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「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方 【第7回】 乳がん治療薬の「副作用」について
「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方 【第7回】 乳がん治療薬の「副作用」について
FEATURE

「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方 【第7回】 乳がん治療薬の「副作用」について

日本の女性がもっとも多くかかる「がん」。それは「乳がん」です。いま、9人に1人がかかるといわれ、毎年9万人以上が罹患しています。そんな乳がん患者さんたちと真正面から向き合い、絶大な信頼を寄せられているのが、東京女子医科大学乳腺外科教授の明石定子さん。乳がん専門のスーパードクターとして知られる明石教授による、乳がんを正しく知るための連載第7回目をお届けします。

NHK『プロフェッショナル〜仕事の流儀〜』でも取り上げられ、これまで3000例以上の手術を成功させてきた明石教授。先生によると、乳がん治療の三本柱とは「手術」と「放射線療法」、そして「薬物療法」だとか。今回は、乳がん治療に使用される薬の副作用ついて語ってもらった。

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抗がん剤の副作用対策はかなり進んでいる

乳がんの薬物療法でつかわれる薬は大きく分けて3つ。「ホルモン薬」「抗がん薬」「分子標的薬」です。乳がんは5つのタイプに分けられ、タイプによってつかう薬が違いますが、それによって有効性が大きくアップしました。

ただ、治療薬となると誰もが心配になるのが“副作用”です。3つの薬の有効性は前回取り上げましたので、今回は気になる3つの薬の副作用について知ってもらいたいと思います。

●「ホルモン薬」の副作用

ホルモン薬は、比較的副作用が少ないといわれていますが、ゼロではありません。代表的な副作用は、更年期症状の「ほてり」「のぼせ」「発汗」などです。ただし、副作用は個人差がかなり大きいので、あまり気にならない人もいれば、とてもつらいと感じる方もいます。副作用が辛いと感じる方には、副作用対策として漢方薬をつかうこともあります。薬以外には、ぬるめのお風呂にゆっくり入る、ヨガをすることなどが効果がある場合もあります。

ホルモン薬の「アロマターゼ阻害薬』」は、更年期症状以外に「関節痛」や「骨密度の低下」が起こることもあります。辛い場合はガマンしすぎず、早めに主治医に相談しましょう。

●「抗がん薬」の副作用

すべての薬には効果と副作用があります。なかでも抗がん薬に関しては、副作用を心配される方が多いでしょう。しかし、薬の効果が副作用というデメリットを上回れば、その薬をつかう価値があることになります。だからこそ、抗がん薬に対する副作用対策はかなり進んできていて、少し前までのイメージとは大きく異なっています。

抗がん薬の代表的な副作用は「吐き気」。これに対しては、とても効果の高い吐き気止め薬が開発されたので、いまでは実際に吐かれる方はほぼなくなりました。多くの患者さんは食欲がない程度ですむことが多くなっているのです。

吐き気に次いで多い副作用は「脱毛」。この場合は、かつらが必須となります。ところが、ここにも大きな変化が──。最近は、頭皮を冷却して血流を下げてから抗がん薬を点滴する方法もとられています。この方法ですと、かつらが不要、あるいはかつらが必要な期間を短縮できるようになりました。ただし、頭皮を冷却しての点滴投与法は、現時点では保険適用外です。さらに、副作用として「白血球の減少」もあります。白血球が減少すると抵抗力が落ちます。だから、白血球を増やす注射をおこなうこともあります。

副作用をガマンしすぎず、早めに主治医に相談を

このように、副作用が多いのが抗がん薬。ここまでに取り上げた吐き気、脱毛、白血球の減少などは、副作用の代表格ですが、このほかにタキサン系という抗がん薬の種類では「手足のしびれ」が出ることがあります。手では「手先がしびれ、包丁が握りづらい」などの症状、足では「つまずきやすい」といったことが起こります。

抗がん薬の治療が終わると、副作用は次第に収まります。ところが、手足のしびれが強く出てしまった患者さんのなかには、何年経ってもしびれが消失しない方もおられます。しびれに対して有効な薬などが出てほしいと願っています。しびれの予防として漢方薬をつかうこともありますが、完全に予防はできません。また、服のボタンがかけにくいといった副作用が出た場合は、抗がん薬の量や投与間隔を調整することもあります。患者の皆さんは、副作用を軽く考えず、早めに主治医に相談してください。

●「分子標的薬」の副作用

乳がんの代表的な分子標的薬は「抗HER2薬」で、「トラスツズマブ」「ペルツズマブ」などが使われています。トラスツズマブは副作用が非常に少ないのですが、唯一、心臓に負担がかかることがあります。そのため、心臓超音波検査は欠かせません。もし「息苦しい」などの症状が出た場合は、すぐに主治医に相談してください。

副作用がつらくても「これくらいどうってことはありません。まだまだ頑張ります」という患者さんがいらっしゃいます。乳がんを治したい一心なのでしょうね。だからこそ、私たち医師や看護師、薬剤師など、がん治療に関わる医療者は、チームとして患者さんの副作用の状況を正確に知って、しっかり対応するようにしています。しびれが治療後いつまでも消えないなど、副作用による障害がなくなるようにしたいと思っています。

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明石定子(あかし・さだこ)■1990年3月、東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院、国立がん研究センター中央病院、昭和大学病院・乳腺外科を経て、2022年9月より、東京女子医科大学・乳腺外科教授。患者の希望や整容性に配慮した手術、治療に定評がある。NHK『プロフェッショナル〜仕事の流儀〜』、NHK Eテレ『きょうの健康』など、メディア出演多数。

取材・構成/松井宏夫(医学ジャーナリスト)、写真/横江淳

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