竹炭にCO2を閉じ込めて畑に─千葉「結び合い農園」の取り組み【前編】
気候危機というグローバルな問題に、いま私たちは何をすべきなのでしょう。まずは、日本において、はじまっているさまざまな取り組みに注目。今回は、ローカルでアクションを起こしている千葉県佐倉市「結び合い農園」を訪ねました。
環境負荷を抑えた農業を
どう実現していくか
緑あふれる農場や、稲穂がたわわに実るのどかな田園風景を思い浮かべると、農業は環境問題とは無縁なのかと錯覚してしまう。しかし、実は農業が環境に与える負荷は、想像以上に高い。気候危機の要因となっている温室効果ガスを見ても、およそ4分の1程度が、酪農・畜産を含む農林業から排出されているのだ。
もっとも顕著なのは、世界的に問題となっている農地開拓のための森林伐採だ。農地にするために山を削って平地を切り拓けば、生態系に多大な影響を与えるだけでなく、地球温暖化にもつながる。開墾したにもかかわらず、やがて地力が消耗して地下水が枯渇すると、すぐにその耕作地を捨て、新しい土地へ移ってしまう人もいる。このように土地の劣化によって放置された土地は、世界で4億ヘクタールにのぼるという。
農業をすること自体、多くのリスクを抱えている。畑を耕すことで微生物が酸素を取り入れて炭素を含んだ有機物を分解し、大気中にCO2が放出される。さらに耕作や収穫などを機械で行う現代の農業は、その規模を拡大すればするほど、化石燃料の使用に大きく依存せざるを得ない場合も。農薬や化学肥料の使用も、環境へ与えるダメージが大きいといえる。散布された農薬や、植物が吸収し切れなかった化学肥料などは、最終的に地下水へと流れ、環境を汚染してしまう。海や川へたどり着いた肥料は、栄養分が豊富になりすぎる「富栄養化」を引き起こし、植物プランクトンの異常発生や赤潮を招き、海の生態系を崩していく。つくられた野菜などは、全国へ輸送され、海外からは輸入され、その過程でもCO2を排出している。
農業による環境破壊をどう食い止めればいいか。私たちが生きるために必要な食物を育てることのリスクと向き合い、できることに取り組む人がいる。その人に会いに、千葉県佐倉市の「結び合い農園」を訪ねた。
人や自然、あらゆる資源の
地域内循環について考える
結び合い農園が目指すのは、地域に密着した持続可能な農業だ。丹上徹さんがパートナーと2人で、ここに小さな農場を構えたのは2012年のこと。少量多品目をつくる季節の野菜は、無農薬・無化学肥料で生産され、地元の飲食店や給食用に卸すほか、地域のいくつかの拠点で対面販売している。地元に密着した有機農業のなかで、近年とくに力を入れるのが、温室効果ガスの削減だ。
「2年ほど前に、パリ協定などを話題にしたラジオ番組を聴くまでは、温室効果ガスよりも原発などの問題に関心を持っていました。番組で、世界がカーボンバジェット(気温上昇を抑えるための温室効果ガスの累積排出量)の上限に、着実に向かっていることを知った。このままだとどう考えても超えてはいけないラインを超えるという事実が衝撃的でした」
個人では太刀打ちできない問題に直面して、途方に暮れたという。
「気候危機の問題って、本当は自分ごとなのに、みんな他人ごとのように考えていると思うんですよね。この先の絶望的な状況にすごく落ち込んでいたところに、それに対して行動を起こすことで気持ちが前向きになるという情報を得て、とりあえず、できることをやってみようと思ったのが始まりです」
そして、石油ストーブを薪ストーブに、電力を再生可能エネルギー100%のものに、風呂の給湯を太陽熱温水器にするなど、身近な家のことから変えていったという。
「でも、個人の生活にまつわることだけでは、焼け石に水だなと。だったら、温室効果ガスをたくさん出している農業という産業にも、同じように取り組んでみようと考えました」
そしていま、丹上さんが畑でもっとも力を入れているのが、周囲で山ほど手に入る竹を利用した温室効果ガスの削減だ。野放図に広がる竹林や里山を整備して集めた竹を乾かし、焼いてバイオ炭をつくる。炭焼きの際に無酸素状態にすればCO2は排出されず、植物が光合成で吸収したCO2を、炭に閉じ込められる。それを農地に散布して、地中に炭素を戻してやることで、作物の生育にもよい影響を与えるのだという。丹上さんの畑では、このバイオ炭を2ヘクタールの敷地内の畑、すべてに撒いている。竹を大量に集めたり、炭焼きしたりする作業は地域でつながった仲間たちとイベント化し、地域の人々にも取り組みを広めている。
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Photo:Tetsuo Kashiwada Text &Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子