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地産地“食”で地域循環を!徳島県・神山町「フードハブ・プロジェクト」が目指すもの
地産地“食”で地域循環を!徳島県・神山町「フードハブ・プロジェクト」が目指すもの
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地産地“食”で地域循環を!徳島県・神山町「フードハブ・プロジェクト」が目指すもの

SDGs先進県として世界から注目されている徳島県。フードハブやゼロ・ウェイストという言葉は、もうご存じでしょう。その言葉を日本に広めた神山町、上勝町は、人口減少で存続さえ危ぶまれる過疎のまちです。にもかかわらず、たえず新しいものが生まれているのはなぜでしょうか。それを支えているのが人と食でした。今回は、神山町をご紹介します。

さらに進化した神山町へ

「フードハブ・プロジェクト」の畑「TSUNAGU FARM」の、農薬、化学肥料をつかわずに育ったケール。霜がついて輝いている

徳島市内から車で約1時間。緑豊かな山に囲まれた国道を走りつづけると、神山町を流れる鮎喰川が見えてきた。待ち合わせているのは「フードハブ・プロジェクト」の食育部門からNPO法人「まちの食農教育」として2022年に独立した樋口明日香さん。神山町の食と現状について話が聞きたいと相談したら多くの人を紹介してくれたのだ。

食の神を祀る上一宮大粟神社

まずは食の神様にお参りをしようと、上一宮大粟神社へ向かう。祀られているのは食の女神、大宣月比売命。大きな鳥居をくぐり、長い石階段を上って参拝する。さらに裏山へ登り、ひらけた場所から鮎喰川と町並みを見下ろすと、神山が山あいの小さなまちであることがわかる。神山町を語るときのトピックには移住やサテライトオフィスなどもあるが、今春の話題は「神山まるごと高専」の開校。樋口さんやフードハブも給食で関わるという。このまちで、新しいものが生まれつづけるのはなぜか。その答えを探しにいく。

まちでつくったものを、まちのみんなで食べる

「かま屋」の厨房で調理中の料理長・清水愛さん。「農業チームがつくった野菜の味を活かせば、特別な味つけはいらない」と語る

人気の食堂「かま屋」でいただいたランチは、神山町の野菜をふんだんにつかったサラダとスープ、県内で獲れた鯛のポワレ。口に入れるたびに身体が喜ぶのがわかる。メニューは週替わりで、料理長の清水愛さんと、東京にいる監修のジェローム・ワーグさんの週一度のミーティングで決まる。先にメニューを決めるのではなく、いまが旬の食材、いま地元でとれる食材ありきで考えるのが基本スタイルである。

この日のメインは徳島県産の鯛のポワレとニンジンロースト

かま屋を運営するフードハブ・プロジェクトは神山町を拠点とする農業の会社だ。その始まりは2015年、神山町の地方創生戦略を検討するワーキンググループ内で「神山独自の農業の担い手を育てる仕組みが必要」という課題が浮かび上がったこと。まちが過疎化すると農業が弱り、さらに人口が流出する悪循環に陥る。農業の担い手を育て、食堂やベーカリー、食品店を運営し、加工品の開発、食農教育にまでつなげる必要があると、フードハブが始まった。

かま屋に隣接する「かまパン&ストア」。ここのパンも、その日の食材や天気に合わせてつくられたものばかりだ

中心人物のひとりが白桃薫さん。神山町の農家に育ち、東京の大学を卒業した後は神山町役場に就職。行政側から農業を見る立場で耕作放棄地問題などに携わっていたが、父親が米の収穫前に病気で倒れたことが大きな転機となったという。自分の田んぼだけでなく、他の農家の収穫も手伝っていた父・茂さんが倒れたことによる影響の大きさを目の当たりにしたのだ。

「TSUNAGU FARM」で育てているケールと白桃薫さん。このケールは、かま屋のランチで揚げチップスとして提供されていた

「ひとりいないだけでこのエリアの農業がストップしてしまったことに衝撃を受けました。自分が実家を継ぐだけでは根本的な解決にはならない。持続可能な農業の人材育成をするべきと考えたんです」

そして白桃さんは共同代表である真鍋太一さんとフードハブを立ち上げ、専業農家を増やし、収穫した作物を食べ支える、“循環する食”実現のために取り組んでいる。茂さんら農業のプロの指導で、いまは5人の未経験者がここで農業を学んでいる。神山町の食と人をつなぐ基幹となり、まちを支える。地域でつくり地域で食べるというタネまきは、着実に進んでいるのだ。

フードハブ・プロジェクト

「地産地食」を軸に、神山町で育てたものを地域で食べることで地域の関係性を豊かにし、次の世代につないでいく。そのために農作物を育てるTSUNAGU FARMと、かま屋、かまパン&ストアを運営。

DATA:徳島県名西郡神山町神領字北190-1

棚田の風景を守るため実践する「農ある暮らし」

かま屋や町役場のある神領地区を経てさらに奥へ。人口約30名という江田集落で、昔ながらの方法で米づくりや地域活動をしている団体を紹介してもらった。植田彰弘さん、千寿美さん夫妻、兼村雅彦さんの3人で活動する「エタノホ」だ。

エタノホの3人。植田彰弘さん(写真右)が「神山塾」の3期生で、千寿美さんが5期生、兼村雅彦さんが6期生として出会った。兼村さんは神山町に地域留学をしている高校生たちの寮「あゆハウス」のスタッフでもある

彰弘さんが神山町に来たのは東日本大震災後の2012年春、地域おこし的人材を育成する「神山塾」に参加するためだった。まもなく出合った江田集落の棚田の風景に魅了され、この風景がどうつくられているか知りたくなったという。すぐにでも江田に移り住みたかったが、突然現れた若者に家は貸してもらえず、黙々と地域行事に参加し、道路清掃や草刈りなどの手伝いをつづけること4年。ようやく家を借りられた。

エタノホの活動は、おもに減農薬、無化学肥料、天日干しでつくる棚田米の栽培。棚田の地形上、必要な機械がつかえないので手作業も多い。江田の棚田は川からの水路を共有しているため、水を引くときは他の田の取水口を堰き止めなければならない。全10世帯の生活様式を把握し、調整することなしに田んぼは耕せないのだ。

江田集落の棚田の風景。3月下旬から4月中旬にかけては菜の花が咲き、あたり一面黄色に染まる

「蛇口をひねれば水が出るわけではない。自分たちの米づくりさえできればいいというわけではないことを江田で教えてもらいました。ここで食べ物をつくるには、他の人の暮らしも理解して、いい関係性を築かないとできません。その学びが原点にあるから、大量生産大量消費ではなく、つくられたものをいただくことをありがたく感じられるようになりました」

現在約30名の江田集落で移住組はエタノホの3名のみだ。

「僕たちが美しいと思う棚田の風景は、ひとり一人の暮らしが築き上げたもの。支え合い、手間ひまかけた日々の結果がこの風景なんです」

現代的な暮らしとは正反対のようでも、手間をかけることでしか得られないもの、感じられないことがある。彼らの目下の願いは仲間を増やすこと。「次世代に伝えていけるように、きっかけづくりなどを積極的にやっていきたいと思っています」

エタノホ

神山町の江田集落で、米づくりを中心とした「農ある暮らし」を実践。高齢化により農業従事者が減少するなかで棚田を再生し、伝統的な手法で米づくりをつづけている。

DATA:徳島県名西郡神山町上分字江田127-2 www.etanoho.com/

●情報は、FRaU S-TRIP 2023年4月号発売時点のものです。

Photo:Mai Kise Text:Nobuko Sugawara(euphoria factory)

Composition:林愛子

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