小泉武夫「本で学ぶ、いいこと尽くめな日本の食文化」
食べることは、生きる基本。だから、子どもは「食育」を通して、食にまつわる正しい知識を身につけ、生きる力を育みます。でも、大人はどうでしょう? 食を取り巻く状況は日々目まぐるしく変わっています。深刻化している貧困問題や、社会全体での取り組みが叫ばれている食品ロス問題。漁業も、農業も、大きな転換期にあります。未来の食を考えるには、現状を知ることが大切。今回は、農学博士の小泉武夫さんに、日本の食の知恵を学べる本を紹介していただきました。
漬物まるごと徹底解説!
日本伝統の「和食」を定義する「一汁一菜」。それに欠かせない「香の物」(漬物)の歴史から民族との関わりを、つくり方なども交えて解説。各地方に伝わる野菜の漬物に加え、熟鮓、くさや、このわたなど、日本特有の魚介の漬け物も紹介している。また、世界の発酵食品についても多数収録。
「漬け物の誕生は、食べ物の保存の発見または発明と深い関係があった」
まずは、日本の食の原点から
毎日食べる「ごはん」とその周辺を、日本民族が持つ食文化の原点に立ち返って学び、その美しい食の伝統の数々に触れる一冊。加えて、日本の危機的な食糧事情、若い世代に向けた農業再生の大切さなど、これからの食の問題を解決するための提言も。次の世代のためにも必要な食の入門書。
「魚の身を取り除いて残った、頭、中骨、内臓、皮など、これらの粗(あら)を昔の日本人は決して捨てたりはしませんでした。粗だって、魚の命の一部なのです」
発酵の根本から理解する
酒や納豆などの食品だけでなく、医薬品、洗剤の製造、自然界における環境浄化まで、発酵の役割は実に幅広い。地球の誕生から、微生物の発見、技術の進歩を追って、じっくりと発酵を学べる。縄文時代まで遡る日本人との関わりとその発展に、人間の知恵と微生物の偉大さを知る。
「日本人は、こんな古い時代から微生物の一種である麹カビを手にして麹をつくり、その麹を利用することによって、酒はもちろんのこと、さまざまな嗜好品をつくってきた」
もう一度、和食を見直そう
日本人が日本食を食べなくなり、食生活が乱れてくると、国の社会までもが崩れてしまう。これに警鐘を鳴らし、国民の歴史であり、財産である伝統食の素晴らしさを問い直す。日本酒、握り飯、冷や汁、鍋料理などを例に語られる食の美学、日本料理の真髄に、あらためてその価値を再認識する。
「美味必淡。この日本食の精神を、ここでもう一度噛みしめて、日本食の素晴らしさを感じてもらいたいものである」
発酵食品は知恵の宝庫だ!
この国の「侘び寂び料理」のルーツには、世界一硬い発酵食品である鰹節のうまみ、油脂を伴わない上品な出汁がある。身近な食品から幻の民族酒にいたるまで、さまざまな発酵食品のつくり方、歴史、食べ方、保健的機能性などを紹介。納豆、味噌をはじめとする15種類の発酵食品に人類の知恵を見る章も。
「鰹節は保存がきき、そして何よりもおいしい味をもたらしてくれる発酵食品だが、それとは別にもうひとつの驚くべき素晴らしさに気づいていないのも日本人である」
農と食の問題解決のために
なぜ、「民族食」を守る必要があるのか。農業を活性化させるためにはどうしたらいいか。地産地消が大切な理由は? 崖っぷちの日本の農と食、その再生のカギを握る、日本各地の具体的な取り組みや事例を紹介。これからを担う中高生などの若い世代も、わかりやすく日本の食の問題を学べる本。
「じつは私たち日本人には、長い歴史をつうじて食べてきた「民族食」というものがあります」
昔ながらの食の知恵に学ぶ
日本人は過去に素晴らしい食の知恵を持ってきたことを、現代の人はあまり知らない。そうした食にまつわるさまざまな知恵を約100話紹介。干物や佃煮などの食品加工、調理の工夫、食の風習や味覚文化を見ても、日本人の生み出した食べものがいかにおいしくて理にかなうものであったのかがわかる。
「梅干を飯のおかずにするだけでなく、その殺菌効果を利用して弁当やおむすびの保存性を高めたのも、また、蕗の葉や柿の葉、笹の葉のような植物の葉に、殺菌作用のあることを体験的に知ると、すぐにこれで食べものを包み、葉の快い香りをそれに移しながら、その保存力を効かせて持ち歩いたのも、日本人である」
PROFILE
小泉武夫 こいずみ・たけお
農学博士。醸造学、発酵学、食文化論の専門家。1943年、福島県小野町の酒造家に生まれ、家業を継ぐため発酵道へ。発酵文化推進機構理事長、和食文化国民会議顧問などを務める。
●情報は、『FRaU SDGs MOOK FOOD』発売時点のものです(2021年10月)。
Illustration:sigokun Edit & Text:Asuka Ochi
Composition:林愛子