まさに漢字の「山」そのもの!「日光白根山」で、湖沼、湿原の絶景も楽しむ欲張り登山を
男体山や女峰山によって構成される日光連山。その北西端にそびえる日光白根山は、漢字の「山」を絵に描いたような形が特徴です。群馬県と栃木県の県境にある日本百名山のひとつで、標高2578mと関東以北で一番の高さ。直径約 1000m、高さ約300m の溶岩ドームといくつかの厚い溶岩流で構成される活火山で、周囲は国立公園に指定されています。夏はシラネアオイやコマクサなどの美しい高山植物が咲き誇り、秋は紅葉の名所として知られ、冬には山の麓にスキー場がオープン。自然がおりなす風景に合いに、秋の白根山を訪れました。
日光白根山の複数ある登山ルートのなかでも人気なのが、ロープウェイで一気に標高2000mまで稼ぎ、そこから山頂までおよそ2時間を歩くコースだ。ゴンドラに乗り込むと、秋晴れの空に黄金色の広葉樹が映える、ゴージャスな景観がお出迎え。そしてロープウェイ山頂駅に降り立ったとたん、今度は雄々しい溶岩ドームの日光白根山が目に飛び込んでくる。山頂部は3つに分かれていて、完璧な漢字の「山」を形づくっていた。
山頂駅前は開けた空間で、テラスやカフェ、貴重な高山植物を鑑賞できる「ロックガーデン」を完備。一周45分の「自然散策コース」と、信仰登山の石仏群をめぐる「史跡散策コース」が整備されており、気軽にハイキングが楽しめる。足湯もあり、ハイキングや登山の疲れを癒やすのにぴったりだ。
山に入る前に、駅前に鎮座する二荒山(ふたらさん)神社を参拝する。永享元年(1429年)、山頂に白根山神社が祀られたのがはじまり。長い年月で社が老朽倒壊してしまったため、日光の二荒山神社本宮から歓請(かんじょう=神の分霊を請い迎えること)、平成15年(2003年)に二荒山神社が建立された。
鳥居をくぐり、白根山の登山がスタート。歩きはじめは緩やかな登りで、朝のひんやりとした空気と針葉樹の森の風景が気持ちよい。
針葉樹林帯をしばらく進んで高山帯に入る。一気に展望が開け、砂礫(されき)の斜面を登っていく。振り向くと、遠くに頭を雲の上に出した富士山が、まるで空に浮かんでいるように見えた。
高度が上がると岩場が交じり、かつての火山活動の激しさを感じさせる地形が広がる。火山特有の荒涼としたガレ場(石や岩で埋め尽くされた斜面)のところどころに雪が混じり、青い空と白い雪のコントラストが美しい。景色を楽しみながら、一歩一歩上を目指す。左手に奥白根神社の祠(ほこら)が見えてくれば、もう少しで山頂だ。
標高2578メートルの山頂から見下ろす眺めは抜群で、男体山、女峰山を筆頭とする日光連山や中禅寺湖など、360度の大展望が楽しめる。足元には、深い緑に包まれた野生林が広がり、刻々と色が変化する五色沼のコバルトブルーの水面が輝く。日本の自然美を凝縮したかのような光景だ。壮大な景色を眺めながら食べるおむすびは、まさに格別の味!
山頂から足を延ばして五色沼と弥陀ヶ池をめぐれば、さらに変化に富んだ景色に出合える。五色沼までは砂礫が多く急な下りが続くため、足元に注意して進む。1時間ほど歩くと、五色沼のほとりに到着。浅瀬では水草や小魚がはっきりと見えるほど透明度が高い。水中に沈む木の枝や石が、鮮やかな青や緑に照らされ、まるで別世界に迷い込んだかのような神秘的な雰囲気。さらに30分ほど歩くと弥陀ヶ池がある。静謐(せいひつ)な水面を眺めるうちに、心が穏やかになっていくのを感じた。ただし、ロープウェイの下り最終便は16時30分と早め。乗り遅れたら大変と、美しい景観に別れを告げて下山する。
日光連山に囲まれたこの一帯は、いくつもの湿原や草原、湖や滝があり、変化に富んだ地形が特徴。その一部は、国際的に重要な湿地「奥日光の湿原」としてラムサール条約湿地に登録されている。また、多くの湿原植物や高山植物が分布し、ツキノワグマやニホンジカなどの野生動物が生息、180種以上の野鳥が確認されたという記録が残る。山岳、湖沼、滝、湿原がおりなす、多彩な自然美を有する自然遺産。次回は高山植物が咲き誇る春に訪れてみたい。
photo&text:鈴木博美
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