すべてが岩! 百名山・瑞牆山に登って考えた「私たちが地球のためにできること」
日本は国土面積の75%を山地が占めている山の国。全国に、大小あわせてなんと1万5000以上の山が存在します。古くから人々は信仰のため山に登り、近年では趣味やアクティビティとして多くの人が登山を楽しんでいます。澄み切った青空、木漏れ日が差し込む森、雄大な景色……。そこから癒しと力強いパワーをもらい、日常にない充足感を得ているのです。自然の尊さを目にすることで、身近なSDGsにも気づかされるでしょう。今回は山梨県にある百名山の瑞牆山(みずがきやま)から、日本の美しい風景をお届けします。
ごみひとつない登山道に心洗われる
秩父多摩国立公園の奥秩父山脈にそびえる瑞牆山は、日本百名山のひとつ。標高2230mのそのすべてが巨大な岩(花崗岩)でできているという、まるで水墨画に出てくるような山なのだ。山頂から八ヶ岳連峰や南アルプス、富士山の大パノラマを楽しめることから多くの登山者が訪れ、クライミングスポットとしても有名なため、登山道からは岩壁を登る人々の姿を見られる。また周辺地域はユネスコエコパークに認定されており、この自然を次世代に継承するため、さまざまな取り組みがおこなわれている。
登山口は瑞牆山荘前にあり、登山届のポストが設置されている。登山計画書の提出は任意だが、安全のために届出することを強くおすすめする。日本山岳ガイド協会が運営するwebサイト「コンパス」や登山アプリ「YAMAP」「ヤマレコ」などから提出する方法もある。瑞牆山荘の横には1回100円のチップ制のキレイなトイレがあるので、入山前に用を足しておこう。
この日山に入ったのは朝の7時30分。真夏だというのに気温は15℃ほど、ひんやりとした空気だ。レインジャケットを着て登山スタート。登り始めは広い樹林帯で、登山道はなだらかだ。ところどころにある大きな岩を横目に階段を上がっていくと、徐々に傾斜がきつくなっていった。
里宮(神社)を過ぎると、木々の間から突然、切り立った瑞牆山が姿を現した。壮麗な風景に目を奪われる。少し登ると休憩スポットの富士見平小屋に到着。ここには富士山のビューポイントがあるのだが、今日の富士山は雲の中だった。
沢を渡ったところで、岩が真っ二つに割れた「桃太郎岩」が現れた。まるで桃太郎が生まれた桃のようにキレイに割れている。割れ目にしみ込んだ水が凍結と融解によって膨張、収縮を繰り返すと、巨大な花崗岩さえも割れてしまうのだ。自然の計り知れない力に圧倒されてしまう。
桃太郎岩から先は、鎖場と階段で慎重に歩を進めていく。難しい岩場ではなく、鎖場初心者でも落ち着いて進めば攻略できるレベルだ。登山道の周囲は、苔とシダとキノコによって彩られたロックガーデン。瑞牆山は奇岩だけでなく植生が豊かで、ふとした出合いに癒される。
登りやすいだけでなく、登りごたえがあるのも瑞牆山の魅力。岩をくぐり、岩を登り、巨岩を見上げながらアドベンチャー気分で一歩一歩前に進む。大ヤスリ岩が見えてきたら、頂上はもうすぐだ。最後の鎖場とハシゴを登ると山頂に到着!
登りはじめてから約3時間。頂上からは360度の絶景パノラマが広がっている。眼下には先ほど頭上にあった大ヤスリ岩。その岩壁を登る人の姿も確認できる。その先には南アルプスの山々、八ヶ岳連峰。富士山は相変わらず雲の中だが、果てしなく広がる雄大な景色に疲れも吹き飛ぶ。
あらためて見渡してみると、土地の地形や自然、そこに暮らす人々の営みが、美しい景観をつくりだしていることに気づかされる。
登山をする人が増え、マナー違反が問題となっているが、瑞牆山の登山道には小さなゴミすらひとつ落ちていなかった。登山者一人ひとりの意識が高いおかげで、気持ちの良い登山ができたのだろう。
山で出たごみは、川を流れやがて海に運ばれ、波間を漂い、海の生態系に影響を及ぼすこととなる。ここで、私たちの手元から何かが滑り落ちるだけで、こんなことが起こるのだ。山を守ることは海を守ることにつながる。登山マナーを守ることで、地球全体の生態系、環境はよりよいものになっていくはずだ。
私たちが山でできること
・すべてのごみは持ち帰る
・水を汚さない(川水などでの洗濯や食器洗い等は、河川の汚濁につながる)
・落としものをしない(放置された結果、ごみになる)
・登山道以外は足を踏み入れない(植物を痛めたり、土壌を壊して山の自然破壊の始まりとなる)
・生きものを「とる」のは写真だけ
text:鈴木博美
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