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荻上チキ「どこに生まれても何とかなる、フェアネスな社会を」
荻上チキ「どこに生まれても何とかなる、フェアネスな社会を」
VOICE

荻上チキ「どこに生まれても何とかなる、フェアネスな社会を」

2030年には、平和や差別、エネルギーなど、さまざまな問題の何がどんなふうに叶えられているでしょうか。評論家の荻上チキさんに「こうなってほしい未来」 を話していただきました。

教科書から抜け落ちた
民衆や市民運動の歴史

SDGsの項目は広範囲にわたりますが、僕がメインパーソナリティを務めるラジオ番組では、すべて議論の題材にしてきました。たとえば2018年は、「不平等」「貧困」「教育」の3項目を重要なトピックと考え、取り上げました。杉田水脈衆議院議員が『新潮45』2018年8月号に投稿した論文は、セクシャルマイノリティに対する差別問題についてあまりにも愚鈍であったし、それに対する自民党をはじめ政治家のレスポンスも非常に遅かった。

続いて、麻生太郎財務大臣(当時)が「自堕落な生活をしている人に税金を使うのはやってられない」という主旨の発言で物議を醸したのは同年10月のこと。徴税機能と再分配機能を担う財務省の長が、健康格差、経済格差、文化資本の格差など、各家庭のさまざまな背景の違いについて無理解であることが露呈しました。私は、こうした麻生氏の発言は時代遅れであると同時に、政府の要職に不適格な人材という感想を持たざるを得なかったのですが、「自堕落な者は攻撃されて当然だろう」と、同意する人が少なからずいたのも現実です。

僕は「どこに生まれてもなんとかなる社会」をスローガンにオピニオン活動をしています。それは、病気になったとしても援助の手が届き、どんな家庭であっても教育制度によって一定の教育水準まではしっかりとケアされ、貧困であっても命の心配をすることのない、ある種のフェアネスに基づく社会の実現です。

しかし現在の教育には、そういった多くの権利をいかにして私達の前の世代が獲得してきたかというシビルヒストリーが共有されていないという問題があります。教科書には、まず国家としての歴史観が大きく取り上げられ、その時代のキーパーソンがどう立ち回ったかという話ばかりで、民衆史や市民運動の歴史が抜け落ちているのです。ここ数十年の間にも既存の政治へのカウンターとして、障害者運動や外国人の人権問題といったさまざまな社会運動が立ち上がりましたが、そこで共有されるべき重要なヒストリーが血肉化されていないのは大きな損失だと感じています。

ごみの問題を語れば教育の問題に行きつき、政治の問題を語ればメディアの問題に行きつくなど、SDGsのテーマは複雑に絡み合いながら相互作用をもっています。2030年までに解決しなければならない問題は山積みですが、僕はメディアで発言している人間なので、引き続きラジオや書籍を通して情報を届けることでマインドセットを促せればいいなと思っています。

PROFILE

荻上チキ
評論家。パーソナリティを務める番組『荻上チキ Session-22』(TBSラジオ)は月~金曜の22~24時に放送。特定非営利活動法人「ストップいじめ! ナビ」代表理事。内田良との共著『ブラック校則』(東洋館出版社)他、著書多数。

●情報は、FRaU2019年1月号発売時点のものです。
Illustration:Katsuki Tanaka Text:Toyofumi Makino Text&edit:Asuka Ochi

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