竹炭にCO2を閉じ込めて畑に─千葉「結び合い農園」の取り組み【後編】
気候危機というグローバルな問題に、いま私たちは何をすべきなのでしょう。まずは、日本において、はじまっているさまざまな取り組みに注目。今回は、ローカルでアクションを起こしている千葉県佐倉市の「結び合い農園」を訪ねました。
畑に炭を入れる農業を
当たり前にしていきたい
「自分の農業生産で出るCO2くらいは、自分の畑で吸収できればなと。いまバイオ炭を使った畑で栽培した野菜は、『クルベジ』として販売できるのですが、そのうちそんなブランドがなくなるくらい、日本で畑に炭を入れることを当たり前にしたい。そうなれば相当なCO2の吸収源になる。木や竹の資源が豊富にある日本は、バイオ炭に向いている国なんです。いまはムダな手間に見えるかもしれませんが、そのうち誰でもやりたくなるような状態にして、浸透させたいですね」
農地1000㎡あたり年間140kgの炭を入れた畑で栽培され、CO2減少に貢献した野菜は「クルベジ」と呼ばれる。将来的には、消費者がクルベジでないと買わないくらいバイオ炭を広めたいと、丹上さんは言う。
炭を畑に撒くことのメリットは、温室効果ガスの削減だけに留まらない。炭に空いた無数の孔は微生物の住処となり、土壌の生物相を豊かにして、作物の生育を助ける。また、細かい孔に成分が付着して流れ出るのを防ぐので、少ない堆肥や肥料で野菜を育てられる。
増えすぎた竹によって荒廃した里山や竹林を整え、かつ豊かな農作地を育てる、多くの利点があるバイオ炭。これが世界中の農園に広まれば、2050年までにCO2の排出量を0.8ギガトン削減できる可能性があるともいわれている。数少ない有効な手段なのだ。
バイオ炭のほかにも、取り組みはさまざまだ。化学肥料をつかわない代わりに、地元で刈った草でつくった堆肥を使用する。冬場のビニールハウスでは、苗を育てるための電熱線をつかわず、木のチップの発酵熱を活用している。寒い季節に人気の焼き芋や茹でタケノコも、つかうのは薪ストーブの火。野菜販売用のトラックやトラクターの燃料は、近隣の店に野菜を納品する際に回収した廃油を、業者に頼んでバイオディーゼルにしてもらう。ソーラーシェアリングを始める準備も整った。
「ごく一部ですが、畑を覆うビニールシートを使用していたり、堆肥の原料として集めてきた草にプラスチックが混じっていたり、完璧でない部分もたくさんあります。そんな堆肥をつかうなんてという人もいますが、さんざんプラスチックに依存してきたわれわれ世代のことより、次世代のための安心安全を考えなければならない。そのために、今後のリスクを考えて、自分の野菜に関しては、プラスチックに依存しない包装に替えています。その方がプラスチック資材にお金を払うよりいいし、地元にも環元できると思うので」
葉野菜は米袋を開いた紙で包み、その他は新聞紙を折った袋に入れる。これらのリユース資源を使った包装は、地元の社会福祉法人や障害者施設などで折ってもらい、その分のお金を支払っている。徹底して、地域資源が循環する農業の仕組みを考えている。
持続可能な社会のために
最良の選択を
新聞紙に入った元気な野菜たちは、週に4回、地元のレストランやカフェの前など、農園から車で10分ほどの場所でトラック販売される。なるべく地元で販売すれば、輸送に関わるエネルギーや燃料のムダも抑えられる。
「日本だと、有機野菜を選ぶのは『安心安全だから』という意見が多いですが、僕が研修を受けたアメリカでは、農家もお客さんも、『持続可能な農業をサポートしたいから』という理由で選ぶ人が多い。これからの時代は、そういうところのほうが求められるようになるのではないかと思いますね。環境にやさしいことって、経営的にマイナスになったり、利益が減ると思われがちですが、そんなことはないのです。お客さんと直接つながれるような売り方をすれば、野菜も売れて、経営的にもプラスになります。地域の人が地元の農業を支えてくれるというのも、すごく大切なことだと感じますね」
クルベジなどのブランドを通して、環境や地域に循環する農業が普及するようにと、活動に力を注ぐ丹上さん。ここに未来の希望の光を見る、農園の姿があった。
●情報は、『FRaU SDGs MOOK 話そう、気候危機のこと。』発売時点のものです(2022年10月)。
Photo:Tetsuo Kashiwada Text &Edit:Asuka Ochi
Composition:林愛子