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ラトビア共和国への旅① 世界遺産の街「リガ」へ! 美食とアートが織りなすサステナブルな食卓
ラトビア共和国への旅① 世界遺産の街「リガ」へ! 美食とアートが織りなすサステナブルな食卓
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ラトビア共和国への旅① 世界遺産の街「リガ」へ! 美食とアートが織りなすサステナブルな食卓

“バルト海の真珠”と呼ばれるラトビアの首都・リガ。100年以上の歴史を持つ市場には季節の恵みがあふれ、地元の農家が丹精こめて育てたツヤツヤの野菜がならぶ。シェフたちはこぞって地産地消の哲学で革新的な料理を生み出し、職人たちは伝統工芸に現代のデザインを吹きこむ。この小さな国で育まれた、美しい食と暮らしをめぐる旅へ、いざ。

100年の市場につどう豊かな食材

異国へ飛ぶときに、もっとも心を占めるもの――それは、「おいしいものはどこにあるか」。とくに食料自給率が高いラトビアの場合は有名な市場がいくつかあって、訪れると新鮮な地のもの、旬のものがドドドーッとなだれのように押し寄せてくる感じだそうだ。

首都・リガの中心部にある旧市街からダウガヴァ川を渡って歩くこと10分。この地域最古の「アーゲンスカルンス市場」に行ってみよう。

国の文化遺産に指定されている1898年創業の「アーゲンスカルンス市場」

この市場は2022年にリニューアルした。赤煉瓦(あかれんが)のファサードがおしゃれ

つややかな野菜やフルーツが山盛りだ!

小学校の校庭ほどもあるスペースに70軒を超える店がひしめき、バスケットを持った女性が「最近どう?」なんて店主と言葉を交わしながら品物を吟味している。そのそばには、チーズやミルクをたんまりと買いこむ人の姿も。香ばしい焼きたてパンから上がる湯気。ハーブのすっきりとした香り。土と緑とお花の匂い。くんくん。鼻にひっぱられて歩きまわる。

左:ラトビア発の大ヒット映画『Flow』のドリンク。右:生鮮食品の売り場

ヨーグルトやチーズの試食もあるし、魚介類や肉製品は新鮮そのもの。ケーキのショーウィンドウにはりついて離れないちびっ子と、同じくはりつくレトリバーがいる。みんな色とりどりのごちそうに夢中だ。

地元の人によれば「はちみつ、黒パン、ハーブティ、チョコ、ヘンプバターはぜひ味わって。絶対に損はさせないよ!」と自信まんまん。

お菓子に魅入られる子がここにも。おいしそうだね

豪快にカゴに突き刺さるバルト海の恵み。この色ツヤ、絶対においしい

ナッツ入りのゼリー菓子を太巻き状にした甘いロールスイーツ「ルクム」

さらに2階に上がると、雰囲気は一変。世界各国の料理を出すフードスタンドが15軒ほどズラリと立ち並んで賑やかだ。地元の人のマネをして、人気の料理を買ってみた。

好きなお店で料理を買って、お気に入りのテーブルでいただけるスタイル

「ラトビアに来たらこれは食べなきゃね!」と教えてもらった、水餃子のような「ペリメニ」とまろやかな甘みの「ビーツのスープ」

薪窯(まきがま)で焼き上げる本格ピザ店「ヴィーンカルヌ」が大人気。「プロシュート・ビアンカ」(14.5ユーロ)は巨大でモチモチで絶品

同じく2階のバーカウンターでクラフトビールを注文。黒ビールだ!

どのごはんも素朴で温かい。市場の景色を見下ろしながらいただく料理は絶品。エネルギーを全身で吸いこんで、腹の底から元気になれる。空腹でのショッピングはついつい買いすぎるから、最初に2階でお腹を満たして……なんて戦略もアリ。

屋外にもマーケットのテントは続く

建物の外では、おじいちゃん、おばあちゃんたちがテントの下でおしゃべりしながら、手づくりの工芸品や陶器のお皿、ピンバッジなどの品物を並べて売っていた。

「全部キミのためにそろえたんだよ!」と両手を広げる口のうまいおじさん

レトロなビンテージ品がいっぱい。ピンバッジは1個30円くらいから買えて楽しい

勇気を出して値切ってみると、意外とすんなり通ったり、まったく相手にされなかったり。ラトビア語で「ありがとう!」は「パルディアス」。

ちなみに、感動したのがカゴ。さすがは手仕事大国ラトビア、とにかく、かわいいカゴだらけ。お値打ち品ばかりなので、カゴ愛好家は必ず大きめトランクで渡航して。油断すると「業者か!」とツッコみたいくらい買いこんでしまうからです。

カゴ好き女子、「特別に5ユーロにしよう。みんなにはナイショだよ」とおじさんにささやかれてお買い上げ

土曜日だけの宝物探し「カルンチェマ市場」

「土曜日にリガにいるなら、絶対にカルンチェマ市場に行くべきだよ!」と聞いて訪ねた。毎週土曜日だけ、10時から16時まで開くレアな市場だという。

会場では、テントの中から「ねーねー、ちょっと見てってよ〜!」と、急にニンニクをとりだし、皿にすりつけはじめたお兄さん。なにごと!? と思ったときには、山盛りのすりおろしが完成していた。

陶器製の“おろし皿”だったのでした。カラバリも豊富!

食材がてんこもりだったアーゲンスカルンス市場とはちがい、こちらは職人のクラフトやデザイナーの一点ものミトン、手織りのリネン製品といったハンドメイドが中心。この機を逃したらもう一生会えないぞ、という顔をした力作が並ぶ。

緻密な幾何学模様が美しいミトンとランチョンマット

「これらのミトンはすべてハンドメイド。ラトビアの伝統的な模様を編みこんでいて、手に物語をまとうんだ。一つひとつ模様がちがって、太陽の神さまや馬、星、花などで神話を表してるよ」とミトン売りのおじさん。ラトビアはキリスト教国家だが、森が近いからだろうか、どこか多神教の匂いがする。

仲よしの母娘が販売していた蜜蝋キャンドルと手づくりコスメ

この市場は、若手のクリエイターが自分のビジネスアイデアを試す場所でもあるといい、「毎週来ても、新しい発見があって楽しいよ」と笑う地元客。珍しいものをハンティングするなら、ぜひ、特別な空気が流れる土曜日のカルチェンマへ。

ちなみに、DX化が進むラトビアはカード文化で、現金はほぼ不要だが、市場だけはユーロ札や小銭を持っておくと安心。

新鮮食材はここにも! 甘いコケモモやベリーが山盛り

旅の間じゅう、夢中にさせられたヘンプバター。コクがあって、パンに塗ると美味

ずっしりとしたラトビアの黒パン。噛めば噛むほどじわ〜っと旨い

3人のシェフが紡ぐ新しい美食文化

市場で新鮮な食材を眺めた後は、それらがどんな料理に生まれ変わるのかを見にいこう。スウェーデン門の近くに店を構える「3パヴァル・レストランズ」(3人のシェフのレストランの意)」はリガでもっとも有名なレストランのひとつだ。

ミシュランガイドの「Selected Restaurants(ミシュランが選んだ良いレストラン)」に選出されている

イェカブス兵舎をリニューアルした重厚な内装も見どころ

席に着くと、シェフがテーブルに白い紙を敷いてくれる。一瞬の静寂の後、その紙にパァッとすばやくソースをまいた! 

 色とりどりのソースが踊るライブペインティング

ビーツの赤、バジルの緑、果物シーバックソーンのオレンジ色のソースが、美しい流線を描くたびに歓声が上がる。お店では、このパフォーマンスが大人気なのだ。「さあどうぞ、パンにつけて召し上がれ!」と促され、心ゆくまま色を混ぜて、おいしい即興アートはつづく。

このレストランでは食材を最後までつかい切る“鼻から尾まで”の調理法を実践。野菜も含めたすべての食材をムダにしない料理に真摯に取り組んでいる。

左:低温調理した北極イワナとレモングラスソースの料理、右:キャラメリゼしたビーツとヤギのチーズのひと皿

リンゴのグレーズをまとった、やわらかな鴨ムネ肉とスウェーデンカブのソテー

直前まで真剣だったシェフがカメラを見た瞬間ピース。オープンでフレンドリーなシェフの姿に魅せられる

ヘッドシェフのパヴェルス・スコーパさんは、ミシュランガイド掲載後のインタビューで、こんなステキな言葉を残している。

「料理人としてのエゴはいったん置いて、お客さまの笑顔こそがインスピレーションの源。毎日のチームワークと細部へのこだわりが私たちを成長させてくれます」

まさに、進化した美食の世界を体感できるひとときだった。

「装飾芸術とデザインの博物館」はモダニズムの宝庫

アーティスティックだった料理を見て、ラトビアの芸術が知りたくなった。そこで飛びこんだ「工芸とデザイン博物館」が大正解だった。

13世紀に建てられた歴史ある聖ゲオルギ教会内にある(そして、街の至るところにあったウクライナの国旗がここにも…)

荘厳な教会建築に、現代的なディスプレイがみごとに調和

この博物館がすごいのは、テキスタイルから陶磁器、レザー、ジュエリーなど7つの工芸分野を網羅している点。さらに、20世紀初頭から1940年代にかけて活躍したラトビアのモダニズム創始者たちの現存最大のコレクションがある。

自然への深い愛着と手仕事への敬意、美しいものを暮らしに取り入れたいという強い願い。それらがヨーロッパの新しい美術トレンドと出合って生まれたのがラトビアのモダニズムだと解説書にある。

SF好きにはたまらない、レトロフューチャーな印象の工芸品たち

美しい民族衣装と見せかけて、つかい捨てのビニール袋などでできた作品群

きびしい冬の夜長には、家族や隣人たちと集まって、みんなで手芸をしながら語りあう「ヴァカレーシャナ」という慣習があるのだそう。北欧らしいカルチャーだ。

さすが編み物の国! 子どもにもわかる解説マシンがあった

重厚な美術館だが、ときどきキュンとする存在がある

ちなみに、このモダンアートの渦の中で目を肥やした後は、ぜひ訪問してほしいショップがある。ラトビアのデザインとライフスタイルのコンセプトストア「リーヤ」だ。

個性的なウォッシュリネン、タオル、家具、食器、照明が並ぶ

地元デザイナーの手による品々はモダンで、とがっていて、かっこいい。ラトビアの職人たちの技術の高さと誇り、そして気迫が伝わってくる。

「伝統的な職人技と現代的な世界観を融合させているのが特徴。古いものをそのまま再現するのではなく、現代人のライフスタイルに合わせて再解釈する。そうすることで、伝統が生きた文化として継承されるのだと思います」と店員さん。

再び街へ繰りだすと、至るところにそうしたデザインがあることに気づく。伝統を生かしながら日常を楽しくカスタマイズするアイデアを探して歩くのも楽しい。

道で出合ったラトビア製マトリョーシカの露店。コワモテのおじさんが「僕がつくったんだよ〜」

右:標識のピクトさんの足が長い。左:誰かにおヒゲをはやされたアルマジロ

Photo & Text:矢口あやは

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