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“繊維のまち”福山発、地元産デニムのアップサイクルプロジェクト
“繊維のまち”福山発、地元産デニムのアップサイクルプロジェクト
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“繊維のまち”福山発、地元産デニムのアップサイクルプロジェクト

かつては備後絣(びんごがすり)の産地として知られていた広島県福山市。時代の流れのなかで需要が減少し、絣の生産も斜陽になっていきましたが、絣で培った技術を応用して、高品質のデニムやカジュアルウエア、ワークウエアの生産へと移行し、“繊維のまち”として華麗なる転身を遂げました。その福山で、あらたな取り組みがはじまっています。「地元で生まれ、地元で着古されたデニムを使って、地元で新しい商品を生み出す」というプロジェクトに迫りました。

―――前編はこちらーーー

「産地型サーキュラーエコノミー」の実現を目指して

2020年、広島県福山市で、ひとつのプロジェクトが立ち上げられた。その名も「REKROW(リクロー)」。役目を終えたら廃棄されていたワークウエアに新しい命を吹き込むという、アップサイクル(創造的再利用)プロジェクトだ。REKROWは、WORKERを逆さまにした造語。ものづくりを担うワーカーの痕跡を伝えることで、“繊維のまち”と呼ばれる福山市北部の技術を未来に伝承しようという、産地型サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に向けた取り組みだ。

「そもそもの発端は、地元(福山)の造船会社が、創立100周年のタイミングでワークウエアを一新したことでした。従業員が何千人もいる、その企業のワークウエアがいっせいに切り替えられたのですが、新しいものには福山らしさを意識して、地元のデニム生地が採用されたんです。けれども、このワークウエアも消耗していきますから、いつか、また新しいものにチェンジしなければならない……。『そのときがきても絶対に捨てないでくださいね』と造船会社にアプローチするところから、このプロジェクトはスタートしました。ワーカーの働いた痕跡が百人百様にあらわれるのは、デニム生地ならでは。『捨てるのはもったいない。これをどうにかできないか』というところから、すべてが始まったんです」(REKROW広報担当・熊谷舞さん、以下同)

回収された旧型ワークウェア。福山のデニムを使い、地元で縫製されたこれらは、やはり地元福山の造船所で働く人たちが現場で着用していたリアルユーズドデニム。回収後に選別され、洗浄される

この造船会社のワークウエアには、地元・福山産のデニム生地が採用されていた。その生地は、国内ばかりか欧米の一流ブランドでも採用されている地元メーカーによるもの。もちろん、縫製が行われたのも地元だ。福山市北部には、ワークウエアの製造を手掛ける会社が多いのだ。

「デニム生地のワークウエアが採用されたのは、2017年のこと。私たちは、その2年後の2019年に着古されたウェアを回収しました。造船現場の厳しい環境で着用されたリアルユーズドデニムは、色落ち具合などが文句なしにかっこよくて素敵なんです。それを捨ててしまうのは、もったいなさすぎる。単純にそこから始まったわけですが、じゃあ、どうすればいいのかと考えたときに、『地域で生まれた素材は地域で循環させることで、ものづくりにつながる』という発想にたどりつきました。

福山北部エリアの『ものづくり』というと、まず浮かぶのが縫製です。縫製工さんが高齢化していて技術の伝承が難しくなりつつあるなか、世の人々に、縫製への関心を高めてもらう意味もこめて、『着古されたワークウエアを別のものに再生して販売する』という形になりました」

ワークウエアは、手作業で丁寧に糸を解いていって、一着ごと解体される。かなりの時間と手間を要する、大変な作業だ
ベルト通し、袖のカフスなど、小さなパーツも無駄にしない
解体されたワークウエアは、パッチワークのように、パーツとパーツを縫い合わせて、まずは一枚の布に仕立て上げる。大きさや形が異なるパーツを合わせてまっすぐに縫い、四角い布に仕上げるのには、高度な縫製の技術が必要だ

造船会社のワークウエアからつくられているREKROWの商品には、スニーカーやトートバック、カーディガンやベストなどのアパレルのほか、家具などもある。たとえばスニーカーは3万円前後と、決してリーズナブルとはいえないが、それらのほとんどは人件費。それだけ人の手がかけられているということでもある。

「造船所から回収したワークウエアは、選別をして、まずキレイに洗浄します。そして、ここからが大変な作業です。縫い目の間に残る、着ていた人や環境の痕跡をも楽しめるよう、一着一着、手作業で丁寧に糸を解いて、ウエアを解体していきます。その後はパッチワークのように、パーツとパーツを合わせて手作業で縫っていき、一枚の布に仕上げます。小さな端材をつなぎ合わせてまっすぐ縫うには、高度なワザが要求されます。その高い技術力は、福山北部エリアならでは。REKROWの商品によって、伝統技術の素晴らしさを伝えられたらな、とも思っています」

パッチワークの一枚布からは、たとえば、こんなスニーカーがつくられる。地元企業(SPRING MOVE)とのコラボ作品だ
地元企業(KOKOROISHI KOUGEI)とのコラボによって誕生したソファ。使われている生地の面積が広いぶん、リアルユーズドデニムの風合いがよくわかる

このプロジェクト、いうなれば「素材がもつ経年変化による独特の表情や愛着を伝えることで、次の世代に産地のものづくりの技術をつなげていく試み」だ。

「もうひとつ、目指しているところがあります。実は、私たちの活動の根底にあるのは、『役目を終えたワークウエアをどうするか』ということよりも、『つくり方や捨て方、その先の使い方まで想定したうえで、ワークウエアを生み出していきたい』という想いです。

私たちが目指しているのは、繊維の産地である地元の発展のため、将来にわたって持続可能な産地型サーキュラーエコノミーを実現するプラットフォーム。その実現のため、ある程度の従業員数を抱えた企業にアプローチをはじめたところです」

―――前編はこちらーーー

取材・文:佐藤美由紀

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