家具の端材(おがくず)でつくる「丸かじり野菜」がクラファンの舞台へ!
木製家具づくりのなかで出る大量の端材(おがくず)を発酵させた「微生物資材」を肥料としてつかい、安心・安全な野菜をつくりたい──。本来は廃棄されるものを有効活用してつくられた「丸かじり野菜」は来春、いよいよクラウドファンディングのリターンという形で、一般消費者のもとへ届くことになりました。前編に続いて、この取り組みを協力して行っている業務用家具メーカー「アダル」と農業法人「ONE EARTH」、それぞれの代表に話を伺いました。
8ヵ月で糖度の高いニンニクが穫れた!
2021年10月、福岡県にあるアダル(代表取締役社長・武野龍さん)の新工場敷地の一部は畑となり、家具端材からできた「おがくず」を発酵させた微生物資材を肥料にしてのニンニク栽培がスタートした。アダル社員とその家族が、ONE EARTH代表・田原政和さんらの指導のもと、ニンニク1万5000株の植えつけを手伝った。武野さんが言う。
「土地は弊社の敷地内ですが、私を含めアダルの社員は農業については完全な素人です。田原さんに委託料をお支払いし、当社の社員およびその家族に農作業を指導してもらいました。社員たちはふだん、工場勤務やデスクワークなので、太陽の下で体を動かすのは、かなり楽しかったようです」
種植えから約8ヵ月後の今年5月、アダルの畑では見事なニンニクがとれた。
「収穫も田原さんや農家の方々に加え、多くの社員の助けを借りて行いました。それは立派なニンニクがたくさん穫れたので、みなさん笑顔でしたね」(武野さん)
収穫されたニンニクの一部は、アダルが家具を納入しているカフェ、レストラン、ホテルや一般オフィスなどの設計会社やオーナーに、お中元として配られた。
トウモロコシの挫折から巻き返す
アダルには、飲食関係の顧客が多い。武野さんがつづける。
「飲食店さんはみな、SGDsに強い興味を持っています。でも、何から手をつければいいのかわからないでいらっしゃる。そんななか、これまで廃棄されていた家具端材を、農薬も化学肥料もつかわない野菜づくりの肥料にするという私たちの取り組みは、とても理解しやすかったようです」
お中元として贈ったニンニクも、「クセがなくて食べやすい」「たくさん食べても臭いが翌日まで残らない」など好評だったという。
「うれしいことに、『このニンニクを食材として仕入れたい』と言ってくださる地元レストランのお客さまもたくさんいらっしゃいました。ドレッシングで有名なレストラン『ピエトロ』さんのお力を借りて私どものニンニクの成分分析をしたところ、一般的なニンニクと比べて糖度が非常に高いという結果が出ました」(武野さん)
ニンニクで成功した勢いで、今度はアダル工場敷地内の畑でトウモロコシの栽培をはじめた。しかし5000株も植えたトウモロコシは、すぐに全滅してしまう。ONE EARTHの田原さんは原因をこう分析する。
「蛾の幼虫が発生しやすい時期だったことと、雨が少なかったことが敗因でした。この状況下では農薬をしっかり使わなければ、虫に食いつくされてしまう。ある意味、農薬の力が身にしみてわかりました。無農薬にこだわることのハードルの高さを、あらためて痛感しました」
そんな失敗を経て、ONE EARTHはこの9月からクラウドファンディングをスタートさせた。リターン商品はもちろん、微生物資材で育てた「旬のお野菜詰め合わせ」などだ。
農業と飲食業をつなげる「ハブ」になりたい
クラウドファンディングの目的は、大きく分けて2つあるという。ひとつは、微生物資材を大量に安定生産するために、家具端材と乳酸菌群、米ぬかなどをスムーズに撹拌する「発酵プラント」を建設すること。もうひとつは、クラウドファンディングのリターンとして設定した、自社の丸ごと食べたくなる作物「丸かじり野菜」のニーズがいったいどれくらいあるのかをマーケティング調査することだ。
「現在、ONE EARTHの販路は、地元の飲食店やスーパーマーケットと、個人契約いただいているお客さまくらいです。クラウドファンディングを通じて、より多くの方に私たちの取り組みを知っていただき、販路を拡大できればと考えています」(田原さん)
最後に、アダルの武野さんに今後の展望を聞いた。
「以前、全国的なカフェチェーンの運営会社から、『産業廃棄物扱いになっている、コーヒーのガラの有効利用法はないか』と相談をいただきました。当時はノウハウがなかったのですが、いまなら食品残渣(しょくひんざんさ)も微生物資材の原料になるのではないかなどのご提案ができると思います。そこから野菜をつくって、また飲食業者に納品できれば、美しい循環ができあがるでしょう。私たち製造業がハブとなり、飲食業と農業をつなげられれば、こんなにうれしいことはありません」
text:奥津圭介