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千葉の鴨川、大多喜に移住した2家族が「薬草園蒸留所」と「自然栽培ハーブ園」で得たもの
千葉の鴨川、大多喜に移住した2家族が「薬草園蒸留所」と「自然栽培ハーブ園」で得たもの
LIFE STYLE

千葉の鴨川、大多喜に移住した2家族が「薬草園蒸留所」と「自然栽培ハーブ園」で得たもの

緑に恵まれた森へと移り住んだことで、暮らしや働き方が、豊かに変化していく。移住に至る、その道のりを聞きました。

▼二拠点生活&移住の基礎知識はこちら

しっかり土地に根づくことで
可能性が広がっていく

〈苗目〉のハーブやエディブルフラワー

2014年に千葉県鴨川市で畑を始めた「苗目」の井上隆太郎さん。人づてに畑を探し、園芸業界での経験を活かして、エディブルフラワーやハーブを栽培し始める。無農薬、無化学肥料で、限りなく自然に近い野原のような環境で育てられる植物は多くの人に支持され、翌年末には移住を決意する。

家づくりの真っ最中。子どもたちにとっても最高の学びの場だ

「週末だけ東京から通うやり方だと、畑に人がいないせいで獣害などが出てしまう。もっと来る機会を増やそうと考えていたんですが、息子が生まれたのを機に引っ越しを決めました。東京から車で1時間ほどで、大自然があり、鮮度の高い作物を届けられる。駐車場を借りるような感覚で大きな土地が借りられるし、迷いはありませんでした」

「mitosaya薬草園蒸留所」には日本の柑橘類も充実

同じころ、フルーツブランデーなどをつくる蒸留所の場所を探していた江口宏志さん。ネットを駆使して廃校舎や競売物件などを見つけては、北へ南へと足を運んでいた。

5000坪ほどの敷地に約500種の植物が育つmitosaya薬草園蒸留所

「畑探しもそうですが、田舎で特別なことをやりたくても、賃貸サイトには出てこない。お酒の原料にする果樹を育てる畑と工場と家を1ヵ所で満たせるちょうどいい物件がなかなかなくて、長野の御代田町や富士見町、山梨県北杜市や福岡のうきは市や糸島にも行きました。どこもいい場所だしゼロからつくれば何でもできますが、コストもかかってしまうので」

mitosaya薬草園蒸留所で採れたものと全国の生産者から届く材料で酒をつくる

酒をつくり、植物を育て、暮らすことを、ひとつの場所でやりたかったという江口さん。そして出合ったのが、千葉県大多喜町の閉園した薬草園。蒸留酒につかえる植物に囲まれた最高の環境があり、工場や住まいにできる建物もある、条件にぴったりの物件だった。

「僕より先に、知り合いだった隆太郎が隣の鴨川に住んでいたことも大きかったですね。彼がいたから、まったく知らない場所という感覚がなかったので」

薬草園だったころの面影を残したmitosaya薬草園蒸留所で。広大な敷地には、工場と住居、温室もある。井上さんも週に1度、植物の手入れに来ている。動物たちにとっても楽しい遊び場

以来、植物や加工のことなど一緒にできることも多かった2人は、共同で苗目の活動を法人化したり、大多喜と鴨川を行き来しながら、互いの仕事を補い合う関係を築いている。最初は200坪ほどだった井上さんの畑も、温室を借り受けたり、山を買ったりして農地を広げ、いまは5000坪に。

「たくさん作物をつくって売りたいというよりは、耕作放棄地の問題を解消し、里山を守りたいんです。跡取りがいなくて手が回らなくなった土地を譲り受けて、守れる土地を増やしていきたい。それにはお金ではなくて、信用してもらうことしかない」

苗目では温室でも自然に近い環境でハーブやエディブルフラワーを育てている
苗目のハーブなどは東京はじめ全国のレストランやバーに届けられる

「東京に住んでいたときは隣に誰が住んでいるかも知らなかった」という井上さんだが、地域の集まりや草刈りに参加したり、田舎ならではの人づき合いを楽しむようになった。

多くの果樹や在来種の植物が残り、恵み豊かな森がある苗目

「草刈りの後に集会場に集まって、弁当を食べながらお酒を飲んでおしゃべりしたり、祭りで神輿(みこし)を担いだり。昔ながらの風習など、最初はわからないこともたくさんありましたね。通っているだけでなくて引っ越すと、急に信用されるんですよ。住んだ瞬間にあらゆる情報が入ってきます」と井上さん。移住する前に1ヵ月ほどお試し移住したという江口さんも、住むことによる情報量の違いを体感したという。

江口さんの妻でイラストレーターの山本祐布子さんもボタニカルプロダクトの開発に携わっている

「さらに、お酒をつくり始めてオープンデーのバスを増便したりするようになると、うちの畑も、この果物もつかわないかなんて話が近隣からたくさん来るようになる。そうすると、農産地としての大多喜の姿も見えてくるし、できることも広がってどんどん楽しくなってくる。移住するなら別荘の延長ではなく、その場所にいる理由があることが大事だと思います」

長く住むことで地域との絆も強くなっていく。やりたいことのために選んだ場所から、自分も想像しなかった広がりが生まれてくるかもしれない。

PROFILE

江口宏志 えぐち・ひろし
蒸留家。mitosaya代表。2015年にドイツで酒づくりを学び帰国後、16年に千葉県大多喜町に移住し、mitosaya薬草園蒸留所を設立。www.mitosaya.com

井上隆太郎 いのうえ・りゅうたろう
自然栽培によるエディブルフラワーやハーブを生産する苗目代表。2014年に千葉県鴨川市で畑を始め、15年末に拠点とした。www.naeme.farm

●情報は、FRaU SDGsMOOK WORK発売時点のものです(2021年4月)。
Photo:Masayuki Nakaya Edit & Text:Asuka Ochi
Composition:林愛子

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