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私たちは毎日、茶碗1杯分の「まだ食べられるもの」を捨てている!? 日本のフードロスを考えよう
私たちは毎日、茶碗1杯分の「まだ食べられるもの」を捨てている!? 日本のフードロスを考えよう
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私たちは毎日、茶碗1杯分の「まだ食べられるもの」を捨てている!? 日本のフードロスを考えよう

食べることは、生きる基本。未来の食を考えるには、現状を知ることが大切。あらゆるシーンで廃棄される食品と対策について、愛知工業大学経営学部経営学科教授の小林富雄さんに伺いました。

日本では年間600万トンのフードロス
東京ドーム5杯分が、ごみになる

食べ物は、農業や漁業の生産現場から、貯蔵施設、食品工場に運ばれ、スーパーなどの小売店、レストラン、家庭へと流れるようにつながっている。このサプライチェーンの過程で起きているのが、まだ食べられるものが、さまざまな理由で廃棄される「フードロス&ウェイスト」問題だ。世界では毎年、13億トンもの食料が廃棄されている。日本では年間約600万トン、その量は東京ドーム5つを一杯にするといわれる。国民ひとり当たりの食品ロスは1日につき約130g、年間で約47kg。私たちは平均して、毎日茶碗1杯分の食品を捨てていることになる。長年フードロス研究に携わる小林富雄さんは語る。

「日本の場合は、年間約600万トンのうち、生産から小売り・外食までの事業系食品ロスが324万トン、家庭から出る家庭系食品ロスで276万トンとなっています。事業系食品ロスは、規格外品、返品、売れ残りや食べ残し。家庭系食品ロスは、食べ残し、過剰除去、直接廃棄が主な理由です」

日本でつかわれている「フードロス(食品ロス)」という言葉は、「食べ物をムダにしている」ことを指す点では世界各国と変わらないが、意味あいは世界標準と大きく異なる

「国連で定義されるFood Lossは、主に天候不順や劣化、産地での生産・収穫から店舗に届くまでの輸送中に発生した廃棄のこと。Food Wasteは、まだ食べられるにもかかわらず、人の自由意思に基づいて捨てられてしまうもの。食べ残しや賞味期限切れ食品などで、小売りや消費の段階で廃棄されるものです。SDGsでの削減目標に『2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体のひとり当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる(ターゲット12.3)』とありますが、人間の自由意思によるものは人間の努力で半減できるはずということで、Food Wasteの目標をより高く具体的に掲げています。一方で、日本語でいう『フードロス(食品ロス)』は、食品から発生する廃棄物全体を指す『食品廃棄物』のうち、まだ食べられる部分(可食部)を指します。バナナでいえば、皮は食品廃棄物ですが、中身はフードロス。国際的な課題が『生産から消費までのどの段階で廃棄が発生するか』というごみ問題を軸にすることが多いのに対して、日本の場合は『可食部について』です。食べ物についてこれだけきちんと考えている国は他にあまりないといえるでしょう」

適正価格で品質のよい商品が増えれば
フードロスは減って皆が幸せに

先進国か途上国かだけでなく、各国の環境、文化、習慣などの違いから生じる問題も異なるが、グローバル化の時代においては、SDGsの目標にあるように包括的に捉え、根本から変えていこうという動きが活発化している。

「欧州ではサプライチェーン全体を本質的に見直し、各段階が連携しながら動き始めているので、日本に比べて生産や出荷の段階でのフードロス対策が進んでいます。個人的な思いとしては、『もったいないから食べる』という心がけに頼っていた日本は、欧州に倣(なら)ってサプライチェーン全体でフードロスを減らすことを重視した新しいシステムを進めていくべきだと思います。食料不足で貧しかった時代には『もったいない』という言葉がスローガンのように響きましたが、飽食の時代においては、これに頼るだけでは難しい。なぜフードロスを減らさなければならないのか、ということを根本から考えなければならない段階にあるのです」

これまでの日本の食のサプライチェーンは、価格と数量ばかりに注目し、欠品防止のために大量陳列し、過剰在庫を抱え、値下げ競争で余った食べ物は捨てるというシステムをつくってきた。質の評価が伴っていなかったことも現在の問題を引き起こしているという。

「どこに行っても価格アピールばかりで、商品そのものの価値を伝える話がない。消費者が本質的な価値を理解するためには、生産者や事業者とのコミュニケーションが必要ですし、値段以外の価値をきちんと理解したうえで買えるようになるといい。適正価格で品質のよい、本当の意味でのおいしいものが世の中にあふれてくると、フードロスは減っていく。それがみんなが幸せになる手段だと思います」

「捨てない」「残さない」以外にできること
消費者同士でつながり、価値をシェア

サプライチェーンの問題は個人で解消するのは難しいが、毎日の暮らしのなかで、「食べ物を捨てない」「残さない」「ムダにしない」以外に何ができるのだろうか。

「消費者同士でつながってみるのはどうでしょう。いまはSNSやアプリで同じ思いを持っている人を見つけやすい。個人的には、ECサイトの消費者評価を食品の世界にも採り入れられたらいいなと考えています。海外のアプリで、半額になった商品情報を消費者が撮影してアップするものがあります。それを見た人はわざわざ行くことはないにしても、近所にいたら足を運ぶことはあるかもしれない。値引き情報だけでなく、値段以外の価値をシェアするなど、消費者同士で簡単につながれる画期的な仕組みが今後生まれてくるでしょう。日本にも、飲食店の余った料理や余剰食品をレスキューするアプリ、規格外野菜を生産者から直接買えるサイトなど、私たちがコミットしたいと思う店や仕組みをダイレクトに選べる時代にいます。買う場所や買い方を変えようと意識するだけでも効果はあるのではないでしょうか」

コンビニなどの小売店と官公庁が進めている「てまえどり」というキャンペーンもある。

「これまでの行動を変えてもらおうとするものですね。行動とともに重要なのは個人だけでなく社会全体の意識改革です。僕が普及活動を推進している『ドギーバッグ』は、残した料理をテイクアウトするものですが、アメリカでは当たり前になっている。日本でももっと自然な行為として普及したらいいなと思っています。まわりがやっていないと、どうしても他人の目を気にしてしまうと思います。そういった空気を変えていくことは難しいかもしれませんが、仲間同士でつながっていけば、より高い『食』リテラシーを持った社会に変わっていくと思います」

さらに、売れ残り品や規格外品など、「サプライズを楽しむ」「変化を楽しむ」という前向きな姿勢もキーになるという。

「やらなきゃいけないという使命感ではなく、新しい料理や食材との出合いにワクワクする気持ちがあれば、持続可能な食の活動になる。サプライチェーンは最新の技術を駆使し、消費者は柔軟な心をもって主体的に選択していくことにフードロス解決の未来があると思っています」

ドギーバッグ

アメリカなどで見られる、外食した際の「食べ残し」を持ち帰る容器のこと。現在日本でも普及活動がおこなわれている。ドギーバッグ普及委員会:www.doggybag-japan.com

てまえどり

商品棚の手前にある、販売期限が近づいている商品を選び、販売期限が過ぎたものの廃棄を減らそうとする活動。一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会、農林水産省、消費者庁、環境省が連携。

フードレスキュー

飲食店で余った料理や規格外野菜の販売、仕入れキャンセルとなった余剰食品など、フードレスキューできるアプリやサイトが急増中。

PROFILE

小林富雄 こばやし・とみお
愛知工業大学経営学部経営学科教授、サスティナブルフードチェーン協議会代表理事、ドギーバッグ普及委員会委員長。食品のサプライチェーンから発生する食品ロス研究に携わる。

参考資料:『食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢』令和3年5月時点版(農林水産省 食料産業局)
●情報は、『FRaU SDGs MOOK FOOD』発売時点のものです(2021年10月)。
Illustration:Minoru Tanibata Text & Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子

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