「オフィスで野菜を育てて食べる」究極の地産地消はブームになるか?
スーパーマーケットやオフィスビルのなかにつくった畑=「ファーミングユニット(水耕栽培装置)」で野菜やハーブを育て、採れたてを消費者に提供する究極の地産地消システム「Infarm(インファーム)」がいま、急成長しています。2013年にベルリンで創業したインファーム社は、またたく間にヨーロッパ、アメリカに拠点を広げ、2021年日本上陸、東京・紀ノ国屋インターナショナル青山店に出店しました。いまや都内9店舗に商品展開する同社のファームは、この6月、ついに都心の企業オフィスにも進出! 高級スーパーや有名企業が次々に採用する、この畑の魅力を探りました。
水の使用量、土地面積は従来農法の5%でOK!
いまやスーパーなどの野菜売り場では、生産農家の名前や写真が添えられた商品は珍しくない。いや、むしろ「生産者の顔が見える」農作物のブランド化は消費者から大歓迎されており、主流になりつつあるといえる。日々、食卓にのぼる野菜たちが、どんな農法で、いかなる人の手で育てられたかを知ることは、「この野菜は安全だ」という信用、安心感につながるからだ。
2021年に日本に上陸したインファーム社は、これをもう一歩進め、生産者の顔が見えるどころか、「生産地は目の前」「生育過程が間近で見られる」という手法で急成長している。つまり、「販売店のなかに農場をつくる」というやりかただ。
インファーム独自の技術を搭載した、一見ショーケースのような「ファーミングユニット」をスーパーなどの屋内に設置すれば、あとはクラウド上で同社のプラットフォームに接続され、一定のサイクルで栽培が行えるよう、遠隔管理されるのだという。
インファームによれば、「この農法なら、従来の土壌ベースの農業に比べ、利用土地面積と水の使用量が約95%削減できるうえ、ファーミングユニット内は害虫のリスクが極めて小さいため、栽培期間中、化学農薬をつかわずに栽培できる」という。さらに、輸送にかかるCO2排出量も大幅に削減され、流通過程での廃棄ロスも防げると、いいことづくめらしい。
オフィス内で採れた野菜を、その場でランチに活用
老舗の文具・オフィス家具メーカー「コクヨ」は昨年、東京品川オフィスとショールームを大幅に改装、敷地と建物の一部をパブリックエリアとして地域の人たちに開放し「THE CAMPUS」としてオープンした。そこに今年6月、ファーミングユニットを設置した。
ここで採れた野菜やハーブは一般に販売されているほか、THE CAMPUS内カフェのドリンクメニューにもつかわれている。コクヨの従業員たちが、ランチタイムにファームで収穫された野菜を買い、ちょっとちぎっては持参の弁当に添えて野菜不足を補う……なんてことも日常化しているとか。
「インファームは、休憩時間やランチタイムに、従業員同士が話すキッカケにもなっています。『この野菜、お弁当に合うよね!』なんて、コミュニケーションの活性化につながっています。食べるだけでなく、小さな苗が大きく育っていくようすを楽しみに観察する社員もいますし、クラウド上で栽培環境が遠隔管理されていることをヒントにあらたなビジネスを考える者もいます。従業員にとっては、よい刺激になっているようです。」(コクヨ コーポレートコミュニケーション室 ・萩原航大さん)
都心のスーパーやオフィスビルのファームで野菜を育てるという、新手の地産地消。はたして日本に根づくだろうか。
text:伊藤睦月 photo:infarm/Stainislav