水のプロが生み出した、「食べる水」って何だろう?
「人間のカラダのおよそ7割が水分」ということは、みなさんもご存じでしょう。私たちにとって欠かすことのできない水ですが、例年にも増して猛暑だったこの夏はとくに、水分補給することの大切さが取り上げられてきました。「水道水を飲もう。」というスローガンを掲げ、私たちにとってあまりに身近すぎる水道水についての提案を行っているのが、浄水器メーカーのクリンスイです。三菱ケミカル・クリンスイのマーケティング部でブランディングを担当する溝原ゆかりさんと広告宣伝部の戸越隆弘さんに、さまざまな提案について伺いました。
「水をゼリーにする」大胆な新発想
30年以上にわたり、高性能な浄水器を生み出しているクリンスイ。「コップ1杯の水をきれいに」というコンセプトのもと、現在は世界50カ国以上で利用されているグローバルブランドだ。
同社では浄水だけでなく、軟水や超軟水、出汁用、お米用など、さまざまな用途で使える浄水器を開発・販売している。一般家庭だけでなく、プロの料理人などにも認められているのだ。
「水は、人間にとっても非常に大切なものです。しかし日常のなかで、水そのものや、ましてや水道水にフォーカスした会話がなされることは、あまりないのではないでしょうか。私たちは水について伝えていくことがとても重要だと思っています」と話すのは、クリンスイでブランディングを担当する溝原ゆかりさんだ。
同社が今夏、菓子研究家の福田里香さんとともに提案したのは「食べる水」。クリンスイの浄水を使ってつくる、繊細な柔らかさをもつ“水のゼリー”だ。水をゼリーにして季節のフルーツやハーブ類を漬け込んだコーディアルシロップをかけていただく、あらたな水分補給方法だという。
食べる水は、なぜ生まれたのか。プロジェクトの中心メンバーである溝原さんはこう明かす。
「近年は水を飲む方が増えてきていますが、その一方で、水だけでは抵抗があるという方もいらっしゃいます。そうした方々はお茶やコーヒーなどにすることで、水分を口にしてくださることもあります。それならば、水を美しく見せ、食べてみたいと感じさせることができれば、それで水分補給していただけるのではないかと考えました」(溝原さん)
毎日2リットル程度の水を飲むことが推奨されるが、高齢者などは水そのままでは飲みにくい場合もある。だが、この食べる水なら季節感を感じつつ、おいしく水分補給ができるだろう。
ふつうのゼリーより「かなり柔らかい」新食感
食べる水の考案者、菓子研究家の福田さんは、水にたっぷりのハーブなどを入れる「フレーバーウォーター」を提唱した人物。同社とも、水を使ったレシピを提案するなどタッグを組んできた。 「通常のゼリーは、ゼラチンや寒天で固めますが、福田さんのレシピでは植物性凝固剤の『アガー』を使っています。アガーは海藻などからつくられており、クセがなく無味無臭なうえ、30〜34℃ほどで固まるので、常温で溶けにくいという利点があります」(溝原さん)
水のゼリーは、スプーンがスッと入っていく、とても柔らかなもの。これに柑橘のジュースやいちじく、メロンなど季節のフルーツでつくったコーディアルソースをかけるなどしていただくのだ。
実はこの食べる水、三重県・多気町にあるクリンスイの体験施設「VISON(ヴィソン)」で、今年7月に2日間、40個限定で実験的に販売された。広告宣伝部の戸越隆弘さんが語る。
「食べる水が、そもそも何なんだかわからないという状態から実際に召し上がっていただくと、ふつうのゼリーよりかなり柔らかいため、『食感が面白い』という感想を多数頂戴しました。『水の上にいろいろなソースをかけて食べられて楽しい』といった発想自体への評価もあり、とても好評でした」
日本に住む私たちとって、飲み水がきれいでおいしいのは当たり前。あまりに身近すぎて、ありがたみを感じづらいというのが正直なところだろう。けれども季節感も楽しめる「食べる水」ならば、水そのもののおいしさを実感できるうえ、フルーツなどの恵みも味わえる。水を見直す、いいキッカケを与えてくれるに違いない。
写真提供:三菱ケミカル・クリンスイ text:市村幸妙