの目撃・事故情報のほか、希少な花の開花情報などもリアルタイムで掲示される

全島民がイリオモテヤマネコを愛し守っている

イリオモテヤマネコは夜行性だが、早朝や夕方だけでなく、昼間の目撃情報も多く寄せられている。40km/h規制を敷いていても、イリオモテヤマネコを巻き込んだ交通事故は2010年から増加傾向。記録が残っている1978年から2021年12月までの間に、97件もの事故が発生しているのだ。うち89件で、ヤマネコが命を落とした。ああ……。

「センターに寄せられる県道沿いの目撃情報は、1年で300~500件ほど。これらの情報を集めて危険な箇所を予測し、交通事故が発生する可能性が高いところを洗い出して注意喚起をおこなう、というのがセンターの役割のひとつです」(内野さん)

島の人々は、目撃したらその都度、センターに連絡を入れてくるという。まさに、全島民でイリオモテヤマネコを守っているのだ。西表島では、森の中に自動撮影ボックスを設置して生態をモニタリングするほか、野生動物が道路を安全に横切れるようにと、アンダーパスを各所に設置している。あらゆる角度から、ヤマネコを守っているというわけだ。

イリオモテヤマネコと並ぶ島のスター、国指定特別天然記念物のカンムリワシ。県道沿いの電柱に悠然ととまっていることも多いという

この島でしか会えないのに、めったに遭遇できないイリオモテヤマネコ。ある島民は、「移住して2年、まだ1回しか見たことがありません」と嘆く。けれども島の人々は彼ら(ヤマネコのことです)に出くわしても、決して追いかけたり、食べ物を与えたりすることはない。それが子ヤマネコだったりしたら、近づきもしない。

「『どうしてもイリオモテヤマネコに会いたい』と観光客に懇願されることは多々あります」とは、島のベテランガイドである望月達平さんだ。「けれども、イリオモテヤマネコは探しに行くものではありません。向こうから会いにきてくれてはじめて、目撃できる存在なんですよ」。

――後半では、西表島の圧巻の星空を守る取り組みについてレポートしますーー

photo:西崎進也 text:萩原はるな

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