「紙糸で編んだ服」はアパレルの未来を変えるか
衣服の原材料とその調達、製造から廃棄にいたるまで、あらゆる段階で環境に影響を与えているアパレル産業。環境への負荷を抑えるため、オーガニックコットンやペットボトルを再生したリサイクルポリエステルを採用するなど、さまざまな取り組みが進んでいる。今回は「紙からできた糸」を用いたプロダクトで課題解決を目指すアパレルブランド「WA.CLOTH® ESSENTIAL(ワクロス エッセンシャル、以下ワクロス)」をピックアップ。
紙糸はサステナブルな植物「アバカ」からつくられる
紙からできた糸=紙糸の原料は、3年ほどで高さ5mにもなる、東南アジア原産の早期育成植物「アバカ」。和紙の原料・ミツマタに似た構造を持ち、見た目はバナナの木に似ていて、切り倒しても残った根からすぐ再生するサステナブルな植物だ。繊維は長く柔軟でありながら強靭、軽量のため、衣服だけでなく紙幣や船舶用ロープなど、耐久性を求められるものに使われている。
ワクロスが使う紙糸は、フィリピンやインドネシアから輸入したアバカの繊維を、日本の職人がいったん紙にしてから、特殊な機械で撚ったもの。撚り具合や細さにとことんこだわっているという。
紙糸でいったん編地をつくり、水洗い、天日干しをした後に解いて、糸全体に独特の伸縮性と膨らみをもたせる。こうして手間ひまかけた紙糸を用途に応じて化繊と交撚することで、紙と化繊それぞれの特長を活かしたハイブリッド素材とし、幅広く活用しているのだ。
紙糸でできた生地は、吸放湿性に優れ、暑い季節もムレを感じにくい。紙糸の中心には空洞があるため、夏涼しく、冬は暖かいのだ。そもそも強靱な繊維なので、洗濯を繰り返してもヨレたりせず、もちろん天然由来の素材のため、生分解性を備えている。
2022年秋冬コレクションには、紙糸の軽さを活かしたオリジナルのトレンチコートやパンツなどが登場するので、機会があれば、その素材感を実感してみてほしい。
環境に配慮した紙糸プロダクツは、アパレル産業の未来を変えるだろうか。
構成・文/大森奈奈