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「トカイナカ」生活が開く、新しい扉
「トカイナカ」生活が開く、新しい扉
COLUMN

「トカイナカ」生活が開く、新しい扉

地方移住といえば、定年後にふるさとに戻り退職金でのんびり暮らすか、若いうちに都会から沖縄や北海道などにほれ込んで生活をガラリ変える。そんなイメージでした。しかし最近増えているのは「いま暮らす場所から遠くない地方」への移住だそうです。

そんな生き方をまとめたのが、ジャーナリストの神山典士さん著『トカイナカに生きる』(文春新書)。都心から1~1.5時間の「トカイナカ」で仕事を継続しながらの二拠点生活。悪くなさそうです。

※以下は上記『トカイナカに生きる』からの抜粋です

7LDKの大型住居でソーシャル・シェアハウスを展開

地方移住相談の年齢層は、50歳以下の現役世代が中心となっている。

しかもその行き先(移住や二拠点居住の希望地)にも、コロナ禍で大きな変化があった。有楽町にある「認定NPO法人ふるさと回帰支援センター」理事長・高橋公が語る。

「これまでは長野県が3年連続首位でした。かつて、人気は北海道や沖縄、岡山、広島、福島(震災前)といった遠方にありました。つまり『都会を捨てる移住』がメインだったのです。ところがコロナ禍の2020年のデータでは首位は静岡県。トップ10に山梨、神奈川、群馬といった首都圏とその隣接県が入り、茨城は12位、栃木も13位です。つまり『都会を意識した移住』が主流になった。これは明らかにリモートワークやワーケーションを意識した移住や二拠点居住希望者が増えた証拠。『転職なき移住』です。私はこれを『静かな革命』と呼んでいます」

埼玉県比企郡ときがわ町の畑で育った野菜

『アエラ』2021年5月31日号によれば、東京23区からの移住者が増えた近郊の自治体の1位が神奈川県藤沢市、2位が東京都三鷹市、3位が神奈川県横浜市中区、4位が東京都小金井市、5位が神奈川県川崎市宮前区。東京23区を中心に同心円状となっている。いずれも都心からは電車で1時間から1時間半内。21位に栃木県宇都宮市、22位に長野県軽井沢町があるのは新幹線で1時間の距離だからだろう。 この圏内ならば、リモートワーク生活を満喫できる。毎日通勤するのは厳しくても、週に1~2回程度の出社なら苦にならない。むしろ始発電車で座って読書やPCワークに集中できる。休みの日は、豊かな自然環境のなかで子育てや趣味を楽しめばいい。

埼玉県秩父市に「トカイナカ移住」した松本さんが主催するカヌー教室。松本さんは、オフのときだけ自然に囲まれた生活を楽しむのではなく、それをメインにできる働き方に切り替えたという

そういう都会を意識した移住、二拠点居住、転職なき移住、ときどきは都会に通える移住を志向する人が明らかに増え始めた。もちろんコロナ禍を機にはじまったリモートワークやワーケーションの流れがあってこその現象だ。

経済評論家の森永卓郎は、この状態を1985年に予言していた。日本全体がバブル経済に浮かれているなか、すでに地方での人口減少、疲弊は進んでいた。だから森永は、やがて「トカイナカ」に光が当たると見抜いていたのだ。コロナ禍でやっと、それが顕在化したにすぎない。

実は私(神山)自身、「人の逆流」は、この国にとって、東京一極集中を解消する千載一遇のチャンスと考えた。これまでは多くの人が「上り列車」に乗らないと幸せになれないと考えていた。地方は疲弊し、過疎化、高齢化が進んで、シャッター商店街ばかりになった。これから人が逆流してトカイナカ生活を楽しみはじめれば、そこにビジネスも生まれるし、「下り列車」に乗った幸せづくりという新しい生き方が定着する。

私の故郷・埼玉の発展を考えても、人口の減少幅を抑え(もはや減ることは仕方ないが)、関係人口(その町に居住していなくとも愛着を持ちファンとなる人々)を増やすことが必要だ。ジャーナリストとして埼玉トカイナカの魅力を発掘発信して関係人口や移住者、二拠点生活者を呼び寄せれば、次世代を考えた社会貢献にもなるのではないか。そう考えて私は都心から電車で1時間半の埼玉県比企郡ときがわ町に7LDKの大型古民家を借り、「ソーシャルシェアハウス・トカイナカ」として同居者を募集。二拠点生活をはじめた。

神山氏が「トカイナカハウス」として借りた物件

同時に千葉、神奈川、栃木、山梨等の「トカイナカ」エリアを訪ねて、それぞれのスタイルでトカイナカ生活を実践している人たちを取材して歩いた。

移住も二拠点生活も、はじめるときは覚悟も決断力もいる。そこで二の足を踏む人も多い。もちろんやたらにはじめればいいというわけでもない。流行に乗ったファッションとしての移住では、地元の人々は受け入れてくれない。コミュニティの住人にもなれない。

神山氏は、トカイナカハウスで作文教室を開いた

新しい生活には目的が必要だし、それを得るためにはその地で持続可能な生活スタイルを獲得しなければならない。その意味で、トカイナカ生活の目的をいくつかに絞り、それらに向かってすでに持続的に活動している人たちの実態をレポートすることにした。

「トカイナカで起業する」「ローカルプレイヤーになる」「よそ者力を発揮する」「有機農業をする」「パラレルワークする」「人生や働き方を変える」「古民家で生活する」。

そんな切り口で、トカイナカ生活を実践している人たちを描いていこうと思ったのだ。

間違ってはいけないのは、コロナが終息してももはや前の生活に戻れることはないということだ。コロナのニューノーマル(新しい生活様式)を体験してしまった我々は、もう満員電車に乗らなくても仕事ができると知ってしまった。全国各地の顧客ともリモートで商談できる。会議もできる。全国から人が集まるシンポジウム等も、むしろ開催しやすくなった。リモートワークは交通コストも家賃も下げてくれた。何より学校でリモート授業を体験した10代は、「リモートネイティブ」として、何の不自由もなくネット経由のコミュニケーションを楽しんでいる。

私たちの働き方は、コロナで多様になった。それは生き方が多様になったことを意味する。

私たちは「トカイナカに生きる」。

新しい人生の扉がそこにある。

トカイナカハウスでの子どもたち
 

──次回は、神山典士さん『トカイナカに生きる』より、トカイナカ生活を送る人たちの実例をお届けします。


写真提供 / 神山典士

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