徳島・阿南海岸サステナブル紀行① 日和佐の伊勢海老と海陽町の牡蠣
SDGs先進県として、さまざまな取り組みを進めている徳島県。その南部、国定公園にもなっている阿南海岸沿いに、美波町から牟岐(むぎ)町を経て海陽町を訪ねました。そこで出会った人びとは、身近にあるものを守ることで、町を循環させつづけていました。
天然記念物アカウミガメが産卵する浜
海陽町に着いてすぐ、フリーサーファーの永原レキさんに誘われてバーベキューに参加した。ジビエとカツオのわら焼きを堪能するところからはじまった今回の旅。毎朝、波の音で目覚め、宿の看板犬に「おはよう」の挨拶。船の上では海から揚げたばかりの牡蠣を剥いてもらい、行く先々で10kgの米と10尾もの伊勢海老、袋いっぱいの炭をわたされた。さらにはハンターと山に入り、ワナにかかったイノシシを捕獲──。すべてこの地域の日常だ。
ここに暮らす人びとを知れば知るほど、取り組みや活動という言葉が野暮に思えてくる。彼らはただ直感的かつ真摯に、自分にとって身近な存在を大切に守っていた。だからこの地域は、人は、気持ちよく巡っているのだろう。
あいにくの天候で、イメージしていた美しい青い海は見られなかった。しかしだからこそ、そのほかのことがくっきりと見えた。彼らがいるから、この地がある。海と山に囲まれた小さな町々に息づく、大きなパワーに触れる。
「資源管理型漁法」で
名物の伊勢海老を守っていく
豊かな海洋資源を取り戻すため。漁に不向きな海域を安定した漁場にするため。可能性を信じ立ち向かう人たちに出会った。
「漁師たるもの、一匹でも多く獲るために、いかに頭をひねれるかってね。でも、20年くらい前から資源が明らかに減って、このままのやり方じゃダメだと感じたんですよ。これは何とかせんといかんてね」
日和佐町漁業協同組合組合長の豊﨑辰輝さんは言う。制限を設けながら適正な量を獲る伊勢海老の「資源管理型漁業」に取り組んでいる。自主的な操業日数や漁獲量、サイズの規制、それらのデータ管理を徹底し、1999年には約8トンだった漁獲高を、翌年には12トン、15年後には18トンとV字回復させた。
この結果を出すために不可欠だったのが、漁師たちの理解と協力である。「漁師は、他人の意見を聞かん人が多いから」と笑う豊﨑さん。日和佐地区のすべての漁師を説得するため、信頼関係を築くためのコミュニケーションを欠かさなかった。漁の解禁日には若者と年配者がペアになり船を出すなど、世代を超えた漁師間の交流も生み出した。高齢化と後継者不足の漁業者のコミュニティが、豊﨑さんのチャレンジをきっかけにどんどん活性化している。
「管理は本来、漁師が一番嫌いなことなんやけどね(笑)。自分は、日和佐の海のいい時代も悪い時代も知っている。だからこそ、やるべきだと思ったんです。いろいろ言われたりもしたけど、実績を出しましたから。これまでの漁業を通した旅が、自分の見解を広げてくれましたね」
“世界一おもしろい水産業へ”をコンセプトに掲げ、海陽町の那佐湾で4年目の牡蠣養殖に取り組むのが「リブル」だ。那佐湾はサンゴも生息する美しい海だが、それゆえに栄養分が少なく、牡蠣養殖には不向きだ。リブルの岩本健輔さんが参考にしたのは、キレイな海でも上質な牡蠣の養殖に成功したオーストラリアの「シングルシード生産方式」。海に設置したポールの間にワイヤーを張り、そこに牡蠣を入れたバスケットを吊り下げ、干満に合わせて牡蠣が海水に入る時間を調整することで天然に近い環境をつくり、強く育てている。
それだけでなく、loTセンサーを利用して水温や濁度などの情報をデータ化してクラウド上で管理し、スマート漁業による安定的で効率的な養殖を目指している。バスケットに入れることで不要な付着物を防ぎ、きれいで安心な牡蠣殻を保てることも大きな特徴。
「収穫量や大きさなどは牡蠣の名産地にかないません。でも、僕たちがつくるのはキレイな海でつくったキレイな牡蠣。その生産背景を理解してくれる方に食べていただきたいです」と岩本さん。未来の牡蠣養殖においてシングルシードが重要な役割を担えるはずだと期待を膨らませる。
「牡蠣養殖が100%シングルシードに置き換わらなくとも、従来の方法とミックスするなどして改善できることはあると思うんです。僕らは種苗屋であるのも強み。日本の牡蠣の種は99%以上を天然に頼っていて、気候変動に大きく左右されます。だからこそ人工の種で全国の牡蠣産業の下支えができればと思っています」
▼vol.2につづく
●情報は、FRaU S-TRIP 2021年12月号発売時点のものです。
Photo:Ko Tsuchiya Text:Mana Soda
Composition:林愛子
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