スイスのサステチョコをめぐる旅 Vol.2 中世のまちバーゼルで、「ハルバ」の最新工場と老舗チョコ店の見学ツアーに参加した
ドイツとフランスの国境に位置し、チューリヒ、ジュネーヴに次ぐスイス第3の都市、バーゼル。旧市街は石畳のまち。中世からの建物が立ち並び、美しい庭園もたくさんで散策していて飽きることがない。ヨーロッパ製薬産業の中心地でもあり、ノヴァルティスやロシュといった大手製薬会社の拠点もここにあります。今回は、バーゼル近郊にある大手チョコレートメーカー「ハルバ(HALBA)」を見学して、旧市街のチョコレート店をめぐりました。
「ハルバ・チョコレートの9割以上がサステナブル認証つき」

バーゼル近郊に本拠を構えるチョコレートメーカー、ハルバCEOのレカ・サライさんは言う。
「サステナビリティ・ラベルのないチョコレートは、いまやスイスではほとんど求められていません。いまハルバでつくっているチョコレートの90%以上がサステナビリティ認証つき。消費者も、生産現場がサステナブルでないカカオでつくったチョコレートは敬遠します」(レカさん)
ハルバは1994年にフェアトレード製品、2005年にオーガニック製品、2010年には気候中立製品を、他に先がけて発売してきた。現在は11ヵ国で栽培方法の改善など、カカオ農家へのトレーニングを支援しているという。
さっそく、工場を見学させてもらう。焙煎から包装まですべてが、この工場で完結するという。ミクロン単位にまで原料を粉砕するロールリファイナー、チョコレートの風味を調整するコンチングマシン、均質なチョコレートマスをつくるミキサーなど、巨大な機械が並ぶさまは圧巻。まるでチョコレート工場を舞台にした映画のなかに入り込んだようで、ワクワク、ドキドキしてしまう。

ツアー参加者全員と集合写真
それぞれの工程ごとに、試食用のチョコが用意されていた。焙煎後の「カカオニブ」は、香ばしさとほろ苦さがクセになる。ペースト状の「カカオ豆」は酸味と苦味が際立ち、いかにもチョコレートの原点という感じ。成型されたばかりのチョコレートは、まさにいつもの味だった。
チョコレート好きにはたまらない空間だが、見学中の撮影は禁止。機械や製造法にいろいろ“秘密”があるらしい。見学前に、目と心に焼きつける心構えが必要かもしれない。
バーゼルの「ウォーキング・チョコツアー」とは

ウォーキングチョコツアーのガイド、ステファニーさん
続いて、旧市街の大聖堂前で待ち合わせをしたのは、「ウォーキングチョコツアー」のガイド、ステファニーさんだ。
彼女が手にしていたのは、バーゼルの伝統菓子「バーゼラー・レッカリー(Basler Läckerli)」。通常はジンジャーブレッドのような生地に砂糖がけされた菓子だが、これはなめらかなチョコレートがコーティングされている。ひと口食べると、まずはスパイスとナッツの香り。そして、しっとりとした生地にはチョコレートのフレーバーが広がる。これは、スイス全土に店がある老舗「バッハマン(Confiserie Bachmann)」のオリジナル。このまちならではのおもてなしに、心がほころぶ。

まちを流れるライン川を眺めながら、バーゼルの歴史、カカオの主な品種の特徴やビーン・トゥー・バー・チョコレートの説明を聞く。さらにガイドのステファニーさんが持参したカカオ豆と、その実を包んでいる「パルプ」を搾ったカカオジュースを飲んでみた。ライチを思わせる甘酸っぱい味わいで、まさにカカオがフルーツだと実感できた。
ツアー最初の目的地は、チョコレート好き垂涎(すいぜん)のチョコのセレクトショップ「Xocolatl(ショコラトル)」。スイス国内のみならず、世界中のチョコレートが並ぶ専門店だ。

ここの一番人気は、原産地別のクーベルチュール(製菓用の高品質で脂肪分の多いチョコレート)のみをつかったホットチョコレート。20種類以上のなかから好みのものを選べる。筆者は、ペルー産カカオ75%のホットチョコレートをセレクト。ひと口飲んだだけで、カカオの香り高さと奥行きあるコクを感じる。ほんのりした酸味があり、かつ、のどごしはまろやか。まるでワインのように、チョコレートのテロワール(原材料が育つ地の風土や環境)を体感できた。
バーゼル最古の老舗で味わう、大人のためのチョコレート

次に訪れたのは、マルクト広場に面した、1870年創業の老舗菓子店「コンフィズリー・ティールーム シーサー(Confiserie Schiesser)」。バーゼル最古のこの菓子店は、1階でお菓子を売り、2階はクラシックなティールームとなっている。
扱う商品はすべて、店内で職人が手づくりした正真正銘のホームメイドスイーツ。チョコレート、クッキー、パン……どれもどこかなつかしく、しかし、いかにも正統派と感じる味わいだ。
スイス伝統の「キルシュシュテンゲリ」(チェリースティックのこと)は、さくらんぼの蒸留酒「キルシュ」をクーベルチュールチョコレートで閉じ込めた逸品。仕上げにダークココアがふりかけられたスティック状のチョコレートで、口の中でキルシュとビターなチョコレートが混ざり合う。大人の味のスイーツだ。スイスでは広く親しまれている定番チョコレートだが、「シーサーのものが一番おいしい」と好事家たちが声をそろえるという。たしかに、とってもおいしい!

歴史あるティールームの窓からマルクト広場の喧騒を眺めつつ楽しむ甘い時間、ぜひ味わってみて。
バーゼルの中心地ある1898年創業の「ベシュレ(Beschle)」も、代々続く家族経営の老舗菓子店で、ていねいに伝統を守り続けている。

モットーは、「菓子職人の技術に宿る芸術性を守り、五感で楽しむ時間を届けること」。店内のショーケースには、宝石のようなトリュフチョコレート、季節のケーキなどの繊細なスイーツ、焼きたてのペストリーやバゲットサンドまでが整然と並ぶ。
オリエンタルなパッケージの4種のチョコレートを試食してみた。とくに心に残ったのが、ゾウのイラストの「ラッシー」。ホワイトチョコをベースに、ヨーグルトとレモンの酸味、ほんのり香るカルダモン。インドのヨーグルトドリンク、ラッシーを思わせる味わいだった。

ツアーの締めくくりは、1935年創業の老舗店「Confiserie Brändli」。口のなかでとろけるトリュフチョコや、月替わりで登場するプラリネ、極上のアーモンドチョコなどを毎日手づくりし、新鮮な状態で届けることにこだわっている、店内に並ぶチョコは常に90種類以上。どれもがショコラティエの技が詰まった“作品”という感じだ。
スイスのチョコ協会「choco suisse」によると、スイスは、一人あたりのチョコ消費量が世界一。年間消費量はなんと10.6kgにのぼるという。板チョコ(50g)に換算すると約212枚分だ。日本は年間約2kgだから、スイスの5分の1ほど。チョコレート大国の旅は、とても甘いひとときだった。
取材協力:スイス政府観光局、photo&text:鈴木博美