漫画家・森泉岳土が選ぶ「気候危機とその背景まで学べる本」
難しい専門書でなくても、気候や環境の問題を多角的に学べる書籍はたくさんあります。漫画家の森泉岳土さんがオススメする本を見てみましょう。
自分たちの現在地を見つめ
想像することから道は拓ける
環境破壊のみならず人種差別や経済格差など、課題が複雑に絡み合う社会において、見失いがちなのが「現在地」。自分たちがいま、どんな流れのなかにいるかを示し、進むべき方向のヒントをくれるのが『Weの市民革命』です。この本が詳らかにするのは、トランプ政権やコロナ禍におけるアメリカの現状と、Z世代の若者たちがリードするさまざまなムーブメント。
なかでも特筆すべきは「財布に入っているお金はパワーである」との認識のもと、買う、買わないという意思表示によって社会を変化させつつある「消費アクティビズム」の動きです。買い物は、企業に票を投じること。食品であれ洋服であれ、製品を買うことで環境や社会にどんな影響がもたらされるのか、逐一立ち止まって考える重要性に気づかされました。
漫画「KUARUPU」は、ある異国の森を舞台に、そこに暮らす原住民が、開発を進める国家に侵略されるさまを描いた物語。掌編(しょうへん)ながら自然と文明の対立、国同士の駆け引き、死者の声に耳を傾けない権力者たちへの風刺など、さまざまな要素が含まれています。
物語は悲劇的な道筋をたどるのですが、最後の数ページで舞台は日本を思わせるハンバーガーショップに変わる。遠く離れた森林の聖域と都会のファストフード店がつながっていることを示唆します。ハンバーガーを手にした私たちはそれをどう考えるか。重い宿題を投げかけてくれる作品です。
「KUARUPU」
五十嵐大介/著
舞台はとある森。開発を急ぐ国家側の兵士に幼なじみを殺された原住民のクマリは、復讐を誓い、精霊を巻き込みある行動に出るのだった。『魔女 第1集』に収録。(小学館)
『Weの市民革命』
佐久間裕美子/著
トランプ政権樹立から、パンデミック、ブラック・ライブス・マター運動、大統領選まで。アメリカで今沸きあがる若者を中心とした運動の最前線が綴られる。(朝日出版社)
PROFILE
森泉岳土 もりずみ・たけひと
漫画家。1975年東京都生まれ。漫画家。墨をつかった独自の技法で作品を発表。SFをテーマにした作品に『セリー』(KADOKAWA)『アスリープ』(青土社)などがある。
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Illustration:Toru Ogasawara Text:Emi Fukushima Text & Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子