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「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方【第6回】進化する薬物療法についてお話しします
「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方【第6回】進化する薬物療法についてお話しします
FEATURE

「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方【第6回】進化する薬物療法についてお話しします

日本の女性がもっとも多くかかる「がん」。それは「乳がん」です。いま、9人に1人がかかるといわれ、毎年9万人以上が罹患しています。そんな乳がん患者さんたちと真正面から向き合い、絶大な信頼を寄せられているのが、東京女子医科大学乳腺外科教授の明石定子さん。乳がん専門のスーパードクターとして知られる明石教授による、乳がんを正しく知るための連載第6回目をお届けします。

NHK『プロフェッショナル〜仕事の流儀〜』でも取り上げられ、これまで3000例以上の手術を成功させてきた明石教授。先生によると、乳がん治療の三本柱とは「手術」と「放射線療法」、そして「薬物療法」だとか。今回は、乳がん治療の薬物療法のついて語ってもらった。

乳がんには5つのタイプがあります

乳がん治療の際、薬物療法をおこなうのは、次の2つのケースです。

A:手術の前後に、再発を防ぐために薬をつかう。

B:再発してしまったときの治療として薬をつかう。

Aは、乳がんの完治を目指すための治療。Bは他の臓器にがんが転移してしまった場合で、完治が難しい状況です。Bの場合は、ふつうの生活をなるべく長く続けるための治療になります。

乳がんの薬は、大きく分けて「ホルモン薬」「抗がん薬」「分子標的薬」の3種類があり、乳がんのタイプによってつかう薬が違ってきます。ですので、乳がんだと判明した時点で、どのタイプかを調べるのが大変重要なのです。

まず、がん組織を採取し、がん細胞を特殊な方法で染色して、「女性ホルモン受容体」と「HER2」というたんぱくを持っているか否かを顕微鏡で調べます。乳がんの約70%が女性ホルモン受容体陽性、約15~25%がHER2陽性です。この2つのたんぱくの陽性、陰性の組み合わせで、乳がんはまず4つのタイプに分けられます。

このうち、女性ホルモン受容体陽性でHER2陰性タイプは非常に多く、全体の約60%を占めますので、このタイプに関してはさらに、「がん細胞の増殖能力が高いか低いか」によって2タイプに分類します。つまり、乳がんのタイプは全部で以下の5つになるのです。

①女性ホルモン受容体陽性、HER2陰性で増殖能力が低い=ルミナルA

②女性ホルモン受容体陽性、HER2陰性で増殖能力が高い=ルミナルB

③女性ホルモン受容体陽性、HER2陽性=ルミナルHER2

④女性ホルモン受容体陰性、HER2陽性=ルミナルHER2陽性

⑤女性ホルモン受容体陰性、HER2陰性=トリプルネガティブ

ただし、ルミナルAとルミナルBは、境界に近いところのがんもあるので、明確に区別することは難しい場合もあります。タイプがわかれば、それに適している薬をつかいます。

●「ホルモン薬」が適しているタイプ                       

ホルモン薬が有効なのは、女性ホルモン受容体陽性乳がんで、ルミナルA、ルミナルBになります。女性ホルモン受容体陽性乳がんは女性ホルモンがあることで増える乳がんです。 ホルモン受容体は細胞の中にあり、そこにエサとしての女性ホルモンがくっつくことで、細胞を増殖させるスイッチが入ります。そのため、ホルモン薬にはエサとなる女性ホルモンを減らす薬と、スイッチが入らないようにする薬があるのです。

女性ホルモンを減らすホルモン薬は、閉経前では生理を止めるための「抗LHRH薬」と閉経後の患者さんに使う「アロマターゼ阻害薬」があります。スイッチが入らなくするホルモン薬は「タモキシフェン」。おもに閉経前の患者さんに使用されます。治療期間は通常5年間です。ただしリンパ節に転移があるなど、乳がんの状態が進んでいると、7〜10年続けることをお勧めしています。

●「抗がん薬」が適しているタイプ

抗がん薬は、5つのタイプのうち、ルミナルA以外のすべてに効果が期待されます。ルミナルAが抗がん薬の適応にならないのは、乳がんのなかで、もっともおとなしいがんなので、抗がん薬をつかわなくても治りやすく、生存率が高いので、抗がん薬で得られるメリットより副作用の方が大きいと判断されるためです。

そのほかのがんは、がんの増殖能力が高いので抗がん薬のメリットが大きくなります。だから、つかったほうがよいということになります。いずれも、通常2~3種類の抗がん薬を併用します。2〜3週間に1回の点滴を3~6ヵ月続けます。

●「分子標的薬」が適しているタイプ

分子標的薬は、がん細胞の増殖などにかかわるポイントを標的に叩ける薬です。HER2陽性とルミナルHER2タイプにつかわれます。

抗HER2薬は単独でつかうより、抗がん薬と一緒につかうことで効果が高まることがわかっています。手術前後に再発予防としてつかうときは、3週間に1回の点滴投与を1年間続けます。たとえば、手術前に3ヵ月間投与している場合は、術後に9ヵ月投与することになります。点滴投与にかかる時間は1〜2時間程度です。ただし、初回だけは3時間程度かけてゆっくり投与します。再発した患者さんにつかう場合は、がん細胞を抑える効果がなくなるまでつかい続けます。ですので、長期間の投与をおこなっている患者さんもおられます。

乳がんの薬物療法は上記のようにおこなわれています。どんどん新しい薬が登場していて有効性が取り上げられていますが、副作用を忘れてはなりません。乳がんの薬物療法で効果を上げている薬にも、副作用があるのです。

次回は、「薬の副作用」についてお話しましょう。

──第1回目はこちら──

──第5回目はこちら──

明石定子(あかし・さだこ)

1990年3月、東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院、国立がん研究センター中央病院、昭和大学病院・乳腺外科を経て、2022年9月より、東京女子医科大学・乳腺外科教授。患者の希望や整容性に配慮した手術、治療に定評がある。NHK『プロフェッショナル〜仕事の流儀〜』、NHK Eテレ『きょうの健康』など、メディア出演多数。

取材・構成/松井宏夫(医学ジャーナリスト)

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