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マレーシアの未来のために!ゼロ・ウェイストへの闘い【後編】
マレーシアの未来のために!ゼロ・ウェイストへの闘い【後編】
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マレーシアの未来のために!ゼロ・ウェイストへの闘い【後編】

2018年7月、中国などに続いてマレーシアでもプラスチックごみの輸入規制を講じることになりました。にもかかわらず、19年5月には、不法にプラスチックごみが輸入され、摘発によって日本を含む輸出国へと送り返されるという事件が。

かつて経済的な理由でごみの引き受け国だった東南アジアの国々も、大きく変わろうとしています。マレーシアのなかでも先鋭的な取り組みが多く見られるのがペナン州。日本ではリゾートとして知られているこの工業地帯で、熱いパッションを持った人々に話を伺いました。

▼前編はこちら

ペナン初のゼロ・ウェイスト・ショップ&
ボランティアによるリサイクルセンター

アルミ製のストロー、木製のカトラリー類、コットンの生理用品などを、日常的に持ち歩く必需品として提案している。なつかしのヘチマも自然派のスポンジとして販売されていた。

ごみを減らす生活を実践し、そのための店がないからと、パートナーとともにペナン初のゼロ・ウェイスト・ショップ「Owl Bulk Store」を開いたジョ・シムさん。「Owl」は0(Zero ) Waste Livingの略だ。シムさんは「一見、不便に思える生活も、いったん受け入れてしまえば、それほど苦ではない」と笑う。

食器用洗剤や衣類用洗剤も量り売りしてくれる。洗剤はエンザイム(酵素)を利用したものだ。

「当時はカフェでオーダー時に『ストローはいらない』と伝えても、カップにストローが刺さった状態で渡されるなど、周囲の理解は得にくい状況でした。でも、それなら最初から温かい飲み物を頼めばいいかと(笑)。私たちのほうから少しずつ考え方を変えていきました。Owl Bulk Storeでは、自分の経験に基づいて必要なものを揃えています。できるだけ多くの人にゼロ・ウェイストをはじめてほしいから、価格を抑えることも大事。だから食品もすべてオーガニックというわけではないんです」

扱う食品は、ドライフルーツ、ナッツ類から、醤油などの調味料、駄菓子まで幅広い。小ロットで仕入れているために価格を抑えるのは難しいが、それでも一般スーパーとほとんど変わらない値段は維持する。

もちろん、地元の生産者やサプライヤーを使い、前編で紹介したNak.Ed Farmの石鹸なども扱っている。白い空間にDIYの什器、簡素であっても豊かさを感じさせるショップには、さまざまなタイプの客が訪れるという。富裕層だけでなく、大学生などエコ・コンシャスな若者が、持ち帰り用の容器を手にやってくる。その姿に、自立を美徳とするペナンの人々の気骨がうかがえる。

100人以上のボランティアによって営まれているリサイクルセンターでは、プラスチックによる海の汚染、牛乳パックに使われるアルミの混合素材を分別すればチップボードとして使えること、ペットボトルから糸がつくれることなど、さまざまなことを来訪者に教えている。リサイクルで得た収益はすべて慈善事業に使われ、ボランティアが炊き出し用の食事をつくることもある。/Tzu Chi Sungai Nibong Recycle Education Centre

ペナンの一部のコミュニティでは、ボランティアによるゴミの分別、リサイクルという流れができあがっている。取材したリサイクルセンターは、台湾系の宗教団体「慈濟」が主宰していた。取材中にも次々と家庭ごみが持ち込まれ、それぞれ袋に分別されていく。まだ比較的きれいな新聞紙は包装紙として再利用すべく、角を揃えて重ねられていた。ビデオテープなどは分解され、素材別に分けられていく。すべてボランティアの手によるものだ。

「ツーチースンガイニボンリサイクル教育センター」も慈善団体のボランティアによって運営されている。次世代の環境教育の場所としても活用され、細かなゴミ分別義務のないマレーシアにおいて、大きな役割を果たしてきた。

マレーシアで最初に「グリーンステート」宣言をしたペナンには、州政府による環境協議会「ペナン・グリーン・カウンシル」があるが、それに任せるだけでなく、住民自らのアクションも多い。そうした小さなアクションがコミュニティとなり、複数のコミュニティがつながって、ペナン・グリーン・カウンシルとも協働する。ペナンの未来を見据えた活動は、熱く、勢いを増している。

高性能ごみ焼却施設のない
ペナン州がとるべき道とは

マレーシアのごみの平均リサイクル率は17%だが、ペナン州は43%を超える。その環境活動を牽引しているのが前述の州政府機関、ペナン・グリーン・カウンシル。タン・メイリン代表は言う。

「かつてペナンはマレーシアのなかでも『汚い州』といわれていたんです。あちこちに捨てられたプラスチック容器に水がたまってボウフラがわき、蚊が大量発生してデング熱を媒介することが問題となっていました。10年ほど前にペナン州の政権が変わって、大きくグリーン・ステートに舵を切りました。海洋プラスチックごみに関わる取り組みでは、スーパーマーケットなどのプラスチックバッグを段階的に削減してきました。まずはプラスチックバッグにお金を払わなければいけない曜日を設定し、次にすべての曜日で有料にして、さらには、お金を払ってもプラスチックバッグを買えないようにする。『No Single Use Plastic』の啓蒙活動をして、それから政策を実行していく。今後もあらゆる立場のステークホルダーと対話をして、実現していかなければなりません」

スーパーなど比較的管理しやすい業態だけでなく、庶民の台所である屋台にも活動を広げている。プラスチック容器から紙のボックス、タンブラーへ。ペットボトルからウォーターディスペンサーへ。代替案を提示しつつ対話を進めている。

「安くて便利なものを求める気持ちを変えることは難しいですが、プラスチックごみは喫緊の課題であることを伝え続けています。日本と違って、ペナンには高性能な焼却施設がありません。あと25年ほどで地域のゴミ処理施設は満杯になるとの試算があります。ペナンとしては、ゴミを元から断つ「リデュース=Reduce」が唯一の解決策だと思われます。何かを買う前に立ち止まって考え直す「リシンク=Rethink」の習慣を啓蒙していく必要がある。そのために、私たちがいるんです」

●情報は、FRaU SDGs MOOK OCEAN発売時点のものです(2019年10月)。
Photo:Norio Kidera Text:Toshiya Muraoka Coordination:Wong Lai Yong Edit:Chizuru Atsuta

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