野生のベリー&キノコ狩り、キツツキの代わりに野鳥のおうちをハンドメイド! フィンランドで自然との共生を学ぶ
洗練された北欧デザインや美しいオーロラ、サンタクロース村にサウナと、世界的に熱い注目を集めているフィンランド。充実した社会保障や質の高い医療、教育制度などが整っており、世界幸福度ランキングで常に上位に顔を出しています。ではなぜ、この国はハッピーに満ちあふれているのでしょう? フィンランドの人々の暮らしに触れ、幸せのヒントを探しにいきました。第2回は、豊かな森との共生を体感します。
「訪れたときより、よい状況にして帰る」
ヨーロッパ最後の“手つかずの自然”が残るといわれる、フィンランドのルカ-クーサモ地域。首都ヘルシンキから飛行機で約1時間半、フィンランド中東部の北極圏・ラップランドの丘陵地帯にある人気の観光スポットだ。ロシア国境にほど近い森にたたずむ「ワイルドアウト」では、エコ認証を受けたアウトドアアクティビティを提供。テレサさんとパートナーであるトーマスさんの2人で、自然との調和を体験できるプログラムを用意している。
「私たちのデイトリップの目的は、自然に敬意を払いながら観光のあり方を見直すことで、地域社会と環境によりよい形で貢献すること。訪れる方々には、この土地とのつながりを深められる“本物のローカル体験”を提供しています。フィンランドの文化には、あちこちにエコの精神が根づいています。湖上でのスキーやウェルネスディナー、森の散策などを通じて、ポジティブなインパクトを感じられるでしょう」(テレサさん)

ポーランドの一流料理店で腕を振るっていたトーマスさんと、ヘルシンキの映画業界で働いていたテレサさん。自然とともに生きることを選択し、テレサさんの生まれ故郷であるルカ-クーサモ地域に移り住んだ
今回体験したのは、バードハウス(巣箱)づくりのワークショップ。フィンランドでは森林伐採などによって営巣場所(鶏が巣づくりする場所)が減っており、巣箱は鳥たちの重要な住処(すみか)になっているそうだ。キツツキが木をつついて巣穴をつくるかわりに、ヒトが快適な家をつくってあげるというわけ。
「バードハウスをつくる材料は、コミュニティの人が分けてくれるリサイクルウッズ。バードハウスをつくるために木を切ってしまったら、鳥たちから、さらに木を奪うことになってしまって、本末転倒だからね」(トーマスさん)
「もともとフィンランド人は、バードハウスが大好きなんです。昔から手づくりをして、家に飾ったり森に設置したりし、かつては卵も採っていました。鳥の研究もすごく発達しているんですよ。このあたりにはキツツキやフクロウ、ライチョウの仲間など約15種類の鳥が住んでいて、かわいらしい姿と鳴き声が楽しめます」(テレサさん)

ガレージを改装した工房で、糸ノコや金槌をつかって巣箱をつくる
参加者で4人グループをつくり、鳥たちの入り口用の穴を開けて屋根を取
りつけ、手づくりのバードハウスが完成。最後にメンバーみんなの名前を焼きつけて、巣箱を設置する森に向かう。
「みなさんが設置したバードハウスは誰がいつつくって、どこに置いたのか、ぜんぶ記録されています。自分が設置したバードハウスのようすは、ワイルドアウトのウェブサイトで見られますよ。どんな鳥が“入居”するのか、楽しみにチェックしてみてください」(テレサさん)

湖畔に広がる森にバードハウスを設置。澄んだ空気のなか、鳥たちのさえずりが響く。早く入居者が訪れますように!
手つかずの自然と聞いて、大木が生い茂る原生林をイメージしていたが、クーサモの森の木々はさほど大きくはない。大地には木々の間から光が降り注ぎ、フカフカの地衣類(菌類と藻類が共生した植物)が茂っていた。
「ラップランドは気候が涼冷で雪がたくさん降り、冬も長いので、木々の生育がゆっくりなんですよ。しかも、木材にするために樹齢50〜60年でカットしてしまうため、森がとても若いんです。森には美しい水と空気に育まれて、たくさんの植物が共生し、多様な鳥や虫、動物たちが暮らしています」(トーマスさん)

途中、立ち寄ったトーマスさん&テレサさんの自宅。ログハウスの壁には、テレサさんの祖父がハントした森の動物の剥製(はくせい)がいっぱい。まさにディズニー映画「アナと雪の女王」の世界だ
鳥たちが入居したくなりそうな、日当たりのよい開けた場所を探して、そこに“物件”(バードハウス)を設置。適度に太陽光が巣箱内に入るよう、東向きに取りつけるのがポイントだという。あいにくの雨で森の散策はできなかったが、バードハウスを設置するだけでも立派な森林浴。そこかしこになっているベリー類をつまみながら、やわらかな地衣類を踏みしめて歩き、キレイな空気を吸ってリセットできた。
「サステナブルな旅は世界的に一般的になりましたが、フィンランドでは一歩進んだ『リジェネラティブ(再生)・ツーリズム』を推進しています。サステナブル・ツーリズムはネイチャーアタックを与えないよう配慮されますが、訪れたときより、よい状況にして帰る(去る)のがリジェネラティブ・ツーリズム。ラップランドを訪れる方々に、われわれがそうしたアクティビティを提供することが、世界的な変化を促すと思っています」(テレサさん)
キノコ狩り名人とヘルシンキ近郊の森へ
フィンランドの豊かな森は、首都・ヘルシンキの周辺にも広がっている。生物学者で薬草の専門家であるアナさんは、ヘルシンキ近郊のまち、北エスポーやヌルミヤルヴィで「Foraging in Finland(フィンランドでの採取)」ツアーを実施。森に入り、野草やキノコを採取しながら学べるワークショップが好評だ。
森林浴&ワイルドフードのガイドでもあるアナさんに導かれて、ヘルシンキの中心部から車で30分のところにある、湖を望む森に入る。入り口で、森から飛び出してきた小学生たちに遭遇!
「森の中で体操したり瞑想したりする授業があるんですよ。夏から秋にかけては、キノコを採って学校に持ち帰り、みんなで研究するクラスもあります」(アナさん、以下同)

松やシラカバなどがすっくと立つ、フィンランドの美しい森
フィンランドでは、Everyman’s Rights(自由享受権)という権利がすべての人に認められている。
「ですから、誰でも自由に森に入って、ベリーやハーブ、キノコを採ってOK! フィンランドの森には37種類の食べられるベリーが実り、キノコは約200種類、ハーブは約300種類も生育しているんですよ。キノコのうち6種類は死に至る毒をもっているので、採取したものをキチンと判断できる人と一緒に行くことが大事です」(アナ、以下同)

そのまま摘んで食べられる、赤く色づいたリンゴンベリーの実。ラップランドのみならず、首都郊外の森にも豊かに実っていた
「キノコ採取のポイントは、ゆっくり歩きながら、目をしっかりと開いて、自然と一体になること。地衣類に覆われた秋の大地には、キノコだけでなくロウアンベリー(セイヨウナナカマド)やリンゴンベリー(コケモモ)、ブルーベリーも実っていますよ。古くから薬草として重宝されてきたヘザーや、香辛料としてつかわれているジュニパーなどのハーブも見つかります。あ、あそこの木の下に、ポルチーニがありますね!」

さっそくキノコを発見! でもこれは、残念ながらおいしくない種類のキノコだとか
ポ、ポルチーニ!? トリュフと松茸に並ぶキノコの王様が、まちの近くの森で簡単に見つかっちゃうわけ? これは張りきらなきゃと、目を皿のように見開いて森の中を探し回る。目が慣れてくるとキノコはあちこちで見つかり、そのたびにアナさんにドヤ顔で見せにいくのだが、「これは食べられないわ」「このキノコはおいしくないの」「さっきのと同じね」と、却下されてばかり。それでも「これはおいしいわよ!」と太鼓判を押されることもあり、夢中で森を歩き回った。
美しい森を散策すること約2時間。アナさんと一緒に、おいしく食べられるキノコを7種類ほど採取できた。カゴに採取したキノコは、森の中で試食させてくれるという。

バーナーにアウトドア用の鉄板をのせ、バターでソテー。シンプルながら、それぞれのキノコの味と香りが引き立つ。このままでも大満足だけど、醤油をちょっとたらして食べたら最高だろうなあ!
香り高いポルチーニに、これまた高級キノコであるブラックシャントレル(クロラッパダケ)、フルーティーな香りのアンズタケ、ナメコを思わせるヌルヌルが特徴のヌメリタケと、森のごちそうに舌鼓(したつづみ)。ソテーにつかうバターが、フレッシュでまたおいしい!
野生のベリーをつまみながら森のキノコを採り、木漏れ日の下で食べるなんて、幸せ以外のなにものでもない。かつては日本でも、アケビやコクワ、ナナカマドを採って食べながら、マイタケや松茸を狩るような生活をしていたんだろうな。失われつつある日本の文化を思い、フィンランドがまたうらやましくなる森の午後だった。
──第3回 本場フィンランドのサウナ編に続きます──




