幸福度世界一のフィンランド人から学ぶ“幸せになる秘訣”【第2回】
国連の「世界幸福度ランキング」で、2018年から7年連続で1位に選ばれている北欧の国、フィンランド。日本は2023年には47位でしたが、今年は51位と順位を落としています。各国約1000人への生活満足度調査をもとにしたこのランキング、フィンランドの人びとはなぜ、自らを幸せと感じ、生活に満足しているのでしょう。その理由を探るため、フィンランド航空で首都・ヘルシンキへ飛んだトラベルライターの古関千恵子さん。今回はそのレポート第2回です。
ヴァルティオサーリ島の水辺にいるだけで幸せになれる
「健康の森プログラム」を主催するアデラ・パユネンさん
フィンランドは世界最大の群島エリアに位置し、首都・ヘルシンキ沿岸にも、330の島がある。そのひとつ、ヴァルティオサーリ島で、8年前から「健康の森プログラム」を開催しているのが、生物学者であり、「テルヴェユスメッツァ(健康の森)出版」を運営する文筆家でもあるアデラ・パユネンさんだ。
アデラさんもまた、幸福度No.1の国に暮らす“ハピネスハッカー(幸福の達人)”のひとり。「自然を通じたウェルビーイング」を提唱し、ヘルシンキの森の中で暮らす。彼女が出版社の共同創立者のマルコ・レッパネさんとともに主催する、健康の森プログラムを体験してみた。
プログラムでは、この看板に示されたトレッキングコースを歩く
彼女はヴァルティオサーリ島の森にある池のほとりで、巨大な岩を前にこう語り始めた。
「この巨岩はどうしてこの水辺にあるのでしょう。巨人が投げたのでしょうか? 氷河期が終わり頃、この場所にはバルト海の氷湖がありました。巨岩は氷山に乗って移動してきて、この場所に留まったと考えられます。このように、自然は巨大なものを簡単に動かせます。私たち人間を動かすことなんて、本当にたやすいことです。たとえば体育館内と自然のなか。同じ距離を歩いても、自然のなかのほうが体が軽く感じます」
フィンランド人は水辺で水面を眺めるのが好き
「フィンランド人は水辺に行き、ただ水面を眺めているだけで幸せになれます。この国では10人にひとりが水辺に別荘を持っていて、夏の間は、バカンスなど何らかのかたちで別荘へ行く機会があります。そこで薪を割ったり、水を運んだり、とてもシンプルに暮らします。そして国じゅうが雪に包まれる冬の間、別荘で過ごした夏の日々を思い出しながら過ごすのです」
アデラさんは水辺から場所を移し、森のトレイルを歩きながら話を続けた。
プログラム参加者一同、森の小径を歩く
「自然が私たちによいものを与えてくれることは、かつては常識でした。けれど徐々に忘れ去られ、いま、私たちはふたたび“車輪の再発明”をしています。この健康の森プロジェクトも車輪の再発明のひとつでしょう。このプログラムの終了後にみられる主な効果は、参加者の精神衛生の改善。そして皆さん、他人に対して親近感を抱き始める傾向があります。今日の世界情勢を見ると、私たちがお互いにもっと親近感を持つことは、とても重要なことです」
トレッキング中に突然、「ここから後ろ向きに歩きましょう!」
森のあちこちに古民家やサウナ小屋があり、そのうちのひとつでランチをいただいた
森を抜けて、開けた場所に出ると、アデラさんは突然、クルリと反転して後ろ向きに歩き始めた。
「健康の森プロジェクトでは、ここから後ろ向きに歩きます! あれは12年前のこと。冷蔵庫を2人で運ばなくてはならず、私が後ろ向きになってこの道を歩くことになりました。すると何が起こったと思います? 歩いている間、すべての悩みを忘れていたのです。翌朝、筋肉痛に気づきました。これはいつもとは違う筋肉をつかった証拠です。プログラム内で後ろ向きに歩く主たる目的は、“いつもとは何か違うことをする”ことです。心をいつもと少し違った状態に置き、脳の運動機能に挑んで、脳の神経に新しいつながりをつくることです。そうすれば、いつの間にか悩みすごとも忘れているはずです」
プログラムを主催するアデラさん(左)とマルコさん
そしてアデラさんは、やわらかな笑みを浮かべながら、こう続けた。
「もし、あなたにとって後ろ向きに歩くのが簡単すぎるなら、後ろ向きに走ったって構いませんよ!」
取材協力:Visit Finland https://www.visitfinland.com/ja/ Finnair https://www.finnair.com/jp-ja
Text & Photo:古関千恵子
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