難民支援に乗り出した「らぁ麺 飯田商店」店主が見据えるSDGs【後編】
「大変な思いをして日本に避難してきた難民の方々を、ラーメンでもてなしたい」。2021年に「TRYラーメン大賞」で4連覇を達成、殿堂店として君臨する「らぁ麺 飯田商店」。同店がある神奈川県・湯河原はラーメンファンの聖地ともいわれ、全国から多くの人々が詰めかけています。初冬のある晴れた日、店主の飯田将太氏が姿を見せたのは、鎌倉市内にある「アルペなんみんセンター」。同センターで暮らす難民、ウクライナからの避難民の方々に、“日本一のラーメン“をふるまいました(後編)。
名店のラーメンを口にしたとたん、各国からの難民が笑顔に!
湯河原という場所にありながら、連日満員御礼の行列店「らぁ麺 飯田商店」。整理券制からネット予約に進化しても、予約開始後アッという間に席が埋まってしまうことから、同店の逸品は「幻のラーメン」と呼ばれている。そのつくり手は飯田将太店主(45歳)。つねに理想のラーメンを追求し、小麦や地鶏、黒豚、昆布や海苔などラーメンを構成する具材の生産者を訪ね歩く求道者だ。行動の原動力になっているのは、「食べる人々を笑顔にしたい」という想いだという。
「以前から、『紛争地域や飢餓に見舞われている場所に出向いて、ラーメンを食べたことのない人たちに、本気でつくったラーメンを食べてもらいたい』という思いがあったんです。いったい、どんな顔でラーメンを食べてくれるんだろうと……。単純に興味があるんですよ。いまは、海外にラーメンをつくりに行くということは難しい。それでもなんとかならないかと、いろいろな方に夢を語っていたところ、賛同してくれる人があらわれました。そしてリサーチいただいているうちに、アルペなんみんセンター(以下、センター)にたどり着いたのです」(飯田店主、以下同)
そして2022年11月、ついに実現した「アルペ・ウクライナ交流会 in かまくら」。センターに暮らす各国からの難民、ウクライナから日本に逃れてきた人たち、彼らをサポートする近隣のボランティア、住民などに、飯田店主のラーメンがふるまわれた。
「日本に逃れてきてから少し時間がたっていて、すでに日本のラーメンを食べたことがある方がけっこういたのが残念でしたが(笑)、しみじみ『いいなあ』と感じた一日でした。店にも外国の方はいらっしゃるんですが、飯田商店のラーメンを食べにくる人が大半で、ある意味心構えができていると思うんです。こんなふうに、フラットに食べにきてくれる人々にラーメンをつくると、『ボクはラーメンをつくることが、本当に好きなんだなあ』と実感できる。原点を思い出させてくれて、ありがとうという気持ちです」
長い麺を箸で扱うのに苦労し、フォークをつかったり、麺を短く切りるなど、工夫する難民のみなさん。ラーメンを口に入れると、一様に笑顔になる。「おいしい!」「やさしい味」。感想を述べ合いながら、麺を食べ、スープもおいしそうに飲み干していた。
「難民の方々から、悲惨な状況から逃げ出してきた話を聞いて、つくづくこの空間の平和さが身にしみました。なかには、居どころを知られてはいけないからと、記念写真に写れない方もいる。そういう状況って、すごく寂しいじゃないですか。だからこそ、食べ物を通じて少しでもハッピーな気持ちになってもらいたい。安心して、ゆっくり楽しんでもらいたいと心から思います」
食べ物が人を幸せにする、という事実には、国境も宗教も、民族の枠もまったく関係がない。
「ボクたちは『食べてくれてありがとう』だし、来てくれた方々も『ラーメンをつくってくれてありがとう』という気持ちだと思う。こんな幸せな空間はないですよね」
「発展途上国でラーメンをつくって、雇用にも貢献したい」
今後もセンターと連携しながら、ラーメンを食べてもらう試みを続けていくと飯田店主。
「ボクにとっても、いい刺激になりました。こうした挑戦の先に、『海外に行って、ラーメンを食べたことがない人にラーメンをつくって食べてもらう』という夢が実現するんじゃないかと思っています」
「全国チェーンの『らあめん花月嵐』からラーメンのプロデュースをオファーされたときに、『海外でラーメンをつくりたいという夢があるんですけど、手伝ってもらえますか』と聞いたんです。ちょうど花月嵐もグローバルチェーンを計画中で、ボクの夢にも賛同してくれたので、一緒に商品開発することを決めました」
ゆくゆくは海外の人里離れた、誰にも知られていないような村に支店をつくりたいという。
「『らぁ麺 飯田商店 最果ての地店(仮)』です。どこの国になるのかはまったくわからないんですが……。そこでラーメンをつくる技術を教えて、地域の雇用にも貢献したいんです。そういう夢は、ボク個人の力では叶えられない。ですから商品プロデュースなど、いまのボクにできることを全力で取り組むことで、少しずつ実現に近づけるようがんばっていきたいと思っています」
photo:横江淳 text:萩原はるな