千葉・いすみ市にUターンしたシェフ木村藍が猟師、漁師、農家と手を携える「五氣里」の凄み
千葉県いすみ市の緑豊かな里山にオープンしたラグジュアリーリゾート「五氣里(いつきり)」。都心からわずか90分で到着する、全室天然温泉つきのリゾートだ。一棟貸しの古民家、サウナやプール、ドッグランつきヴィラ、ドームタイプヴィラなど、多彩な施設が用意されている。2024年4月に木村藍さんがトップシェフに就任したことで、宿の食に対するあり方が大きく変わった。
地元出身の「料理マスターズ」が食を通じて地域の魅力を
日本でも希少な天然黒湯を楽しめるとして、多くの温泉ファンから注目を集めている「五氣里」。全棟が80㎡以上という大空間のスイートヴィラでは、各部屋で天然温泉風呂やサウナが楽しめ、ゆっくりとくつろげる設計に。築100年の2階建て古民家をフルリノベーションした一棟貸切プレミアムスイートでは、最大13名が宿泊できる。
五氣里のヴィラの軒先、サウナ室、寝室など。どれも洗練されたインテリア空間だ
この宿泊施設にいすみ市出身の木村さんがトップシェフとして就任したのは2024年4月のこと。木村さんはそれまで東京・池袋のフレンチレストランを切り盛りし、ミシュランガイドに2度紹介され、2023年には農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」でブロンズ賞を受賞した人物だ。食を通じて地域の魅力を伝える「いすみ大使」にも選ばれている。
五氣里のディナーでは、地域で育まれた食材がそのままテーブルに並び、いすみ市の旬をそのままいただける
いすみ市にUターンしてきた理由を伺うと、「ここには素晴らしい生態系と生産者さんがいるから」と木村さん(以下、コメント同)。海と山に恵まれた房総半島のいすみ市には、米や野菜の農家、漁師、猟師、酪農家、養蜂家、酒蔵の蒸溜家まで、食に関する多彩なスペシャリストが住んでいる。「皆さん、自分の道を追求するマニアックな人ばかりで面白い」という。
木村さんは時間ができたら生産者と一緒に地域をまわる。猟師と山を歩き、漁師の海仕事を手伝い、農家の畑で収穫することで、動植物の生態にもグッと近づけるという。自然と対峙する生産者たちの話を聞きながら、季節とともに変化する自然の恵みを体感する時間は何より貴重だ。
「動物や魚が何を食べているかで、メイン料理のつけ合わせも変わってきます。たとえば、外房で収穫された伊勢海老を料理に出すなら、伊勢海老が食べる貝やウニ、海藻とも相性がいい。そうやって料理を考えると、厨房だけに篭っているのはもったいない。素材のことをもっと知りたいんです」
photo:Takeyoshi Fukuda
食材は電話一本で、簡単に発注できる。しかし、足をつかって地元の生態系を観察することで、料理に活かせることは格段に増えていく。生産者と近いことで、料理の着想も変わる。生き物が何をエサにしているか、発情期はいつか、産卵期はいつか、どう収穫するか。そういった視点を持つことで、木村さんの料理のストーリーは生まれていく。
「最近、サステナブルという言葉をよく聞きますが、この場所(いすみ市)は昔から循環のサイクルが成り立っています。漁師の仕事を農家が手伝い、海藻を肥料にした有機栽培野菜が収穫される。山から川、川から海、そして再び海から土へとつながっている希少なエリア。ここで食を提供できることは、自分が料理人としての意義に直結しています」
五氣里 https://itsukiri.com/
Photo:Mari Yoshioka Text:Tokiko Nitta
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