SHELLY×太田啓子が語る、これからの性教育【後編】
社会的、文化的に形成された、ジェンダーという概念。心理的な自己認識や置かれた環境によって一人ひとりが抱く問題意識は違います。今回は、「これからの性教育」のテーマを軸に、タレントのSHELLYさんと弁護士の太田啓子さんに語り合ってもらいました。
間違いに気づいたら改める
その繰り返しでいい
SHELLY 個人的な実感なのですが、日本の女性の権利を邪魔しているのって、私は“モテ”だと感じるんです。女性が選んでもらう側という刷り込みが、いまだ強く残っていて。だから、選んでもらうために女子力を上げるっていう発想になるんですよね。
太田 モテよりマッチングが大事なのに。ただ、個人的に気持ちはわかるんです。私自身、若いころは「選ばれなきゃ」という意識がありましたから。でも、結局は自分で自分の首を絞めるだけ。未来の女の子には、モテの文化をインストールしたくないですよね。
SHELLY そうですね。そもそも、日本は見た目を重視しすぎだと感じます。悲しいけれど、女の子は社会から外見を評価され、「私はこれでいいのかな」と疑いながら生きなきゃいけない。その環境に負けないためにも、親からは「あなたは完璧だよ」とメッセージを送りたいんです。
太田 見た目を褒める人は問題に気づいていないから、「褒めてるのになぜ悪いの?」という反応なんですよね。
SHELLY 本来子どもはみんなかわいくて、誰もが完璧な状態で生まれてくるんだから、容姿を褒める必要すらない。私も失敗することはありますが、できるだけ内面を褒めるようにしていて。本人が伸ばせることに重きを置いて、“らしさ”をみんなで称えるような社会になれば、子どもはのびのび成長できるんだろうなと思います。
太田 たしかに。そういえば、講演会でよく聞かれるんです。『悪気なく性差別にあたるような言葉を言われたとき、どう返すのがいいですか?』と。SHELLYさんはどう返されていますか?
SHELLY 前に電車で隣り合わせたおばあさんが、うちの子に「美人さんでよかったね。将来、お金持ちと結婚できるよ」っておっしゃったんです。悪気なく褒めてくれただけなんですけど、私は娘を見て「自分で稼ぐもんね~」と明るく返しました。
太田 子どもに投げかけて、上手にアピールするのはひとつの案ですね。
SHELLY 自分の返した言葉が、相手のクエスチョンになるといいですよね。あと、自分の友人と子どもたちのコミュニケーションには難しさを感じることもあります。相手にどこまで求めていいのか。いまはジェンダーの話題になったら、「私はこういうふうに教えているんだよね」って押しつけにならないように伝えています。仲のいい友人には、「子どものNOは絶対受け入れてほしい」ともお願いしていますね。子どもが自分のNOに力があると思えていれば、性被害から自分を守ることにもつながるかもしれないし、自尊心を育てることにもなると思うので。
太田 子どもって、小さいころから尊重されない経験をたくさんするんですよね。たとえば、大人が冗談でからかったり、いじったりするのもよくないなと思うんです。ちょっと怖がらせてドギマギしている子どもを見て、大人が「かわいい」と微笑ましく見ているのはどうなのかなって。
SHELLY それこそ、尊重していないですよね。そういう自分の行動を、ひとつひとつ意識するだけで変わると思うんです。当たり前だと思っている刷り込みに、ひとつひとつフラグを立てる。私も日々、その繰り返しです。少し前まで千葉の郊外に住んでいたんですけど、通りかかった外国人の方を振り返ってしまったんですよ。無意識に「珍しい」って二度見した次の瞬間、「やってしまった!」と気づいたんです。自分も子どものころ、ジロジロ見られたり、「外人」と呼ばれたりするのがイヤだったはずなのに、同じことをしているって。すごく反省しました。
太田 そうやって、自分たちの行動を「見直し合おうよ」でいいんですよね。自分に潜んでいるバイアスに気づいたらあらためる、いまやっていることを見直す。その積み重ねが大事。
SHELLY 段階的でも、いいと思うんです。私もそうでした。最初にやったのは、頭に浮かんだ気持ちや思いを無意識に口にするのをやめること。子どもとテレビを見ているときに、「この人、痩せたね」「太ったね」という話は絶対しないようにしています。太っていたらダメ、痩せるのはいいことと刷り込んでしまわないように。太ろうが痩せようが、その人が健康なら関係のないことですから。それができるようになってきたので、いまは自分の頭の中に浮かぶ考えに、もっと敏感になろうと日々を過ごしています。これは言ってはいけないことか、なぜいけないのかと考えながら、少しでも多くの人の気持ちを理解できるようになりたいなと思っています。
太田 私が今テーマにしているのは“感情の言語化”。「男だから」と言われ続けて、感情を表現できないまま大人になった男性が非常に多い。だからこそ、多くの人が性差別や抑圧について、身近な人となるべく言葉を交わすことが大事だな、と。性差別は私たちの目の前に横たわっている問題なのに、私が生きてきた45年の間、ほとんど状況が変わっていないんです。国会議員が男性ばかり、会社の社長や取締役会も男性ばかりなのが当たり前。逆に会社の取締役会がほとんど女性で、男性がひとりだったら驚くはずなのに、逆だと疑問も抱かない。日常に潜むジェンダーバイアスを減らすためには、気づいた人が口に出していくことが大切。たとえば、会社の会議で「この新規事業、女性が少ないですね」と話題にして、地道に理解者を増やすしかない。そうやって社会環境を少しでもよくすることが、子どもたちの将来を変える。すべての大人が、未来の子どもたちのためにできることだと思います。
PROFILE
SHELLY
1984年生まれ、神奈川県出身。2人の娘の母であり、MCやナビゲーターなど幅広く活躍。現在は『ヒルナンデス!』の金曜レギュラー、『今夜くらべてみました』のMCなどを務める。YouTubeで性教育チャンネル『SHELLYのお風呂場』を開設。
太田啓子 Keiko Ota
弁護士。離婚・相続等の家事事件、セクハラ・性被害などを担当する。2019年に『DAYS JAPAN』広河隆一元編集長のセクハラ・パワハラ事件に関する検証委員会の委員に。2人の息子の母。共著『日本のフェミニズム since1886 性の戦い編』(河出書房新社)。
●情報は、FRaU2021年8月号発売時点のものです。
Photo:Norio Kidera Styling:Kanako Sasada Hair & Make-Up:Junko Takahashi Text:Akiko Miyaura Edit:Yuka Uchida
Composition:林愛子