劇作家・市原佐都子がオススメ「ジェンダー問題を考える本」
社会問題に対して、さまざまな方法で姿勢を表明している劇作家・演出家・小説家の市原佐都子さんが、ジェンダー問題を考える、勉強する、身近に感じる本をご紹介。誰もが関係する大切な問題について、多角的に読み解ける2冊です。
生まれたままの姿では
生きられないという現実
私の演劇は、生命に関わることを題材としています。生きることを描こうとすると、どうしても「生まれたままの姿で、ありのままに生きられない」という現実にぶつかり、必然的にジェンダーの問題に関わる作品をつくってきました。
創作するうえで影響を受けたのが、ウーマン・リブ活動を先導した田中美津さんの『いのちの女たちへ』。彼女の活動や姿勢に刺激を受けるとともに、タイトルにもある「とり乱し」という言葉に共感しました。社会や人権の問題を考えるときには、必ず矛盾が生じます。正論を言うことで誰かを変えようとするのではなく、自分の非を隠さずに語っている。この本を読んで、自分のなかにある矛盾を作品にしていこうと決意しました。
『境界を生きる』は、性分化疾患、性別違和の方々を取材した本です。性分化疾患の子どもの親たちは、産んだ瞬間に男か女、どちらとして育てるのか選ばなければいけません。いまの社会のシステムでは、男か女、どちらかの性しかないことになっているんです。そのため生きていくうえで、さまざまな困難にぶつかります。性分化疾患は単に身体の状態を指す言葉なので、ジェンダーの本としての紹介は誤解を生むかもしれませんが、知らなければいけない現実だと思います。
『新版 いのちの女たちへ とり乱しウーマン・リブ論』
田中美津/著
70年代にウーマン・リブ運動の中心的存在だった作者が、自分自身を肯定して生きていくための活動、自身の半生、葛藤を綴る。1972年に上梓され、2016年に新版刊行。ときを経て読み継がれている。パンドラ刊。
『境界を生きる 性と生のはざまで』
毎日新聞「境界を生きる」取材班/編
性器や性腺などが典型的な男性、女性の形態を取らない「性分化疾患」と、身体と心の性別が一致しない「性同一性障害(現在は『性別違和』と呼称)」。その当事者と家族らを取材した新聞の連載を再編成。毎日新聞出版刊。
PROFILE
市原佐都子 いちはら・さとこ
劇作家・演出家・小説家。ソロユニット劇団Q主宰。2011年から活動をはじめ、人間の行動や体にまつわる生理、違和感を表現している。同年に上演された『虫』で第11回AAF戯曲賞を受賞。20年『バッコスの信女―ホルスタインの雌』で第64回岸田國士戯曲賞を受賞。戯曲本も白水社から刊行されている。
●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Photo:Toru Oshima Illustration:Adrian Hogan Text & Edit:Saki Miyahara
Composition:林愛子
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