Do well by doing good. いいことをして世界と社会をよくしていこう

東京のクリエイターたちは、なぜ広島の小島に移住したのか?【前編】
東京のクリエイターたちは、なぜ広島の小島に移住したのか?【前編】
COLUMN

東京のクリエイターたちは、なぜ広島の小島に移住したのか?【前編】

瀬戸内海の真ん中あたりに浮かぶ大崎下島。レモン栽培が盛んなこの島の一角にある小さな集落・久比(くび)に、島外から移り住んだ若者がいます。彼らはなぜこの地にやって来て、何をやろうとしているのでしょう。東京出身の〝20代チーム〟に、話をうかがってみました。

自己実現を目指して東京から移住

大崎下島の久比地区でさまざまな活動を展開する一般社団法人「まめな」は、この集落にいくつかの施設をもっている。いずれも地域の空き家をリノベーションしたものだが、そのひとつに「あいだす」と命名された複合施設がある。広い敷地の古民家を改装したその施設には、コミュニティスペースや工房のほかに畑などもあり、「子どもから大人まで、誰もが気づき、出会い、実験できる場」として運営されている。

責任者を務めるのは、27歳の福崎陸央さんと28歳の大橋まりさん。ともに東京生まれの東京育ち。この地に来るまで、福崎さんは広告制作会社に勤務、大橋さんはデザイン事務所でグラフィックデザイナーとして働いていた。

東京生まれ、東京育ちの福崎陸央さん。美大を卒業後、広告制作会社に2年間勤め、まめなと出合ったのを機に久比に移住した

「美術大学を出て広告制作会社に就職し、コンセプト設計などを担当していたのですが、やっているうちに『何のために働いているのか、誰のために働いているのか、よくわからない』という思いが強くなっていきまして……。そんなとき、たまたま仕事の関係でまめな代表の更科と出会い、話を聞いて興味をもったのが、はじまりです」(福崎さん)

更科さんと出会ってからしばらく経った2019年3月、福崎さんは休暇を利用して初めて久比を訪れた。まめなが一般社団法人として走り始めたばかりの頃だった。

「学生時代、小学生向けのデザイン教育の研究をしていた僕は、もともと教育の分野に興味を持っていたんです。子どもはもちろん、大人も学びが必要なのではないか、とずっと思っていました。じゃあ学びって何?と考えてみると、新しいスキルや時代に即した資格などを取得するのも学びですが、自分と違う世界、自分とはまったくバックグラウンドが異なる人と出会うことがすごく重要で、出会いこそが学びではないかと。こうした考えを更科に話したところ、『私たちが考えている学習領域も似たコンセプトなので、一緒にやりませんか』と声をかけてもらったのです。まめながやろうとしていることを聞き、ここなら自分が思い描いていることが実現できるのではないかと思いました。『ぜひやらせてください!』。間髪入れず、そう更科に告げていました」(福崎さん)

2020年2月、福崎さんは勤めていた会社をやめて久比に移り住み、まめなの運営スタッフとして活動を開始した。相棒の大橋さんが参加したのは、その1年8ヵ月後。大橋さんはもともと福崎さんの仕事仲間で、「彼が島で何かおもしろいことをやっているらしい」と聞き、何度か久比に遊びに来ていた。そうするうち、福崎さんやまめなに関わる人々に共感。2021年10月、彼女も東京から久比に移住し、福崎さんとともに、まめなの関連施設あいだすの運営に携わることになった。

大橋さんは福崎さんと同様、生まれも育ちも東京。東京ではグラフィックデザイナーとして働いていたが、仕事仲間だった福崎さんに触発されて、まめなに参画した

「私が久比で提供された住まいは、当時はまだ〝ぼっとんトイレ〟で、最初は『お〜っ!』と、少々驚いてしまったことは事実です。でも私、意外とそういうのは平気でして(笑)。古い家はマンションのように気密性がないから、冬はスースーするし、夏は虫も入ってきます。あとからほかのスタッフや滞在者に聞いたところ、やはりトイレとか寒さとか、虫とかが気になる人は多いようですね。でも、私は何の抵抗もなく『ま、こういう場所だよね』と受け容れられました」(大橋さん)

久比に移住したスタッフは、地域の空き家を住まいとして提供される。写真は現在の福崎さんの住まい。「最初に住んだ家は、かなりボロボロでした(笑)。でも、ちょっとずつ自分で修理するのも楽しいですよ」(福崎さん)

「あるものからはじまる」をコンセプトに活動開始

2人は、ときおり集落を訪れる若者や、大学を休学して久比に住み着いた青年などの協力を得ながら、あいだすを舞台にさまざまなことを企画する。

「リノベーションする古民家の片づけをすると、ごみやガラクタが出てくるし、作業の際には廃材も出てきます。それらをつかったモノづくりのワークショップを開いています。といっても、『これをつくりましょう』と決めてはじめるのではなく、そこにあるもので参加者が好き勝手に何かを生み出すようなスタイル。自由な創造の場を提供できたらと考えています」(福崎さん)

地域住民から善意で貸与された古民家を改修し、あいだすの施設として活用。リノベーションの設計施工はプロに依頼したものの、屋根や天井を抜いたり床を張ったり、壁を塗ったり、梁を磨いたりといった作業は、まめなのスタッフで行った

あいだすのキーワードは「あるものからはじまる」。久比にはコンビニはもちろん、ちょっとした商店もなく、都会と比べるといろいろなものが不足している。しかし、だからこそ気づかされることもあるし、ないならないで工夫しようという発想が生まれる。福崎さんたちが「こうしたことは、この地域の人の魂でもある」と考えた結果、このキーワードになった。

「島には子どもたちが放課後に集う場所がなかったので、呉市から委託されて『放課後子ども教室』を主催。大崎下島と、隣の豊島(とよしま)の子どもたちを受け容れています。しかし、この場で遊びや学びのプログラムを用意することはほとんどありません。大人もしかりで、ここに集う人たちは、自分の好きなことをして自由に時間を過ごせる。僕たちは、この施設をそういう場にしようと考えてきました。放課後子ども教室でも、子どもたちはめいめい、自分のやりたいことをしています。施設にある鎌を手に草刈りをする子もいれば、バドミントンをする子もいるし、散歩に行く子もいる。僕たちは子どもたちと遊ぶこともありますが、基本的には、彼らの安全に十分注意しながら見守っている感じです」(福崎さん)

あいだすに集う子どもたちは、そこにあるもので自由に創造を楽しむ。あいだすは「間(あいだ)」の複数形「間s」を意味し、福崎さんたちが命名した。「古民家をリノベーションする際のミーティングで、『学びにおいては、間が重要』という話が出たことが発端です」(福崎さん)

施設には、つかわなくなったオモチャや祭りの道具、何かをつくったときに出た端材など、地元の人から寄せられたたくさんのモノが保管されている。あいだすに集う子どもたちや大人は、これらも自由につかって〝何か〟を創造し、楽しんでいる。

――後編に続きますーー

取材・文/佐藤美由紀

【こんな記事も読まれています】

食を通じて社会を変える! 帝国ホテル第14代東京料理長の試み

ゴーストネットでつくった「ブレスネット」って何だ?

寄付とは、寄り添って、つき添うこと。「ドネーション」基礎知識

急成長する「フェムテック」の最先端商品をチェック!

ジェリー鵜飼「登山で芽生えた、楽しむ脱プラ」

Official SNS

芸能人のインタビューや、
サステナブルなトレンド、プレゼント告知など、
世界と社会をよくするきっかけになる
最新情報を発信中!