徳島・阿南海岸サステナブル紀行②牟岐町のジビエと伝統林業
SDGs先進県として、さまざまな取り組みを進めている徳島県。その南部、国定公園にもなっている阿南(あなん)海岸沿いに、美波(みなみ)町から牟岐(むぎ)町を経て海陽町を訪ねました。そこで出会った人びとは、身近にあるものを守ることで、町を循環させつづけていました。
イノシシを獲って運んで捌く! サーフボード職人兼猟師
日和佐の海の次に訪れたのは、美波町と海陽町の間にある牟岐町。南岸の町は海だけでなく、山とも深いかかわりがあるのだ。畑を守ること、動物を獲ること、木を伐採すること。そのすべてに人が適切にかかわることが、自然も人も守ることにつながる。
「獲物がかかっているかもしれない」と、猟師の家形(やがた)智史さんの軽トラックの荷台に揺られながら山の中へ。最初のポイントで動けなくなっているイノシシを見つけた。
家形さんは、イノシシの脚を結わえて肩に担ぎ、ドドドッと山を降りて役場に捕獲の報告をしたあと、血抜きをして内臓を取り出し、川に浸けて冷却した。この間、わずか60分ほど。とんでもない早ワザだ。
家形さんが沖縄から牟岐町に戻ったのは12年前。故郷で人の役に立ちたいという想いがあったという。
「若い世代がなんとかせなアカンと、同級生と地域おこしの活動を始めました。『牟岐町の麦で牟岐ビールをつくろう』ってなったときに、野生動物による農作物被害のことを知ったんです。それで自分らで畑を守ろうと、狩猟免許をとりました」
農作物を荒らす害獣を駆除する猟は、技術の習得、設備投資、山の見回りと、時間も資金も体力も必要な重労働だ。家形さんは、サーフボード職人との兼業で猟をはじめて6年。「農家さんのためにも、猟師は必要」と、県猟友会の青年部員として、狩猟者の確保や初心者向けの講習なども積極的におこなう。
「ジビエはくさい、硬い、まずいと思っている人が多いのは、昔は処理も不十分だったから。そのイメージを変え、おいしさを伝えたいんです」
次に牟岐町で唯一の炭窯を訪れた。里山に囲まれた牟岐町は、世界的にも珍しい樵木林業で知られる地域だ。この伝統林業は、育った木を見極めて切り出したあと、谷間や傾斜を利用して集積場に運び、乾燥させ、川に流して出荷する独特の形態をとっていた。その歴史は室町時代にまでさかのぼるという。
樵木林業のおかげで、風通しがよく強い山を保ち、多様な生物と美しい水を育んできた。だが、近年は放置された里山の鳥獣被害や、菌による伝染病で植物が枯死する「ナラ枯れ」などの弊害が深刻化している。
「昔は山全体で樵木林業をしていたけどね。最近は後継者不足で放置されて劣化する木が増えている。そういった木は伐採しないといけないけど、伐採しすぎると土砂くずれなどの心配もある。樵木林業があるから山の循環が守られてきたんだ」と語るのは、伐採した木で備長炭をつくっている牟岐色窯の西澤秀夫さん。かつて地域に20ほどあった炭窯も、現在はここのみとなった。
価値ある林業を後世に残すため、地域おこし協力隊によるサポートもあり、牟岐町での若者の視察や炭焼きの体験会が開かれている。「そろそろこの窯も建て直さないと」と西澤さん。湿度や天気、煙の色を長年の感覚で見極め、できあがる炭は、火つきがよく長もちする。「カンッ」と炭を切る音が山間に響きわたる。「お父ちゃんのつくる炭はね、音が違うんよ」と妻がうれしそうに見守っていた。
▼徳島・阿南海岸サステナブル紀行③につづく
●情報は、FRaU S-TRIP 2021年12月号発売時点のものです。
Photo:Ko Tsuchiya Text:Mana Soda Composition:林愛子
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