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“沖縄戦終焉の地”で育った俳優・黒島結菜が、平和を築くために伝え続けたいこと
“沖縄戦終焉の地”で育った俳優・黒島結菜が、平和を築くために伝え続けたいこと
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“沖縄戦終焉の地”で育った俳優・黒島結菜が、平和を築くために伝え続けたいこと

「国同士の争いなのに、なぜ民間人の命や暮らしが奪われないといけないのか」。幾度となく繰り返される戦争について、そう訴えかけるのは、俳優の黒島結菜さん。2013年にデビューして以来、さまざまな映画やドラマ、舞台で活躍。2022年には、沖縄の本土復帰50年を記念したNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」でヒロイン役を務め、話題を集めました。出身は沖縄県糸満市。「沖縄戦終焉の地」となったこの町で過ごした子ども時代、戦争の存在はいつも身近にありました。

歴史を振り返ることで、人は学び、成長できる

シャツ、スカート(AURALEE) 中に着たシャツ(CAMISAS MANOLO)、イヤーカフ(BEATRIZ PALACIOS/ともにEsmeralda Serviced Department)

「小学生の頃から平和学習の一環で、平和祈念資料館を訪れたり、戦争体験者の講演を聞きに行ったりする機会があったので、子どもながらに『戦争は他人ごとではない』という思いはずっとありました。『先人たちが戦争という辛い過去を乗り越えてきたからこそ、私たちは今こうして穏やかに暮らせているんだ』と」

俳優の仕事を始めてからは、戦争を題材にした数々のドラマに出演。2020年に放送された、戦争の記憶を語り継ぐ番組「戦争童画集~75年目のショートストーリー~」(NHK)では、沖縄陸軍病院で傷病兵の看護にあたった女学生、ひめゆり学徒隊のひとり島袋淑子さん役を演じた。約3ヵ月にわたり繰り広げられた熾烈な地上戦。病院とは名ばかりの光の届かない暗闇の壕に、次々と運び込まれる瀕死の兵士たち─。相手の攻撃に怯えながらの食事の準備に治療、切断手術の補佐など、不眠不休で働き続けた。最後は集団自決という悲しい結末を迎えるなど、胸をえぐられるような凄絶な苦しみを耐え抜いた島袋さんの生き様は、「戦争を風化させてはいけない」という黒島さんの思いを、一層強くした。

沖縄の歴史を学ぶために購入したという私物の写真集。写真好きとして知られる黒島さんならではのセレクトだ。「地元の海で魚を獲って食べている姿など戦前の暮らしを眺めていると、まだ数十年しか経っていないことが不思議に感じます。日本とアメリカ、どちらの文化もある沖縄は、多様性に満ちた島。沖縄県民は、昔からいろんな物事を受け入れ、自分たちのものにして、強く生きてきたことが伝わってきます」。左から、『沖縄返還 1972年前後』、『沖縄 1935』、『沖縄の記憶 1953-1972』

「お話をいただいたときは、故郷で起こった沖縄戦の作品に出演できることを光栄に思いましたし、自分のするべきことはコレだと感じました。体験者の苦しみは、いくら想像しても追いつかない。ただ戦争の恐ろしさを思い知ったと同時に、この事実は語り継がれなくてはいけないと、強く感じました。ある対談で島袋さんにお会いしたときに何度もおっしゃっていた『戦争は駄目。命を大事にしてほしい』という言葉が、今でもずっと心に残っていて。当たり前のことがいちばん大切なんだと教わりました。そして同じ過ちを繰り返さないためには、やっぱり『忘れないこと』だと思うんです。だから私は役者として、芝居やこうした取材などさまざまな機会を通して、戦争の悲惨さや命の尊さを伝え続けたい」

「忘れないように」と、ことあるごとに戦争の歴史を振り返るようにしている黒島さんは、最近よく思うことがあるという。

「数百年、いえ数千年前から戦争がずっと繰り返されてきた中で、時代はこんなにも大きく進化したにもかかわらず、いまだ殺し合いをしているのはなぜなんだろうって。もっと戦争のあり方も変わってきてもいいのでは、と思うんです。もしどうしても戦争を避けられないのであれば、国のトップが一騎打ちをすればいい。国同士の争いなのに、民間人の命や暮らしが奪われることだけは、本当に許せないから」

世間の動向を、落ち着きながらも鋭い眼差しで見つめる黒島さんは、「思いやりこそが、平和な世界をつくる」と続ける。

「一人ひとりの恨みや憎しみが少しずつ周囲に伝播(でんぱ)し、手のつけようのない大きなうねりとなり、戦争につながっている気がするんです。なのですべての人がもっと家族や友だち、恋人など身近な人をやさしく思いやれたら、平和な世界は訪れるのではと思っていて。だから私は、いつも自分に対して客観的な視点をもつように心がけています。そうするとたとえイライラしたり、感情が乱れることがあっても、冷静さを取り戻せて、心穏やかにいられるんですよね」

仲のいい友人らと集まると、戦争の話はもちろん、社会に対する疑問や思いを語り合い、情報交換を楽しむ。世の中に関心を向け、自分の意見を持つことの大切さをよく知っているからだろう。「最後に」と、少し真剣な眼差しでこう語った。

「沖縄は観光産業で成り立っている面もあるから、たくさんの人に遊びに来てもらいたいです。けれどただ楽しい側面だけじゃなく、資料館などに足を運んで沖縄戦のことなど悲しい歴史についても知ってほしい。『旅行に来てまでそんなこと……』と、思う人もいるかもしれないけれど、旅行が楽しめる今があるのも、戦争で戦った人たちがいるからってことが、わかるはずだから。そう考えると『知る』ことで見える景色って、違ってくると思いませんか」

PROFILE◆黒島結菜 くろしま・ゆいな 俳優。2020年映画『カツベン!』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。22年NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』でヒロインに抜擢。

●情報は、FRaU2023年8月号発売時点のものです。

Photo:Masanori Kaneshita Styling:Ayano Nakai Hair & Make-Up:Momiji Saito(eek) Text & Edit:Nana Omori Composition:林愛子

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