過疎にあえぐ小菅村の一発逆転プラン!「村まるごと、ひとつのホテル」
高齢化や過疎、都市部への人口集中など、日本各地のコミュニティはさまざまな問題を抱えています。そんななか、「人とのつながり」に焦点をあて、新たな方法でコミュニティを再生させようとする地域や団体が増えています。今回は山梨県・小菅村の事例から、これからのコミュニティのあり方を探りました。
700人の村をホテルに。
人の魅力で地域を再生
驚きの方法で過疎や観光客減少の問題を解決しようと取り組んでいるのが山梨県北都留郡の小菅村。東京都と山梨県の境に位置する山間の村で、かつては養蚕や農林業で栄え、人口も2200人ほどだったが、近年は高齢化が進み、約700人にまで減少。100軒以上の空き家が放置されていた。
そこで地域活性化を任されたのが、持続可能な地域づくりのトータルコーディネートを請け負う「さとゆめ」代表取締役の嶋田俊平さん。2015年には温泉やアスレチック施設を併設した「道の駅こすげ」をプロデュースし、多摩川源流の自然を五感で楽しめる「体感型道の駅」を開業した。JR大月駅から村までの間にトンネルが開通したことも追い風となり、観光客は年間8万人から22万人に増加。その手腕を買われ、より抜本的な村の活性化を任された。
「道の駅のオープンによって観光客は増えましたが、村に泊まってくれる方はまだ少数。そもそも村に4軒しか宿がなかったので宿が必要でしたが、お金も土地もない……。そこで考えたのが、村にある空き家をホテルにすること。せっかく村じゅうに空き家が点在しているのだから、その一軒一軒を客室ととらえて、村全体がひとつのホテルというコンセプトを立てたんです」
ヒントにしたのは兵庫県の丹波篠山市(たんばささやまし)にある「篠山城下町ホテルNIPPONIA」。地域内に点在する空き家を活用した分散型古民家ホテルで成功を収めていた。嶋田さんは篠山での事業を手掛けた「NOTE」に声をかけ、さらに道の駅を運営する「源」と合同で、「700人の村がひとつのホテルに」プロジェクトをスタートさせた。
2019年に開業した「NIPPONIA小菅源流の村」の中心となるのは、「大家」の愛称で親しまれてきた旧・細川邸。かつて養蚕で栄えた村いちばんの名家で、重厚な趣の日本家屋のまわりに緑豊かな庭園が広がる。
「ぜひこの大家を後世に残してほしいというのが村長さんはじめ、村の人びとの願いでした。改装にあたっては、長い歴史と思い出が刻まれた梁や柱はできるだけ活かし、遺されていた糸紡ぎ機や水車の歯車などもインテリアとして活用することにしました」
重厚感とモダンさを併せ持ったスイートルームなど4室を備える大家に対して、よりプライベートな空間が魅力なのは「崖の家」。谷に迫り出すように建つ築100年超えの古民家を2階建てに改装したコテージだ。窓から見えるのは一面の緑。これぞ多摩川源流という風景だ。夕食はレストランでのコース料理という大家とは違い、キッチンを完備した崖の家は自炊。自家菜園で野菜を収穫し、あらかじめ用意されている地元の川魚や地鶏などを材料に料理を楽しめる。
「小菅村の最大の魅力は、ホテルの番頭夫婦を含むホテルのキャスト全員が村人であるという点。大家のレストランや崖の家で用意する食材は地元の方々が育てたもの。野菜の収穫体験も地元農家さんの協力です」
ホテルに活けられた花や、手入れの行き届いた日本庭園、駅からの送迎もみんな村人の手によるもの。大家の隣に住む細川春雄さんは、村のお散歩ガイドも担当する。
「大家が空き家になって以来、村の灯が消えてしまったみたいで寂しくてね。それが宿になると聞いて、とてもうれしかった。私らにとっては何もない村ですが、お客さんを連れて散歩に出ると、『落ち葉を踏み締めて歩くのが感動!』など、すごく喜んでくれる。小菅村ってすごいんだな、いいところなんだなと思えて、私自身うれしいですし、楽しい」
こうした村民たちの協力を得られたのは、長くこの地で活動してきた嶋田さんと、番頭として移住してきた谷口峻哉さん・ひとみさん夫妻の存在があってこそだ。
「谷口夫妻はオープンの半年以上前から村で暮らし、村の一員として交流を深めてきました。開業する頃には孫のようにかわいがられるようになっていて、『谷口くんの頼みなら、ひと肌脱ぐか!』という方がたくさん現れました。小さな村だからこそできたことだと思いますが、やっぱりそこには人と人の関わり、気持ちの交流が欠かせませんでした」
団地や商店街、そして村。規模や再生に向けたコンセプトは違えど、成功の裏に必ずあるのは「地域や人とのつながり」。どの再生に携わった人も「コミュニティの再生は一朝一夕ではできない」と声を揃える。人の思いや応援が連鎖し、循環していくこと。それこそが、コミュニティに新しい魅力を与えるパワー。再生のキーワードなのだ。
●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Photo:Tetsuo Kashiwada Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子
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