富士山の麓「青木ヶ原樹海」は怖くない! 心洗われる原生林でパワーチャージ【後編】
「一度足を踏みいれたら、二度と出られない」などという都市伝説があるなど、ネガティブなイメージが先行してきた富士山・青木ヶ原樹海(山梨県)。けれども実は、富士山の噴火によって流出した溶岩が固まり、その上に樹木が生い茂っている神秘の森なのです。緑鮮やかな苔に覆われた溶岩には古木が根を張り、太古より人々の生活に活かされてきた溶岩洞穴が点在。見どころ満載の樹海を満喫できる遊歩道を、実際に歩いてみました(後編)。
まるでジブリ映画の世界! 生命力に満ちた森の風景
国の天然記念物にして世界文化遺産にも指定されている貴重な自然遺産、青木ヶ原樹海。日本のシンボルである富士山の火山活動によって約1200年前に生まれた、比較的若い原始林だ。山梨県富士山科学研究所の火山の専門家、内山高さんの案内で、さっそく樹海を横切る東海自然歩道(青木ヶ原自然歩道)に足を踏みいれた。
「富士山の溶岩は周囲16㎞四方に広がっており、深さは100m以上に及びます。これらは貞観6年(864年)の噴火によって流出した溶岩で、富士山の麓にあったセの海(現在の西湖、精進湖、本栖湖)に流れていきました。おもに玄武岩と火山岩からなる溶岩の上に、長年にわたって茂った森が青木ヶ原樹海です」(内山さん、以下同)
うっそうと茂った原生林。モミ、ツガ、ブナなど樹齢300年以上の大木と、溶岩を覆う緑深い苔が共生している
東海自然歩道は東京「明治の森高尾国定公園」と、大阪の「明治の森箕面国定公園」を結ぶ総延長1697.2kmに及ぶ長距離自然歩道。青木ヶ原自然歩道は、このなかでも一番魅力的なハイキングコースとされ、モデルコースとして最初につくられたという。今回歩いたのは、富岳風穴と鳴沢氷穴、2つの溶岩洞窟を結ぶ、約30分間で歩ける区間だ。
「このあたりは平坦なパホイホイ溶岩が多く、非常に歩きやすいエリア。堅い溶岩の上に木々が生えているため、根っこが地中まで張られずに横に広がっているのが特徴です。根が浅いため台風などで倒れやすく、倒木がたくさん見られるのも樹海ならでは。異なる種類の木がお互いを支え合いながら上に伸びているようすなども見られ、自然の生命力を感じられます」
「方位磁石が利かなくなって迷う」というのは、ほぼ都市伝説。まれに磁石を狂わせる岩もあるが、溶岩から30cm以上離して持てば、針はちゃんと正しい方位をさす
苔むした溶岩と横に根を張った木々、うっそうと茂る葉の間から注ぐ太陽の光は、おそらく1000年以上もの間変わらない景色なのだろう。とても美しく、荘厳ですらある。スタジオジブリの映画に出てくる、不思議な生きものたちと、ばったり出くわしそうだ。
「大学生などを案内すると、みなさんそう言いますね(笑)。同じような風景が続くのですが、整備されたコースを歩けばまず迷うことはありません。道に迷ってしまう原因のひとつに、人間の習性があると考えられています。私たちはまっすぐ歩いているつもりでも微妙に右へ右へと行ってしまい、斜面を横切るときは自然と高いほうに歩いていってしまう習性があるため、結果として同じところをグルグル回ってしまうんです。ただ、いまは多くの観光客で賑わっていますし、スマホで地図アプリも見られるので、安心して散策を楽しめますよ」
山梨県富士山科学研究所所属、火山の専門家である内山高さん。青木ヶ原樹海で最も好きなスポットは、国指定天然記念物の富士風穴だという。「入洞には富士河口湖町教育委員会の許可が必要なため一般の方々は入れず、いまも自然のままの姿が残されているんです」(内山さん)
30分ほど比較的平坦な原生林を歩いたのちに、鳴沢風穴の入り口が見えてきた。この溶岩洞窟は、噴火によって流れ出た溶岩が、徐々に冷めて収縮する際に、内部に溜まったガスが噴出してできた空洞。地下21mに及ぶたて穴型の洞窟で、入り口から階段を降りていくと、ひんやりとした空気に包まれる。
水道がなかった時代につかわれていた古井戸の跡や、天然氷を切り出してできた氷の壁の再現などが見られる洞内。天井の高さ91cmの地点では、かがみつつカニ歩きで進む
「氷穴」という名のとおり、こちらでは一年中天然の氷が見られる。春の雪解け水が天井からしみ出してしたたり落ち、凍った状態で積み重なっていくのだという。冬から春にかけて形成され、真夏でもなくなることはない。狭い洞内階段を上り下りし、ときにはかがみながら進む洞窟見学は、探検気分に浸れる楽しい体験だった。
夏限定! インパクト&おいしさ抜群の桃パフェ
いろいろな花が咲き誇る春から初夏、自然の「涼」を体感できる夏、美しい紅葉が見られる秋、雪の上に残る動物たちの足跡が楽しめる冬と、四季折々の魅力をもつ青木ヶ原樹海。
「紅葉のころには富士山が雪化粧をはじめて、とても美しいですよ。早朝や夕方には、いろんな鳥のさえずりも聞こえてきます。四季を通じて楽しめるだけでなく、富士山の成り立ちや火山についても学べるでしょう。より深く青木ヶ原樹海を楽しみたい方は、ガイドツアーに参加するのもおすすめです。ただし近年では、『恐怖動画』『検証動画』などを撮影しようと、禁じられた区域に足を踏みいれ、自然を荒らす人々が問題になっています。ぜひルールを守って、自然を守りながら、青木ヶ原樹海ならではの自然を満喫してください」(内山さん)
山梨県を離れる前に、河口湖畔から富士山を望みに「富士大石ハナテラス」へ立ち寄った。こちらは、山梨発のグルメや雑貨などを提供する、花と緑がいっぱいの施設。咲き誇るラベンダーの香りに包まれながら見る富士山は、かつての噴火活動が嘘のように雄大で平穏なようす。訪れた観光客はみな、大きな富士山をスマホで撮影していた。
河口湖の後ろに見える、夏の富士山。山小屋や山道には、世界中から訪れた登山客でいっぱいなのだろう
富士大石ハナテラス名物「季節のフルーツパフェ 桃」は、地元果樹園から届いた完熟桃をまるごと使用。フルーツ王国・山梨だからこそ味わえる、とろける甘さとジューシーさがたまらない。季節限定で、秋にはシャインマスカットが登場!
富士山の成り立ちや麓に広がる青木ヶ原樹海のヒミツ、それらを活用しながら暮らしていた地元の人々の息吹が感じられた今回の樹海ツアー。「怖い」と感じることは皆無で、むしろすがすがしく、パワーチャージできた一日だった。
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