「全米一、予約が取れないレストラン」をつくったシェフの信念──「私の料理を支えているのは生産者」【後編】
野菜、ハーブ、魚、肉、卵……、「おいしい」をかたちにするのは、使い手の腕前と素材の力があってこそ。持続可能な方法で育てられ、大切に扱われている素材に未来を見出し料理で表現する、そんな食のプロたちを追いました。世界的に有名なシェフのジェローム・ワーグさんが調理しすぎないことを心がける理由とは? 今回は彼のレシピも紹介します。
「小規模ファーマーを支援して、
その地の風土や文化とつながりたい」
「ザ・ブラインド・ドンキー」ではふだん、生産者たちから直接素材を仕入れているが、たまにファーマーズマーケットへ出かけて、そこで見つけた食材で料理するのは楽しいとジェロームさんは言う。
「マーケットでは、最初に全体を見て回り、何があるか把握する。それが上手な買い物のコツだよ」
そう言いながら、いきなり目についたズッキーニの花を買うジェロームさん。
「満足できるものを見つけたらすぐに買ってよし。だって誰かに買われちゃうかもしれないからね」
と、茶目っ気もたっぷりだ。
「日本語がなかなか覚えられない」と、こぼしつつも、出店している小規模な生産者のたちとは心が通い合っているように見える。
「好みのファーマーが今日も出店しているよ。彼は人柄もナイスだし、先日買った彼の桃は素晴らしかった」
そう言って立ち寄ったのは、山梨の農園「53farm」。ほかにも、仕入れ先でもある「Ome Farm」のスタッフたちと笑顔で挨拶をかわし、近況を報告し合っていた(写真上)。結局、買った野菜はズッキーニの花と葉つきのツル、マイクロきゅうり、チェリートマトにハーブ。店に戻ると、それらを手早く調理する。それが「ズッキーニの花や葉のフリットをのせた夏野菜のマリネ」というひと皿。なんともシンプルで、いつまでも食べていられる軽やかな味わいだ。
1 Go farmers market.
2 Find look delicious and buy something to what you want to eat.
3 Figure out recipe, make something with it.
4 Don’ t be scared.
5 Enjoy!
「よい素材が手に入ったら、調理しすぎないように意識しています。料理は、手に入った素材をどう活かすかも大切だから。それは人生と同じ。recipe for your lifeでもあります」
55歳にして日本に移住し、東京にレストランをオープンしたことが、自分の人生にとっての詩的な冒険=アートだと考えているジェロームさん。日本で、「小規模のつくり手を支援」し、「土地の風土や文化とつながる」ことによって、「日本の農業をすべてオーガニックに戻していきたい」という。それは世界をよりよくするための挑戦であり、人生を豊かにするためのアートなのだ。
ズッキーニフラワーのフリットと
夏野菜のマリネ <レシピ>
ジェロームさんが「サマーフェスティバル」と名づけた、華やかなひと皿。みずみずしい夏野菜のマリネとカリッとしたフリットの食感が絶妙。味つけは、ほぼ塩のみ
◎材料(1人分)
マイクロきゅうり、チェリートマト、カラーピーマンなど季節の野菜…適量
ズッキーニの花と葉(なければ玉ねぎでも)…適量
塩、オリーブオイル、揚げ油…各適量
〈衣〉
べサン粉(米粉でも可)…50g
薄力粉…50g
炭酸水…約150ml
〈アイオリソース〉
卵黄…1個分
オリーブオイル、なたね油…各100ml
塩…ひとつまみ
レモン汁…適量
◎つくり方
❶アイオリソースをつくる。ボウルに卵黄と塩を入れて混ぜ、油を少しずつ加えながらゆっくり混ぜる。よく混ざりあって固くもったりとしてきたら、水を少しずつ加えてよく混ぜ、固さを調整する。レモン汁を加えてよく混ぜ、冷蔵庫で冷やしておく。
❷季節の野菜を食べやすい大きさに切り、塩を振り、オリーブオイルをかけて混ぜる。トマトの水分が出てくるまで数分おく。
❸衣の粉をボウルに入れて混ぜ、もったりするくらいまで炭酸水を加えて混ぜる。ズッキーニの花に衣をからめて、160℃の油で揚げる。
❹②を器に盛り、残ったマリネ液と①のアイオリソースをかけ、③をのせる。
PROFILE
ジェローム・ワーグ
フランス生まれ。21歳で渡米し、カリフォルニアのレストラン「シェ・パニース」で働き始める。アーティストとしても活動しながらヘッドシェフを4年務め、独立。2016年に来日し、東京・神田に「ザ・ブラインド・ドンキー」をオープン。
●情報は、『FRaU SDGs MOOK FOOD』発売時点のものです(2021年10月)。
Photo:Tetsuya Ito Text & Edit:Shiori Fujii
Composition:林愛子