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ノルウェーの森の中にある美しい工場「ザ・プラス」に見る“未来の働き方”【第5回】
ノルウェーの森の中にある美しい工場「ザ・プラス」に見る“未来の働き方”【第5回】
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ノルウェーの森の中にある美しい工場「ザ・プラス」に見る“未来の働き方”【第5回】

夏はフィヨルド(入り江)がまぶしく、冬はオーロラが輝くノルウェー。今回はスカンジナビア航空でデンマークのコペンハーゲン空港まで12時間、さらに飛ぶこと2時間で到着する首都・オスロを、ライターの矢口あやはさんが訪れました。機内泊も含めて3泊5日の旅。でも、オスロのまちはコンパクトだから十分楽しめます。オスロはまるで未来都市のようでもあり、北欧らしいサステナブルなアイデアやかわいいデザインにあふれるまちであり……。幸福度ランキング上位国で見つけた、私たちの明日を豊かにする幸せのヒント。第5回目は、“世界で最も環境にやさしい”と謳われる家具工場「ザ・プラス」を訪ねます。

働く人の幸福を考えて社内をデザイン

「ザ・プラス」を案内してくれたシャーロット・ハンソンさん(左)とマリアンヌ・ヤコブセンさん

ノルウェーの深い森の中にある、アートギャラリーと見まがうモダンな建物。実はこちら、なんと工場だ。その名も「ザ・プラス」。ノルウェーの家具メーカー「ヴェストレ」が2022年にオープンした家具工場だ。

予約をすれば、この近未来な工場が見学できると聞いてさっそく訪れた。オスロ市内からは車で90分、スウェーデンにもほど近いマグノールにある。

到着後にまず案内されたのは、なだらかなスロープをのぼった先にある屋上庭園だった。

「ノルウェーには古くから『アレマンズレッテン』、すなわち、誰もが自然を共有する権利があるという精神が根づいています。このザ・プラスでも、24時間365日いつでも、誰でも、この屋上と中庭、そして森の敷地を自由に歩けます。よく学校の遠足でつかわれたり、会社の打ち上げ、近隣に住まう方々がピクニックを楽しまれていますね」

こう話すのは、プロジェクトコーディネーターのシャーロット・ハンソンさん。

中庭に面した壁一面はガラス張りで、デスクの並ぶオフィスがよく見える。こちらに気づいた社員たちが手を振ってくれる。

設計したのは「BIG」。焼却施設をスキー場にした「コペンヒル」などのデザインで有名なデンマークの建築事務所だ

ザ・プラスが透明性を重んじるにはワケがある。

「ここを訪れた子どもたちに、『将来ここで働きたい』と思ってもらいたいんです。だから、オフィスや工場の中はもちろん、製造工程や働き方、企業哲学などすべてを余さず見せたい。産業スパイを恐がるよりも自分たちの知見をオープンにすることで、世界にもっと持続可能な製造業が増えてほしい」(プロジェクトマネージャーのマリアンヌ・ヤコブセンさん)

ザ・プラスのLEGO模型。上から見ると、名前の通り「+」の形になっている

螺旋(らせん)階段を降りて、いざ工場内へ。建物の中央には中庭とオフィスが、四方に伸びる空間は、材木加工エリア、組み立てエリア、塗装エリア、倉庫エリアになっている。さらに、こうしたエリアごとにはテーマカラーがある。

赤がテーマカラーの材木加工エリアで談笑する社員たち。デザイン性と視認性を満たしたユニフォームがかっこいい

「ちょっとチャーリーとチョコレート工場みたいでしょう? 色の持つ力は素晴らしいと思います。単調になりがちな作業に喜びをもたらし、効率も上げてくれる心理的な効果がありますね。どうせなら美しい場所で、楽しく働きたいですから」(マリアンヌさん)

働く人の幸福もちゃんと考えてデザインする、その思想が美しい。

組み立てエリアは黄色がテーマカラー。カラフルな色をたどることで家具づくりの工程をわかりやすくするという見学者への配慮も兼ねている

ほぼ“ごみゼロ”のクリーンな工場

それにしてもクリーンな工場だ。材木を削って出る木クズはどこへ? そう尋ねると、マリアンヌさんは小さな小部屋を見せてくれた。そこにあったのは、製造工程で出た廃材を圧縮してチップに変えるマシンだ。

木クズはプレス機にかけられて、固形燃料に生まれ変わっていた!

これを冬の暖房の燃料にしており、工場として出すごみは、ほぼゼロ。電気に関しても、緑化された屋根に900枚の太陽光発電パネルを設置するなどして、従来の工場に比べ約90%ものエネルギー削減を実現している。資源のムダを徹底的にカットすることが、ノルウェーのような高コストの国で収益を上げる秘訣なのかもしれない。

オレンジが海と空の碧によく映える。ヴェストレのベンチはオスロ市内のいたるところにあった

どんどんつくり、どんどん捨てる。そうやって発展してきた日本の一員としては、企業の利益を優先すれば自然破壊が起き、環境に配慮すれば利益が出せない気がしてしまう。が、サステナビリティと経済性、さらには働きがいも加えて、ウィンウィンになれることを見せてくれるザ・プラス。

「お客さまから注文を受けてから製作するので、余分な在庫はもちません。納品までの期間はおよそ4週間。卸問屋などは通さずに、直接お客さまのもとへ配送しています」(シャーロットさん)

できあがった家具は、オスロ市内はもちろん、ニューヨークやロンドン、パリなど世界じゅうのまちでつかわれている。いつか、日本でも見かける日がくるかもしれない。たとえば、オスロと姉妹都市である横浜あたりで。環境にやさしいベンチは、進化し続ける港町にきっとよく似合うはず。

Photo & Text:矢口あやは

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