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「最高の職人技」と「逸品が欲しい人」をつなぐ新ビジネス!
「最高の職人技」と「逸品が欲しい人」をつなぐ新ビジネス!
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「最高の職人技」と「逸品が欲しい人」をつなぐ新ビジネス!

革小物、漆器、陶器……。日本で埋もれてしまっている最高級の職人技術と、自分だけの逸品を求める人たち。その両者をつなぐプラットフォームとして「CraftShips(以下、クラフトシップス)」を立ち上げた森川義仁さん。職人の技術をサステナブルに残していくために必要なこととは? そして自分だけのアイテムを持ち、愛し、つかい続ける豊かさとは? 伝統と革新が融合したクラフトシップスに込めた想いや未来について、森川さんに伺いました(前編)。

オンリーワンなのに安売りされる現実

クラフトシップスの事業を端的に言えば、「最高のつくり手」と「オリジナルの逸品が欲しい人」をつなぐこと。約2年前に、会社員として営業・事業開発をおこなっていた森川さんが、日本の職人技術を生かした商品開発をおこなうD2Cブランドとして立ち上げたのがはじまりだ。

「もともとものづくりの体験工房が好きで、休日に旅行がてら各地の工房に伺っていたんです。陶芸作家さんの工房とか、漆器の木地師さんの工房とか。一番魅力を感じたのは、どの職人さんも高い技術を持っていて、その人にしかつくれないものを生み出しているということ。それくらい貴重で価値があるものなのに、お土産ショップや売店とかに、ふつうに並べられて安売りされているんです。それを見て、これはなんかもったいないなと思ったのと同時に、自分だけの逸品が欲しい人とこの技術をつなぐというビジネスにはニーズがあるんじゃないか、というニッチな匂いも感じたのです。まだ誰もやっていないなら私がやろうと思いました」(森川さん、以下同)

大学を卒業後、リクルート在籍中に日本の職人技術を活かした商品開発を行うD2Cブランドを立ち上げる。その後独立し、日本の職人技術を使ってオリジナル商品がつくれる“ものづくりプラットフォーム” クラフトシップスを開始した

そのサービスはいたってシンプルだ。Webサイトを通じて依頼者から商品製作のオーダーを受け、さらに詳しい要望をヒアリング。商品案や見積もりを提示し、依頼者の要望をかなえられるつくり手とすり合わせ、製作開始となる。サンプルをつくることも可能だという。

「多種多様な依頼者がいます。オリジナルグッズをつくりたいというインフルエンサーから、独自の革小物が欲しいというアパレルブランド、大学の記念品やホテル、飲食店でつかう器なども数多く依頼いただいています。日本だけでなく、海外からの問い合わせもあります。

はじめる前からある程度のニーズはあると予測していましたが、こんなにさまざまな業界からオーダーをいただけるとは想像していませんでした。みなさん、こだわりあるものをつくりたいけれども、どこにアクセスして誰に相談すればいいのかわからない、とあきらめていたようです。私には足を運んで築いたつくり手との関係があるからこそ、その技術が欲しい人をつなげる。この先は、もっともっと幅広い人たちにサービスを届けていきたいですね」

デザイン性と実用性の両立が何より大事

“つなぐ”過程で大切にしていることは3つあるという。

「ひとつはデザイン、2つ目は、つくり手の歴史や、ものづくりの背景。そして3つ目は、これが実は一番大事だと思っているのですが、実用的な機能価値です。いくら最高の技術を活用したものだとしても、つかいにくいものでは意味がない。実用性が伴っているからこそ、今日まで生き残ってきた職人技。そこを大切にしなければニーズは広がらないと思ったのです」

東京都台東区で100年以上続く、革小物専門工房の職人によるオリジナル革小物。手作業で薄くすいた2枚の革を貼り合わせて、1枚の革のように仕上げる「ベタ貼り」が施されている

たとえばクラフトシップスが手がけた革の名刺入れ。革小物の職人さんがつくったもので、森川さんも愛用しているものだが、とにかく機能性が素晴らしいという。

「非常に軽くて薄い生地です。ベタ貼りといって、2枚の革を貼り合わせているので強度がとても高いんです。しかも、縁の部分は手作業で美しく磨かれています。縁は樹脂が塗られたものが多いんですね。そうすると使っているうちに樹脂が剥がれてくるんですけど、これはいつまでもキレイなままです。つくるには手間がかかるし、もちろん価格も上がりますが、傷まないので長くつかえる。革は使用するうちに風合いが変わっていくのも楽しいし、何よりつくり手の想いやこだわりを感じながら使える逸品って、心が豊かになるんですよね」

こだわりの強い依頼者に出会うと燃える

とはいえ、自分だけの品を求めるこだわりの強い依頼者と、自分の腕に誇りを持っている職人さんの間に立つ仕事。スムーズにいくケースばかりではないはずだ。これまで、大きなトラブルはなかったのだろうか。

「もちろん職人さんにもできることとできないことがあります。そのギリギリを調整し、説得し、双方が満足できる逸品を仕上げるのは簡単なことではありません。けれども、だからこそプラットフォームとして間に立っている意味がある。誰にでもできることなら、すでに誰かがやっていたでしょうから」

たとえば、こんなことがあったという。

「2023年の干支(えと)は兎(うさぎ)ですが、その置物を陶器でつくりたいというお客さんがいらっしゃったんです。九谷焼の職人に依頼することになったのですが、九谷焼の置物をつくる場合、石膏で型をとってつくるのが一般的なんですね。それゆえ、細かい突起のようなデザインにするのは難しい。でも兎には耳や尻尾があります。職人さんには最初、『そういった細かい部分は再現できない』と断られたのですが、私は『型をとった後に耳と尻尾をつけては?』と提案した。『それならやってみる』ということで、何とかお客さんの要望に応えられたんです。つくり手の職人技術の可能性を探りながら新たな商品をつくることこそが、クラフトシップスの仕事なんです」

大正から続く九谷焼の置物専門の窯元に保存されている石膏型。100年以上にわたり、置物の成形技術が継承されてきた

それゆえ、「仕上がりにはさほどこだわらないかわりに、たくさん割安につくりたい」というオーダーが入ると、やんわりお断りすることもあるという。

「逆に、こだわりが強くてなかなか妥協してくれない依頼者のほうが燃えます(笑)。その理想をいかにうまくつないでスムーズに実現させるかが、私たちの腕の見せどころですから」

「日本の職人技を世界に送り出す船」を目指して

順調にオーダーを増やしていっているクラフトシップス。今後の事業展開についても聞いてみた。

「ひとつは、提供する技術の幅を広げることです。現状では伝統的な職人技術ベースの商品をつくるケースが多いのですが、ゆくゆくは新しいクリエイター、アーティストたちの技術もつなげていきたい。それに向け、地道に工房を訪ねたり、クリエイターさんに会ったりしているところです。その方がどういう熱量をもってものづくりに取り組んでいるかを重視しているので、自分の目で見て『この人なら』と判断したくて。時間がかかってしまい、まだまだつなげる技術の幅が狭くて、もどかしいんです」

福井県鯖江市、越前打刃物職人の工房

もうひとつの目標は、社名に込められている。

「このプラットフォームの最大の存在意義は、オリジナルの逸品をつくりたい人が、つくれる人のもとにスムーズにアクセスできる、というところにある。まずは、このプロセスの精度をさらに高めたいと思っています。そのうえで、職人技術の価値を感じてくれる人たちに、もっともっとクラフトシップスのことを知ってもらいたい。実は日本の職人技術に対しては、海外の方のほうが価値を感じてくれていたりするんですよ。興味を持ってくださる海外の方と話していると、日本へ旅行に来た際に、けっこうマニアックな場所まで製作現場を見学に行っていたりする。よさを感じるポイントも違っていて、私自身も勉強になります。

ですから将来的には、海外の依頼者を増やしていきたいと思っています。クラフトシップスという社名には、全国各地のクラフト(職人技)がシップス(船)のように世界中へ航海するという意味が込められている。外からの刺激によって、日本人があらためて自分の国が持つ職人技術の素晴らしさに気づいてくれたら、これほどの喜びはありません」

ーー後編に続くーー

text:山本奈緒子

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