ワケあり食品を「福袋」で救え! IT企業のチャレンジ
食料品をお得な価格で買えて、それが社会問題解決につながれば、とてもいいと思いませんか? 賞味期限が近づいていたり、パッケージに小さなキズがあるなどの理由で店頭に並べられなくなった、いわゆる“ワケあり商品”を福袋にして販売する通販サイト「SUKUERU」が取り組んでいるのは、その名のとおり、まだ食べられるのに廃棄されそうな食品を「救える」サービスです。SUKUERUを運営する「ウィナス」取締役・金子智仁さんに伺いました。
食べきれない量では意味がない!
止まらない食品の値上げラッシュ——。原料価格の高騰や円安の影響を受け、あらゆる食品の価格が上昇中だ。2022年内に値上がりする品目は、2万点を超えると見られる。(※1)
そんななかでも食品卸売業や食品メーカーからの廃棄食品、いわゆる「フードロス」は大量に起きているという皮肉な現実。そこに一石を投じたのがSUKUERUだ。
「弊社は企業や地方自治体からの依頼でアプリの企画、開発などをしているIT企業ですが、SUKUERUはオリジナルの自社サービスです。弊社のグループ会社が6年ほど前から、海外のホテル、レストランに向けて規格外野菜や漁獲量が安定しない水産物などを輸出するビジネスを行っており、フードロス削減に取り組んできました。そのなかで、農水産物だけではなく、加工食品やその原材料、外食産業向けの業務用食品にも相当なロスがあることを知ったのです。そこで、まずは国内メーカーから出る規格外の商品を一般消費者向けに提供し、だんだんフードロスをカバーする範囲を広げていけたら、というのが出発点でした」(金子さん、以下同)。
そしてSUKUERUは2022年3月からサービスを開始した。
「他社にも、フードロス削減に貢献するサービスを行っているところはありますが、多くはケース単位などでまとめ売りしているようです。私どもが消費者をリサーチしたところ、『それだと量が多くて食べきれない』という声も少なくなかった。一方、食品メーカーにとっても、商品が80~90%オフで販売されるのをあからさまに見せてしまうと、ブランドの毀損が懸念される。双方の問題を解消するため、福袋という形式を採用したのです。SUKUERUの福袋は購入者がいろんな商品を少しずつ楽しめるのが特徴。これまで知らなかった商品に出合えるなど、新しい発見もあります。福袋なら、それぞれの商品がどのくらい値引きされているかが購入者以外にはわからないので、ブランド毀損も回避できるのです」
1980円の福袋を買ってみた。その中身は……
福袋に入れる商品は、生産過多の品や食品業界の賞味期限「3分の1ルール(※2)」などの理由により販売されなくなったもの、小売店からメーカーに返品されたものが中心だという。金子さんいわく、メーカー側でも生産量の調整、需要の予測、製造過程でのアップサイクルなど努力をしているものの、廃棄するほうがコストがかからないケースが多いため、どうしても廃棄に傾いてしまうのだという。
「3分の1ルールなどの商慣習が、いつまでもまかり通っているのが問題でしょうね。消費者がこうしたルールがあることを知り、それに反対する意思を明確にすれば、食品メーカー、卸売など業界も変わらざるをえない。消費者が声をあげていくことが重要だと思います」
国も10年ほど前から、商慣習の改善、緩和に乗り出した。農林水産省は一昨年前から、商慣習の見直しに取り組む事業者を募集し、ホームページで事業者名と状況を公表しはじめた。また、10月30日を「食品ロス削減の日」「全国一斉商慣習見直しの日」に制定もしている。
SUKUERUでは、賞味期限の近い商品から福袋に入れ、仕入れた商品が自社で新たなフードロスになってしまうという、本末転倒の事態を引き起こさないようにしている。それでも食品が余ってしまいそうな場合は、本社のある豊島区内のこども食堂へ届けるなどして、廃棄をゼロにするよう努めている。
「食品業界を知れば知るほど、さまざまな課題があることを実感します。商品がなぜ余剰在庫になってしまうか、ロスが発生するのか、理由はメーカーさんによって異なるのですが、そういった状況も丁寧に発信していくことで、消費者が考えるキッカケになればいいですね。フードロス問題を完全に解決することは困難です。だからこそ、みなさんといっしょになって取り組んでいきたいです」
実体験リアルレビュー
そして上写真の表が、筆者が実際にSUKUERUで注文した1980円の福袋の中身だ。商品は、スーパーなどでよく見かける、おなじみの商品が多く、すぐ食べられそうなものばかり。「味付のり」を除いた7つの商品の賞味期限は平均11日。一人暮らしでも「がんばれば何とかつかい切れるかもな〜」という微妙な量だ。ともあれ、これらの商品がすべて廃棄される寸前だったのかと思うと、少しはフードロス削減に貢献できたのかなという気もする。月並みだが、ちょっと誇らしい気分にもなって、何だかうれしかった。
※1 帝国データバンク「『食品主要105社』価格改定動向調査(2022年10月)」より
※2 賞味期限を3分割し、最初の3分の1の期限までに食品製造事業者や卸売事業者が小売事業者に商品を納める食品業界の商慣習(消費者庁ホームページより)
取材・文 伊藤睦月