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世界品質の「福山デニム」を守れ!「人と糸」を育てるプロジェクト
世界品質の「福山デニム」を守れ!「人と糸」を育てるプロジェクト
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世界品質の「福山デニム」を守れ!「人と糸」を育てるプロジェクト

いまや世界に誇るべき日本のデニム。その産地というと岡山が有名ですが、実は、国産高級デニム生地のおよそ50%は、広島県福山市で製造されていることをご存じでしょうか。国内の有名ブランドはもとより、欧州のラグジュアリーブランドでも採用されるデニムを生み出している福山。その街で、未来を見据えた、あるプロジェクトが立ち上げられました。

「産地の歴史」「つくり手の想い」「縫製の技術」を次世代に引き継ぐために

瀬戸内海のほぼ中央、広島県の南東部に位置する福山市。その北部エリアは、かつて備後絣(びんごがすり。久留米絣、伊予絣と並ぶ日本三大絣のひとつ)の産地として知られていた。絣とは、東南アジアから伝わったとされる技法を使用した織物のこと。江戸時代後期からは、普段着の和服に多くつかわれてきた。

「残念ながら、生活様式の変化などによって絣の需要は減少していきました。けれど、美しさと実用性の高さを兼ね備えた備後絣の技術は、脈々と引き継がれることに。絣に関わっていた機織り会社や衣料品メーカーは、絣で培った技術を応用して、高品質のデニムのほか、カジュアルウエア、ワークウエアへと移行して生き残りました。たとえばデニムには、完全に絣の藍染の技術が活かされていますよね」(繊維産地継承プロジェクト委員会『HITOTOITO』副委員長兼事務局・黒木美佳さん、以下同)

広島県福山市の北部エリアは、かつては備後絣の産地として名を馳せていた。現在は絣の藍染の技術などを活かすことで、ハイクオリティの国産デニムを生み出している。

このエリアでは、絣を製造していた時代から分業体制ができあがっていた。現在もその名残(なごり)を受けて、撚糸、製織、パターン、裁断、縫製、ボタンや鋲打ち、染色、洗い加工、プレス仕上げなどの工程を、それぞれの専門工場で職人が手がけている。

このように、ひとつの地域に「一枚の服を仕立てるために必要な、すべての工程をこなせる専門工場」が集積しているのは、全国的にも珍しい。福山が「繊維のまち」と呼ばれる大きな理由は、ここにあるという。

「高い技術力と製品のクオリティの高さは、国内だけでなく、世界中の服飾業界から信頼されています。具体的に名前を挙げることはできないのですが、国内の有名ブランドやヨーロッパのラグジュアリーブランドの製品には、福山で生まれた生地を使用して、福山でつくられたものが少なくありません」

すたれようとしていた地場産業。その高い技術力を活かした華麗なる転身は順風満帆、と思いきや、実は、技術を継承する担い手不足という切実な問題があった。

「このエリアには、縫製工場がたくさんあるんですけど、優れた技術力を持つ縫製工が高齢化していて、若い人が入ってこないのです。いま縫製工場で働いているのは、中国、ベトナム、カンボジアなどアジアからの研修生がほとんどです。彼らは3年経ったら帰国してしまうので、技術の継承ができないんですよ……」

危機感を覚えた縫製工場の経営者が集まり、勉強会のような形でスタートしたのが繊維産地継承プロジェクト委員会。その目的が「人(材)と糸を育てる」ことから、会には『HITOTOITO』というサブネームがつけられた。

「若者を集めるためにはどうしたらいいのか。ああでもない、こうでもない、とみんなでいろいろな案を出し合いました。最終的には、『小さくてもいいから、縫製を教える場をつくって人材を育てていこう』というところに落ち着きました。

そして、『縫製工場で働きたい人は、縫製の研修に来てくださいね』といった感じで人を募集したのですが、まあ、人が集まらなかった(笑)。『こんなんじゃダメだね』ということで、さらに話し合いを重ね、『工場で働きたい人に範囲を限定していても人が集まらないんだから、もっと門戸を広げて、誰でも参加できるようにしたらいいんじゃないか』ということになりました」

その結果、広く一般向けにデニムスクールを開講。デニムパンツをつくるために必要な専門知識や工業用ミシンをつかった縫製技術を1ヵ月(2週間の講座もあり)かけて学ぶもので、縫製のプロによる実技指導を受けられ、 卒業時には自分のサイズに合わせたオリジナルデニムパンツを、自らの手で縫い上げることができる。

HITOTOITOが主催するデニムスクールでは、デニムパンツをつくるために必要な専門知識や工業用ミシンを使った縫製技術を学べる。
 
デニムスクールでは、備後絣の歴史やデニムの専門知識などを座学のほか、工場や企業見学を通じて教えていく。見学の際は、生地製造、洗い加工など、このエリアならではの現場をめぐる。

「話し合いには縫製工場8社が集まり、『うちの工場の一角を提供するから、そこをスクールに』『じゃあ僕はテキストをつくるよ』『それなら、うちからは使っていないミシンを提供する』という感じで、手づくりのスクールがスタートしたのが2018年。HITOTOITOを立ち上げたのが2016年ですから、構想と準備にけっこうな時間がかかりました」

コロナ禍で一時的に回数が減少しているものの、おおむね2ヵ月に一度のペースで開催してきたスクールは、2022年秋の募集で第14期(2022年8月現在、受講生募集中)をかぞえ、13期までの卒業生は約100人に及ぶという。

「卒業生のうち、地元の工場に就職した方は1割くらいです。でも、内職という形で地場産業に貢献してくださっている卒業生もいます。私たちはイベントなどでワークショップを開催しており、その際のお手伝いに名乗りをあげてくれる卒業生も少なくありません。デニムスクールの卒業生たちは、街にとって貴重かつ優秀な人材なのです」

このほか、デニムスクールには、黒木さんらが想像していた以上の効果があった。

「スクール開講当初、受講者は福山市内や近隣の市町村の方々だけでしたが、SNSなどで発信しているうちに県外からも生徒さんが来られるようになって……。そうなると、すぐ近くに泊まる場所がないので民泊施設をつくらなくてはとなり、地元の活性化につながりました。県外から参加してくれた人たちは、ことあるごとにSNSでデニムスクールのことを発信してくれるので、さらに人が集まってくる。いい循環が生まれていると思います。遠くはフランスから参加してくれた人もいるんですよ」

当初、HITOTOITOの人たちは、「自分たちがやっていることには意味があるのか」と半信半疑なところもあった。しかしいまは、たしかな手応えを感じているという。

HITOTOITOでは、不定期で「端材マーケット」を開催。ハギレ、ファスナー、ボタン、ミシン糸、木綿テープなど、地元の縫製工場から出た、さまざまな端材をリーズナブルな価格で販売している。もちろん、すべて国産品だ。
「端材マーケット」で人気のデニムのハギレ。国産デニムのハギレは入手しにくいため、客から喜ばれているという。何げなく買ったものが、実は、スーパーブランドに使われている生地だった、ということもあるとか。

「最初は『そんなもん、続けられるの?』というような、周囲の冷ややかな目もありましたが、だんだんと認められるようになってきていると思います。福山市さんも、私たちのプロジェクトに価値を感じて、『サポートできることがあれば、やりますよ』と言ってくれているんです」

地場産業の担い手の「何とかしなければ!」の強い思いが、よい循環を生もうとしているこのプロジェクト。「FukuyamaDENIM」の名が、世界に知れ渡る日も近いのかもしれない。

取材・文:佐藤美由紀

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