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みちのく“食”の物語【第4回】“海のホルモン”を全国区に! 岩手「潮風堂」は、なぜ震災から復興できたのか?
みちのく“食”の物語【第4回】“海のホルモン”を全国区に! 岩手「潮風堂」は、なぜ震災から復興できたのか?
FEATURE

みちのく“食”の物語【第4回】“海のホルモン”を全国区に! 岩手「潮風堂」は、なぜ震災から復興できたのか?

2025年1月、ご飯の“お供”ばかりを集めた物産展「食のなんじゃこりゃ〜博覧会」が、日本橋三越本店で開催されました。そのワンコーナー「東北笑福市」には、みちのくのおいしいものが大集結。多くの人が足を止めて試食し、「こんなにおいしいのに、その存在すら知らなかった!」と驚いていたのが、岩手県発の珍味「こわだ」でした。

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本社工場が津波でやられた!

「こわだ」と聞いて、それが何だかわかる人はごく少数だろう。岩手県釜石市の水産加工会社「TRS食品」(通信販売などの屋号は『潮風堂』)の田中信博さん(上写真)は言う。

「『こわだ』っていうのはマンボウの大腸のことで、“海のホルモン”とも呼ばれてるんです。三陸沖ではマンボウが夏から冬にかけて獲れるんで、岩手の人間にとっては珍しい魚ではありませんし、昔から当たり前に食用にしてきました。私も子どものころはとくに好きでもなかったですけど(笑)、大人になって食べてみるとうまいんですよ。身は湯がいて酢味噌で、こわだは塩焼きで食べるのが一般的ですかね」(田中さん、以下同)

これが、こわだのネギ塩焼きだ。食感も味も、まさにホルモン!

「食のなんじゃこりゃ〜博覧会」会場にはイートインコーナーが設けられており、田中さんは小皿入りのこわだ(上写真)を330円で販売していた。ニンニク入りネギ塩ダレで焼かれた本品の香りは破壊力抜群で、食欲をダイレクトに刺激してくる。筆者も思わず手を伸ばして購入。口に入れてみると……たしかに“海のホルモン”といわれるだけあって、牛や豚のホルモン焼きにソックリの、弾力ある食感だ。で、このタレの味つけがまたよく、まさにメシ泥棒といった感じ。この日、アッと言う間に完売したというのも、うなずける旨さだった。

そんな田中さんの実家は、代々漁業を営んでいた。だが、漁のため航海するだけで1億円かかるなどのコスト高に苦しんだり、サンマ船が沈没して、その引き揚げのために借金を抱えたりして、やがて“オカ漁師”(水産加工業者)に転向したのだという。1999年にはTRS食品が誕生。大粒いくら醤油漬けなどが好評で業績を伸ばしていた矢先の2011年3月、東日本大震災の津波は、TRSの本社工場があった大槌町港町地区にも牙を剥いたのだ。

本社工場はあえなく全壊。近くにあった魚市場や同業他社の工場もすべて流されてしまった。

「一時は廃業も考えました。でも、工場から4㎞ほど北の吉里吉里地区には、鉄筋コンクリートづくりの自宅があって、ここは津波で屋上まで浸水したものの、建物自体は流されず無事だったんです。これなら、そのままつかえるということで工場に改修し、その年の11月から稼働させました」

震災で工場が全壊したため、かつて自宅だった建物を工場に。看板の屋号「潮風堂」は、その翌年に掲げた

近海に魚が戻ってこない!

けれども、期待していた秋鮭の漁獲は、通常の半分以下にとどまったという。

「水産資源が減っていて、近海に勝負できる魚がいないんです。以前は冬場の鮭といくらで年間の半分の売上をつくっていたんですが、かつての半分ほどしか獲れなくなった。ずっと前浜で獲れた魚にこだわってきたのですが、いよいよ難しくなってきましたね。夏場は、干物関係や自社製品などでつないでいるのが現状です」

かつては干物を中心に生産していたが、震災のときに被災者たちが配給品を食べながら、「味気ねえな〜。うんめえ魚が食いてえな〜」と言い合って入るのを耳にし、焼き魚などのレトルト商品の製造も始めた。それがいまでは、デザイン性の高いイマドキなパッケージを開発したこともあって(下写真)、主力製品のひとつになっている。

オシャレなパッケージの「三陸地物焼」シリーズ。湯煎すれば、まさに焼きたての味が楽しめる。筆者のお気に入りは「さんま みりん焼き」

2019年末からはコロナ禍が始まったが、同社は大きな影響は受けなかったという。

「コロナで“宅飲み”が増えたため、むしろ商品の注文が増えました。近隣企業の工場も同様に忙しくなっていましたね。当時は、『イカのゲソがなくなったから、助けてけろ〜!』『人手が足りないから手伝ってけろ〜!』などと言われて、いろいろ手を貸したもんです」

これもTRSの主力商品、「極上いくら醤油漬け」と「こわだネギ塩焼き」

現在、同社で手がけている干物や水産加工品は20種類ほど。前浜で獲れるサバやサンマ、タラなどに加えて、北海道産のメロード(コウナゴ)なども取り扱っている。

「温暖化の影響で、こっちで獲れた魚が上(北)にいっちゃって、下(南)の魚がこっちにきちゃっている。シイラや伊勢エビなど南の魚が、三陸にいる時点でおかしいですよね。だからこそ、今回の催事で人気だったマンボウなど地域の味は、これからも大切にしていきたいです」

Photo:横江淳(催事) Text:萩原はるな

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